地層名 高橋・菅原(1985)の「沼沢湖火砕流堆積物」 による.山元(1995)は本火砕堆積物とこれに伴う降下火砕堆積物を合わせて沼沢湖火砕堆積物と呼び,ユニッ トI〜IV に区分した.沼沢湖火砕流堆積物はユニッ トI に相当する.
模式地 金山町大栗山の木冷沢右岸.
分布・構造 本火砕流堆積物(ユニットI)は給源の沼沢湖周辺から図幅地域中央部・東部を経て東隣の「若松」図幅地域の西部まで広く分布する.ただし,地質図では主に塊状軽石流相として既存河川を厚く埋めた部分のみの分布を示している.図幅地域内の斜面を覆う黒色土壌中には厚さ3m 以下の本火砕流堆積物の成層サージ相とこれを覆う降下火砕堆積物(ユニットII〜IV)が存在するがこれらの分布は地質図には示していない.
層序関係 厚さ60〜130 cm の火山灰土を隔てて水沼火砕堆積物を覆っている.
層厚 本火砕流堆積物の最大層厚は約200 m .
岩相 沼沢湖火砕物は下位からユニットI〜IV の4層に区分され,本質物として単斜輝石含有斜方輝石普通角閃石デイサイト軽石と単斜輝石斜方輝石普通角閃石安山岩軽石を含んでいる(山元, 1995).
沼沢湖火砕流堆積物(ユニットI)は,白色デイサイト軽石と少量の灰-暗灰色安山岩軽石を含む非溶結の火砕流堆積物からなる(第7図).堆積物には会津金山火山岩・惣山溶岩・前山溶岩に由来するデイサイト石質岩片や基盤中新統に由来する変質した流紋岩・火砕岩の異質岩片が多く含まれている.特に変質した異質岩片には,赤褐色の水酸化鉄の皮膜を持つものが多い.東へ向かった火砕流はいくつかの地形障害を乗り越え20 km 以上流走しており(第7図),この流れは流動性に富んでいた.本ユニットの火砕流堆積物は原地形を薄くマントル被覆する成層サージ相と,谷地形を厚くほぼ平坦に埋める塊状軽石流相の2つに分けられる.両者の区別は 堆積形態によっており,構成する単層は両者で連続している.
沼沢湖火砕流堆積物(沼沢湖火砕流ユニットI )は非溶結のデイサイト軽石凝灰角礫岩-火山礫凝灰岩からなる.この露頭は給源の沼沢湖の北西2 km の地点にあり,堆積物の上部が露出する.上部は多数のフローユニットからなり,塊状軽石流相の間には,サンドウェーブ層理を持った薄いサージ相が挟まれている.スケールは2 mで,左下.金山町大栗山.
(図幅第6.6図)
成層サージ相は,給源の沼沢湖周辺から東隣「若松」図幅地域内の会津高田町にかけての山地斜面をマントル被覆している(第8図).堆積物は給源から東に偏って面的に広がっており,その分布形態には地形の効果があまり認められない.分布面積は450 km2 を越えている.この堆積相は火口近傍では,径60 cm 以下の類質・異質岩片の多い岩片支持で粗粒火山灰の基質を持つ軽石混じりの火山角礫-火山礫と,レンズ状で連続性の悪い平行層理を持つ火山礫混じりの粗粒火山灰の互層からなる.基底部のフローユニットが最も粗く,かつ最も遠方まで到達しており,給源から15 km 以東の地域では,基底部のフローユニット1枚のみが,正級化層理を持つ火山礫混じりの粗粒火山灰として分布する(第9図).層厚 は給源近傍で数m 以上あるが,遠方に向かって単純に 減少するわけではない.例えば,給源から20 km 程度東の地点においても,この堆積相は層厚1m 以上で地形的 な凹地を局所的に埋めることがしばしばある.このような厚層部の本相は,本質岩片に富む基質支持で塊状の岩相に変化しており,次の塊状軽石流相の見かけに似てくる.
山元(1995)を一部改変.
(図幅第6.7図)
ユニットI (沼沢湖火砕流堆積物)成層サージ相は層厚45 cm の1フローユニットからなり,細礫-粗粒砂サイズの デイサイト軽石・石質岩片からなる淘汰の良い下部と,これを覆う中粒砂-シルトサイズの火山灰からなる上部で構成される.ユニットII は下位から径8 cm 以下の軽石層,細礫サイズの軽石層,細粒火山灰層の順に重なり,上方へ 細粒化する.柳津町軽井沢.
(図幅第6.8図)
塊状軽石流相は只見川とその支流を最大層厚約200m で谷埋めし,比較的平坦な堆積面を形成した.ただし, 堆積物の大半はすでに河川の浸食により失われ,残存部 が現在段丘化しているにすぎない.分布域は給源から見て風下側の谷にも深く入り込んでおり,谷地形に沿って上面高度が低くなる傾向がある(第8図).この堆積相は,径20 cm 以下の軽石に富む基質支持で淘汰の悪い 火山角礫-火山礫を主体とし(第10図),厚さ50cm〜 3m 以上の多数のフローユニットで構成される.フローユニット上面に軽石が濃集する場合もあるが,多くのものは塊状の内部組織を持つ.成層サージ相とは側方に指交・漸移しており,給源近傍の本堆積相の基底部及び 中-上部には,径30 cm 以上の類質・異質岩片に富む岩片支持のフローユニットが挟在される(第11図).また,最上部では厚さ50 cm 以下のサンドウェーブ層理を持つ細粒火山礫-粗粒火山灰がしばしば挟まれ,火砕流の噴出が間欠的になったことを暗示している(第7図).本相の体積は,現在の河川を堆積物で埋め戻して見積ると,約4 km3になる.堆積物の密度はほぼ1.2 g/cm3である.
