有珠火山の噴火の特徴

火山研究解説集:有珠火山 by 産業技術総合研究所・地質調査総合センター

火山研究解説集:有珠火山
1. まえがき
2. 地形,地質概要,噴火史,火山活動の特徴
おいたち 歴史時代の噴火 噴火の特徴 岩石
3.マグマだまりと地下構造
マグマだまり 地下の構造
4. 噴火と変動
噴火の概要 火山性地震
地下水 噴出物と噴火様式 マグマの破砕 火山ガス
衛星画像
5.リンクお問い合わせ

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  • 有珠火山の噴火シナリオ(曽屋ほか,2007).過去の噴火の推移をタイプ別にまとめたもの.

目次

高い活動度と規則正しい噴火

活火山の分類(ランク分け)と有珠山(気象庁,2003).

有珠火山は,日本で最も活発な活火山の1つです. 火山活動について過去100年間に組織的に収集された詳細な観測データに基づく「100年活動度指数」,過去1万年間の地層に残るような規模の大きい噴火履歴(活動頻度,噴火規模及び活動様式)に基づく「1万年活動度指数」,のいずれで見ても火山活動度が高く,気象庁(2003)による活火山の分類では「Aランク」(最高度)に位置づけられています (図:活火山の分類(ランク分け)と有珠山)

1663年に活動を再開して以来,数十年に一度という高い頻度で噴火を繰り返しており,特に1910年噴火からはほぼ30年間隔になっています.

山頂噴火と山腹噴火

軽石噴火(プリニー式噴火)の様子(東宮ほか,2009)
山頂噴火が起こった場合の危険区域を示した災害予測図.「有珠火山防災マップ(2002年版)」より
山麓噴火が起こった場合の危険区域を示した災害予測図.「有珠火山防災マップ(2002年版)」より

有珠火山では歴史時代に9回の噴火が知られていますが,これらの噴火パターンは,まず山頂噴火と山腹(山麓)噴火の2つに大きく分けられます (図:有珠火山の噴火シナリオ)

山頂噴火の場合,初期の爆発的活動は軽石噴火(プリニー式噴火〜準プリニー式噴火)で特徴づけられます (図:軽石噴火(プリニー式噴火)の様子) .軽石の噴出体積はおよそ0.1km3かそれ以上と多く,山麓で厚さ数十cm以上も堆積します.多くの場合,軽石噴火の後には高温・高速で危険な火砕流が発生し,火山防災上では最も警戒されています (図:山頂噴火が起こった場合の危険区域を示した災害予測図).火砕流は火山岩塊火山灰流で,発泡の悪い岩片を多く含みます.溶岩ドームの部分的崩壊によるもの(1853年)と噴煙柱崩壊によると考えられるもの(1822年)のどちらも起こりうると推定されます.

山頂噴火のうち1663年噴火は特別で,他の山頂噴火より一桁規模が大きいほか,軽石噴火の前に水蒸気爆発〜水蒸気マグマ噴火の活動がありました.これは休止期間後初めての噴火であったため,マグマが多量に存在していたこと,火道が確立していなかったことによるものかもしれません.

山腹(山麓)噴火の場合,軽石噴火は起こらず,初期の爆発的活動は水蒸気爆発あるいは水蒸気マグマ噴火で特徴づけられます (図:有珠火山で起こる爆発的噴火のタイプとその違い).山麓の特に洞爺湖に近い側は地下水が豊富なため,マグマの熱が地下水の沸騰に費やされ,こうした噴火になりやすいのではないかと考えられています.火山灰の放出は0.001km3程度と少なく,高温・高速な火砕流は発生しませんが,低温の火砕サージは発生することがあります (図:山麓噴火が起こった場合の危険区域を示した災害予測図)

山腹噴火のうち1943〜45年噴火は,前兆地震の期間が約半年と,他の噴火(前兆地震は数日間ほど)に比べて長いという違いがあります.→#前兆地震と地殻変動

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  • 有珠火山で起こる爆発的噴火のタイプとその違いの模式図(東宮ほか,2009).

溶岩ドームと潜在ドーム

有珠火山で特徴的なのは,噴火のたびに溶岩ドームあるいは潜在ドームを形成することです (図:溶岩ドームと潜在ドームの模式断面図) . 溶岩ドームが3つ(大有珠・小有珠・昭和新山)と,潜在ドームが知られているだけで6つ(明治新山・有珠新山・2000年隆起域など;この他に形成年代不明のものがいくつか),確認されています (図:昭和新山溶岩ドーム) (図:有珠新山潜在ドームと銀沼火口).有珠火山は,噴火のたびに山の形がどんどん変わっていく山なのです.

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  • 溶岩ドームと潜在ドームの模式断面図(東宮ほか,2009).マグマ(溶岩)が顔を出さずに地面を盛り上げただけで終わると潜在ドームに,顔を出すと溶岩ドームになる.有珠火山のように粘り気の高い溶岩の場合,顔を出した後もほとんど横に広がらずに成長する.このタイプは火山岩尖と呼ばれる.

前兆地震と地殻変動

噴火の前に顕著な前兆地震が起こることも,この火山の特徴です.その期間は多くの場合で数日間(1〜10日;ただし1943〜45年噴火では半年間)で,有感地震が多発するので,麓の住民にも異変がたちどころに分かります.また,こうした群発地震が起こると必ず噴火が始まる,というのも大きな特徴で,それゆえ有珠火山は「ウソをつかない山」などと言われています.

また,噴火に伴って激しい地殻変動を起こすことも特徴です.噴火開始直前には地表に多数の断層や亀裂が生じたりするほか,ドーム出現に伴っては最大で100m以上も地表が変形(隆起・沈降および水平移動)します (図:昭和新山が成長する様子を記録した「三松ダイアグラム」)(図:1977〜78年噴火前後における有珠火口原の地形変化).地殻変動(に伴う地下水異常)については,地下水 の章に詳しい解説があります.

粘性の高いマグマ

これまで述べたように,有珠火山は,爆発的噴火(軽石・火砕流噴火)やドーム噴火を起こし,顕著な前兆現象を伴うという特徴があります.これは,マグマの粘性(粘り気)が大きくて流れにくい性質であることに由来します.粘性が高いとマグマ中の気泡が抜けにくく,泡立ったマグマは激しい爆発とともに軽石として噴出され,軽石噴火や火砕流噴火を引き起こします.また,ひとたび気泡(ガス)がマグマから抜けてしまうと,流れにくくなった溶岩は火口近くに盛り上がって溶岩ドームを作ります (図:溶岩ドームと潜在ドームの模式断面図).噴火前に地下でマグマが動くときもスムーズに動きにくく,地盤の破壊や変形を顕著に伴います. これが激しい前兆地震や地殻変動を引き起こすのです.

参考文献

北海道防災会議 地震火山対策部会火山対策専門委員会監修(2002)有珠山火山防災マップ.国際航業株式会社製作,東京,2p.

気象庁(2003)火山噴火予知連絡会による活火山の選定及び火山活動度による分類(ランク分け)について.報道発表資料,平成15年1月21日 [1].

曽屋龍典・勝井義雄・新井田清信・堺幾久子・東宮昭彦(2007)有珠火山地質図(第2版)1:25,000.火山地質図 2,産総研地質調査総合センター,9p.

東宮昭彦・定池祐季・伊藤大介・渡辺真人(2009)有珠火山 −その魅力と噴火の教訓−.地質調査総合センター研究資料集,no.491,産総研地質調査総合センター.