有珠火山のおいたち

火山研究解説集:有珠火山 by 産業技術総合研究所・地質調査総合センター

火山研究解説集:有珠火山
1. まえがき
2. 地形,地質概要,噴火史,火山活動の特徴
おいたち 歴史時代の噴火 噴火の特徴 岩石
3.マグマだまりと地下構造
マグマだまり 地下の構造
4. 噴火と変動
噴火の概要 火山性地震
地下水 噴出物と噴火様式 マグマの破砕 火山ガス
衛星画像
5.リンクお問い合わせ

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  • 洞爺湖と有珠火山の全景(撮影:瀬尾 央)

目次

有珠火山の位置

日本における有珠火山の位置.参考:産総研地質調査総合センター「日本の第四紀火山」

有珠火山は西南北海道の胆振地域にあり,洞爺湖町・壮瞥町・伊達市にまたがっています. 太平洋プレートの沈み込みに伴う火山フロント上に位置しますが,有珠火山はちょうど東北日本弧と千島弧の接点,すなわち火山フロントの屈曲点付近に当たっています (図:日本における有珠火山の位置)


南は内浦湾(噴火湾),北は洞爺湖に臨む風光明媚な地にあり,麓には洞爺湖温泉を抱え,北海道随一の観光名所になっています.ここからは,蝦夷富士とも呼ばれる羊蹄山,さらには条件が良ければ海の向こうの北海道駒ヶ岳まで見渡せます (図:北海道における有珠火山の位置)

北海道における有珠火山の位置

もちろん,有珠火山にも見どころはたくさんあります.赤い岩肌が印象的な昭和新山,生々しい火山地形や災害の跡を未だに残す2000年噴火の火口群,外輪山の展望台とそこから眺める山頂のドーム群に銀沼火口,などはその代表的なものです.これら風景のほとんどは,温泉の恵みとともに,火山活動によって生まれたものです.

洞爺湖有珠山地域は,このように大地の恵みの宝庫です.そこで,こうした観光資源や火山遺構などを含めた地域全体を博物館としてみなす「エコミュージアム」構想が,2000年噴火のあと進められてきました.そして,2008年には「日本ジオパーク」に,2009年には「世界ジオパーク」に日本で初めて認定されています.

洞爺カルデラと有珠火山

有珠火山の前に広がる洞爺湖は,直径約10kmのカルデラ湖です.約11万年前,現在洞爺湖のある場所で巨大噴火(大規模火砕流噴火)が起こりました.地下のマグマが短時間に大量に放出された結果,マグマ溜まりが空洞化して天井にあたる地盤が崩壊し,地表には大きな陥没地形ができました.これが洞爺カルデラで,そこに水が溜まってできたのが現在の洞爺湖です (図:洞爺カルデラの地形)

洞爺カルデラの地形(門村ほか,1988).

このときの噴出物が洞爺火砕流堆積物で,その総量は20km3以上に及びます.噴き上げられた火山灰は150km3を超え,日本各地に広く分布し,有数の広域テフラとして知られています(町田・新井,2003).

洞爺火砕流堆積物の岩質は輝石流紋岩で,長流川下流左岸では厚さ10m以上の火砕流台地をなしています.大きく上下2枚のフローユニットが認められ,下位が淡紅色火山灰流,上位が帯紅灰白色の軽石流(いずれも非溶結)からなっています (図:洞爺火砕流堆積物の露頭写真)

洞爺火砕流堆積物の露頭写真

その後,洞爺カルデラの中央で中島火山が活動しました. 中島火山は,輝石角閃石安山岩の溶岩ドーム群です. そして,洞爺カルデラの南の縁には有珠火山が生まれました. 有珠火山は,中島火山とともに,洞爺カルデラの後カルデラ火山ということになります.

有珠火山の地形と形成史

有珠火山は,底面の直径が6〜7kmほど,高さが733m(大有珠の頂部)の小さな山です.その本体は,富士山型の小型の成層火山体で,山頂部には直径1.8kmの火口(あるいは山頂カルデラ)があります.この火口原の中や山腹には,いくつもの溶岩ドーム(大有珠・小有珠など)・潜在ドーム(明治新山など)が載っています (図:北西から見た有珠火山)

北西から見た有珠火山

有珠火山の形成史は,長い休止期間を挟んで,成層火山体形成期と歴史時代の噴火活動とに分けられます.

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  • 有珠火山の活動期の概略(東宮ほか,2009).長い休止期間を挟んで2つの活動期に分かれています.

成層火山体形成期

有珠火山の形成史は約1〜2万年前にさかのぼります.はじめは,玄武岩〜玄武岩質安山岩の溶岩・スコリアを噴出する活動をしました.これにより,主成層火山体(有珠外輪山溶岩)と北東麓のスコリア丘(ドンコロ山)ができました (図:有珠火山地質図)

有珠火山地質図(第2版)(曽屋ほか,2007).北海道地図株式会社の10mメッシュを使用して地質陰影図にしたもの(地質陰影図作成:中島和敏).
有珠火山地質図(第2版)の山体主要部分(曽屋ほか,2007).

山体崩壊と長い休止期間

7〜8千年前,山体崩壊が起こり,崩れた山頂部が基盤岩をも巻き込みながら南麓に雪崩(なだれ)のように流れ下りました(善光寺岩屑なだれ堆積物).流下した山体の破片のうち大きなものは,小丘(流れ山)となって麓に多く点在しています.山体崩壊の土砂は海にも流れ込み,このために有珠湾周辺の複雑な海岸地形ができました.

この山体崩壊によって,有珠火山の山頂部に馬てい形カルデラ(U字型の窪地)ができました.この窪地が,現在の山頂火口の原形になりました.

その後,有珠火山ではしばらく噴火がなく,7〜8千年間の休止期間にありました.

歴史時代の噴火活動

1663年,有珠火山は活動を再開しました.1663年噴火は,有珠火山最大規模の爆発的噴火で,大量の軽石を広範囲に降らせています. 有珠火山における1663年以降の活動は「歴史時代の噴火」と呼ばれています(曽屋ほか,2007).

歴史時代に活動したマグマは,二酸化ケイ素(SiO2)を多く含むデイサイト〜流紋岩で,休止期間前とは全く異なりました.噴火活動も,軽石・火砕流噴火,水蒸気爆発・マグマ水蒸気噴火,溶岩ドーム・潜在ドーム形成,といったタイプに変化しました. 歴史時代の活動については,次の「 歴史時代の噴火と噴出物 」の章で詳しく解説します.

参考文献

門村 浩・岡田 弘・新谷 融 編著(1988)有珠山−その変動と災害.北海道大学図書刊行会,257p.

町田 洋・新井房夫(2003)新編 火山灰アトラス[日本列島とその周辺].東京大学出版会,東京,336p.

曽屋龍典・勝井義雄・新井田清信・堺幾久子・東宮昭彦(2007)有珠火山地質図(第2版)1:25,000.火山地質図 2,産総研地質調査総合センター,9p.

東宮昭彦・定池祐季・伊藤大介・渡辺真人(2009)有珠火山 −その魅力と噴火の教訓−.地質調査総合センター研究資料集,no. 491,産総研地質調査総合センター.