本堆積物は径20 cm 以下の軽石に富む基質支持で淘汰の悪い火山角礫-火山礫からなり,非溶結である.三島町名入.
(図幅第6.9図)
沼沢湖の近傍では径30 cm 以上の類質・異質岩片に富む岩片支持の火山角礫からなる岩相が見られる.基質は中粒砂サイズ以下の火山灰を欠き,結晶片に富んでいて淘汰がよい.また,類質・異質岩片は赤褐色の酸化皮膜を特徴的に持っている.金山町上野沢.
(図幅第6.10図)
ユニットII(地質図では省略)は白色デイサイト軽石と少量の灰-暗灰色安山岩軽石の粗粒火山礫・細粒火山礫・粗粒火山灰・ガラス質細粒火山灰からなる降下堆積物で,上位の単層ほど粒径が小さい(第9図).給源 から6 km 離れた三島町大谷では最大5枚の単層が確認でき,東方に向かって識別できる単層の数が減っていく.軽石の粒径は最下層のものが他に比べて常に特別大きく,あらゆる地点でよく目立つ.すなわち,沼沢湖南方での最下層の軽石の平均最大粒径は23 cm ,東に50 km 離れた猪苗代湖北方で3 cm である.また,他の粒子と は粒径のかけ離れた軽石が単独で降下していることもあ り,給源から12 km 離れた柳津町大成沢では層厚11 cm の単層中に最大長径22 cm の扁平な軽石が含まれていた.比較的大きな軽石には,パン皮状の黒色ガラス質皮殻をもつものがまれに存在している.本ユニット基底部 の軽石間にはしばしば黄白色のガラス質細粒火山灰が詰 まっているが,これはユニットI 最上部の火山灰層(おそらく火砕流の灰かぐらからの降下堆積物)中にユニットII の軽石がめり込んでいるためである.これを除くと本ユニットの淘汰は概ね良好である.また,本ユニットはほとんど異質岩片を含まない.
ユニットIII(地質図では省略)のうち,沼沢湖東岸に分布するものは層厚約2 m の火砕サージ堆積物として定置している.この堆積物は平行層理・サンドウェーブ層理・スランプ層理を持つ成層した淘汰の悪い細粒火山礫-粗粒火山灰を主とし,その単層厚は2 mm 〜15 cm である.沼沢湖の水位が下がった時に露出する部分では,最大径60 cm の発泡の悪いデイサイト軽石に富む基質支持の火山岩塊がレンズ状に挟まれている(第12図). 層理面の傾斜は湖底の傾斜とほぼ平行で,ユニットIII 火砕サージ噴出時には沼沢湖の原型が出来ていたものと思われる.このサージ堆積物は惣山や前山などの火口外輪山の背後には全く分布せず,今の火口地形の影響を受けている.給源から東に離れた地域では,本ユニットは灰-暗灰色安山岩軽石と白色デイサイト軽石からなる細粒火山礫・粗粒-細粒火山灰の降下堆積物互層からなる (第13図).白色デイサイト軽石は下部に含まれるものの,中・上部にはほとんど含まれない.灰-暗灰色安 山岩軽石の発泡の程度は中-不良である.細粒火山灰中 にはまれに火山豆石が含まれる.異質岩片として変質した白色流紋岩溶岩や火砕岩が普通に含まれる.本ユニットを構成する降下堆積物は,沼沢湖から15 km の範囲で 最大20〜22層が識別できるが,遠方では成層構造が不明瞭な塊状の粗粒火山灰となる.
沼沢湖北東湖岸に露出する火砕サージ堆積物で,湖の水位が下がった際に現れる.大型の斜交層理が顕著な淘汰の悪い火山礫-粗粒火山灰からなる.層理面の傾斜は湖側(写真左)に傾いている.
(図幅第6.11図)
三島町大谷.スケールは2 m.
(図幅第6.12図)
ユニットIV(地質図では省略)は逆級化構造を持つ灰‐暗灰色安山岩軽石の細粒-粗粒火山礫降下堆積物とこれを覆う平行葉理を持った粗粒火山灰降下堆積物からなる(第13図).本ユニットは火口近傍の沼沢湖周辺には堆積しておらず,6 km 東方の三島町大谷周辺から分布が確認できる.大谷での安山岩軽石の平均最大粒径は 7.2 cm である.灰-暗灰色安山岩軽石は多面体状の形態 を持ち,その発泡度は良-不良である.異質岩片として変質した白色流紋岩溶岩や火砕岩がわずかに含まれる.上部の成層した火山灰の層厚は薄く,上位の土壌との擾乱によりその存在を確認できない露頭が多い.降下堆積物の分布域の幅は10 km 程度と細長く,主軸は東に向いている.
本火砕堆積物の本質物のうち,デイサイト軽石は斑晶として斜長石,石英,普通角閃石,斜方輝石,鉄鉱と微量の普通輝石を含んでいる.その石基はガラス質で微結晶を全く含んでいない.デイサイトのSiO2 含有量はほぼ 66 wt%,K2O含有量は1.7-1.8 wt% である.一方,安山岩軽石も斑晶として斜長石,石英,普通角閃石,斜方輝石,鉄鉱,普通輝石を含んでいるものの,石基はハイアロオフィティック-インターサータル組織を持ち,斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,普通角閃石の微結晶を生じている.安山岩のSiO2含有量は 58-60 wt%,K2O 含有量は 0.7-0.9 wt% と,デイサイトと全く異なる低カリウム系列に属している.各ユニット毎の本質物の構成物変化は増淵・石崎(2011)に詳しい.
年代・対比 沼沢湖火砕堆積物中の炭化木から得られた放射性炭素年代の暦年補正値から,噴火年代は紀元前 3400 年頃とされている(山元,2003).