火山性地震
火山研究解説集:有珠火山 by 産業技術総合研究所・地質調査総合センター
- 2000年噴火前兆地震の震源分布
目次 |
はじめに
有珠火山の噴火は顕著な地震活動を伴います.噴火の概要で見られるように,過去の噴火活動において,特に前兆地震は噴火を予測する上で重要な役割を果たしてきました.ここでは,2000年噴火に伴って発生した特徴的な火山性地震の活動を紹介します.その前に,2000年噴火が他の時期の噴火と比べてどのようなものであったかを明確にするために,噴火と地殻変動の継続期間の観点から簡単な比較してみました.
噴火の多様性
有珠火山の噴火は山頂から山麓に至る範囲で発生しています(図:有珠火山の地形と過去の噴火痕跡).そして,関与したマグマは珪長質で化学組成はほぼ類似しているにも関わらず,爆発的マグマ噴火,溶岩ドーム形成,水蒸気爆発等の噴火様式の多様性が認められています.山麓に着目すると,過去の噴火による火口や隆起を示す地形が有珠火山の北西から東にかけて円弧状に分布しており規則性が認められます.そのような噴火位置の規則性に対して,噴火様式の位置依存性も見られます.山頂噴火の際には爆発的マグマ噴火を伴うが,山麓の場合はそのような噴火を起こしておりません(例えば,横山ほか,1973; 曾屋ほか,1981; 中川ほか,2005).
活動期・静穏期の時間スケールを感覚的に示すため,20世紀以降に発生した4回の噴火の活動期間をひとつの時間軸上に表しました(図:(a) 有珠火山の20世紀中の活動期と(b) 各活動期の爆発および隆起時期).過去の噴火活動では,爆発現象を伴わないものの長期にわたる新山の成長が起きている時期もあります(参照:噴火の概要).この図では隆起現象が継続した期間も噴火活動期とみなしています.1911年噴火から2000年噴火までの期間は,23年から34年の間隔で噴火活動期を迎えています(参照:歴史時代の噴火と噴出物).噴火時期には大規模な地殻変動や活発な群発地震活動を伴う特徴があります.
一方,静穏期には噴火活動期に発生するような群発地震活動は認められませんが,1977年噴火と2000年噴火の間の静穏期には隆起域における長期的沈降が観測されています(例えば,Jousset and Okada., 1999; Aoyama et al., 2009).
4回の噴火で最も活動期間が長かったのは1977年噴火(活動期間は1977年から1982年まで)で,爆発現象が停止した後も潜在ドームの成長が続きました.一方,2000年噴火(活動期間は2000年から2001年まで)では北西山麓の隆起は4ヶ月程度で停止し沈降に向かいましたが,水蒸気爆発はおよそ1年半継続し,爆発現象の継続期間は4回の噴火活動のうち最も長いようです.
4回の活動を見る限り,溶岩ドームの形成(1943年噴火)や爆発的マグマ噴火によってマグマに起因した火砕物を多量に噴出した活動(1977年噴火)の方が隆起現象の継続期間は長いようです.
2000年噴火の地震活動
2000年噴火は3月31日13時07分頃,有珠火山北西山麓で始まりました. 地球物理学的研究からみた地下構造の項で紹介した3次元速度構造に対して求められた,2000年噴火前兆地震の震源分布(Onizawa et al., 2007;図:3次元速度構造に対して決定された2000年噴火前兆地震の震源分布)と噴火の始まった場所(図(a)の赤丸,図(b),図(c)の赤矢印)を示します.
前兆地震の捉えられはじめた3月27日午後から,北西山麓にて最初の噴火が発生する3月31日13時07分までのおよそ4日間が,噴火前兆期に相当します.この期間は有珠火山全体に及ぶ全山的隆起と活発な地震活動とで特徴づけられます.3月31日にマグマ水蒸気爆発として始まった噴火活動は,4月上旬には繰り返し発生する水蒸気爆発へ移行し,2001年9月まで継続しました.
噴火活動の開始とほぼ同期して活発な地震活動は収束し,地殻変動も北西山麓の噴火地域での局所的隆起(図a赤線)へ移行しました.局所的隆起は2000年8月後半まで継続し,その後は沈降へと転じました.
前兆地震活動
2000年噴火に伴う地震活動は噴火前兆期が最も活発で,噴火開始後は次第に収束しました.
噴火前兆地震は3月27日午後から検出されはじめ,28日午前中に地震活動の最初のピークを迎えます.この時期の震源は山頂火口原西側下に集中しています(図:3次元速度構造に対して決定された2000年噴火前兆地震の震源分布の赤点).
地震活動は一時沈静化に向かいますが,28日夕方から再び活発となり,震源域は北方へも拡大しはじめました.そして前兆地震活動は29日夕方から新たな局面をむかえます.活動が急激に活発化し気象庁発表のマグニチュード(MJMA)が4を越える地震も起こりはじめました.また震源域は山頂下だけでなく南方へも拡大し始め,30日に頻度,規模ともに前兆地震活動のピークを迎えました(図の黄点).その後,徐々に活動が衰退していく中,31日に北西山麓にて噴火が始まりました.なお,今回の噴火に伴う最大地震(MJMA=4.6)は,噴火活動が開始した後の4月1日に発生しています(例えば,Oshima and Ui, 2003).
前兆地震開始当初から前兆期を通し,山頂火口原下西寄りに地震の活動域があります.これは全山的隆起中心(森・宇井,2000)のほぼ下に相当します.
また震源の深さは海水準下およそ4kmから2kmであり,重力変化から推定された変動源(古屋ほか,2001)付近になります.これらのことから噴火前兆期に山頂火口原下で起きていた地震活動はマグマ上昇を反映したものであったと推定されます.一方,北方,南方へ震源域を拡大していった地震活動について,Onizawa et al. (2007) ではマグマの貫入の可能性を指摘しています.大局的には南へ向かい深くなる基盤構造に沿うように震源が分布する特徴が認められています.
参考文献
Aoyama, H., Onizawa, S., Kobayashi, T., Tameguri, T., Hashimoto, T., Oshima, H. and Mori, H. Y. (2009) Inter-eruptive volcanism at Usu volcano: Micro-earthquakes and dome subsidence. J. Volcanol. Geotherm. Res., vol.187, p.203-217.
古屋正人・大木裕子・大久保修平・前川徳光・大島弘光・清水 洋(2001)有珠山2001年噴火活動に対する緊急重力測定―絶対重力観測網の構築と噴火前後の重力変化―. 地震研究所彙報,vol.76,p.237-246.
Jousset, P. and Okada, H. (1999) Post-eruptive volcanic dome evolution as revealed by deformation and microgravity observation at Usu volcano (Hokkaido, Japan, J. Volcanol. Geotherm. Res., vol.89, p.255-273.
森 済・宇井忠英(2000) 2000年有珠山噴火の地殻変動と噴火活動について.自然災害科学,vol.19,p.383-390.
中川光弘・松本亜希子・田近 淳・広瀬 亘・大津 直(2005)有珠火山の噴火史の再検討:寛文噴火(1663年)と明和噴火(1769年)に挟まれた17世紀末の先明和噴火の発見.火山,vol.50,p.39-52.
Onizawa, S., Oshima, H., Aoyama, H., Mori, H. Y., Maekawa, T., Suzuki, A., Tsutsui, T., Matsuwo, N., Oikawa, J., Ohminato, T., Yamamoto, K., Mori, T., Taira, T., Miyamachi, H. and Okada, H. (2007) P-wave velocity structure of Usu volcano: Implication of structural controls on magma movements and eruption locations. J. Volcanol. Geotherm. Res., vol.160, p.175-194.
Oshima, H. and Ui, T. (2003) The 2000 eruption of Usu volcano. Reports on volcanic activities and volcanological studies in Japan for the period from 1999 to 2002, p.22-31.
曽屋龍典・勝井義雄・新井田清信・堺幾久子(1981)有珠火山地質図.火山地質図2,地質調査所.
横山 泉・勝井義雄・大場与志男・江原幸雄(1973)有珠山, 北海道防災会議, 254p.