沼沢火山 Numazawa Volcano


icon 概要と地形

icon 研究史

icon 地質図

icon 化学組成と噴出量

icon 地質各節
  icon 尻吹峠火砕物
  icon 木冷沢溶岩
  icon 水沼火砕堆積物
  icon 水沼火砕堆積物起源のラハール堆積物
  icon 惣山溶岩
  icon 沼御前火砕堆積物
  icon 前山溶岩
  icon 沼沢湖火砕堆積物
  icon 沼沢湖火砕物起源のラハール堆積物
  icon 最低位段丘堆積物
  icon 新期地すべり堆積物

icon 引用文献

2014/11/07
このデータ集は5万分の1地質図幅「宮下地
域の地質」(山元・駒澤,2004)から抜粋,
再構成し,加筆したものである.

このデータ集を引用する場合,次のように引用
してください.
山元孝広(2014)詳細火山データ集:沼沢火
山.日本の火山,産総研地質調査総合センター
https://gbank.gsj.jp/volcano/Act_Vol/numazawa/
index.html)

地質各節
 水沼火砕堆積物(Mz)

地層名 高橋・菅原(1985)の「水沼火砕流堆積物」による.山元(1995)は本火砕堆積物とこれに伴う降下火砕堆積物を合わせて水沼火砕堆積物と呼び,ユニットI 〜 IIIに区分した.水沼火砕流堆積物は,ユニットIII に相当する.鈴木・早田(1994)の沼沢-金山テフラは,山元(1995)や本報告の水沼火砕堆積物と基本的に同じものである.

模式地 金山町水沼の只見川右岸の岸壁.ただし三島町早戸の国道252号線早戸トンネル側道沿いの露頭のほうが観察は容易である.

分布・構造 本火砕流堆積物(ユニットIII)は主に金山町上田から三島町早戸の只見川沿いや水冷沢沿いに露出し,地質図ではこれらの分布を示している.本火砕流堆積物に伴う降下火砕堆積物(ユニットI・II)については沼沢湖周辺から図幅地域東部にかけての後期更新世以前の斜面堆積物を覆う風成層中に見いだされるが,層厚が薄いので地質図上では省略している.降下火砕堆積物 は更に東方まで追跡でき,磐梯火山噴出物間の風成層中 (山元・須藤, 1996)や安達太良火山噴出物間の風成層中(山元・阪口, 2000)のほか,「郡山」図幅地域の中位段丘堆積物中(山元, 2003)からも分布が確認されている

層序関係 本火砕流堆積物は多くの地点で下位層を不整合に覆うが,三島町早戸など只見川沿いの一部では薄い河川流路堆積物を整合に覆っている.この河川堆積物は層序的位置関係から埋没した中位段丘に対比されるものであるが分布が僅かであり,地質図では省略した.また,本火砕流堆積物及び降下火砕堆積物は,後述する沼沢湖火砕堆積物の下位に厚さ60〜130 cmの火山灰土を隔てて位置している.

層厚 模式地での火砕流堆積物の最大層厚は約100 m.

岩相 水沼火砕物は下位からユニットI〜III の3層に区分され,本質物として黒雲母カミングトン閃石普通角閃石デイサイト軽石を含む(山元,1995).

 ユニットI(地質図では省略)は,白色粘土質火山灰の基質に粗粒-細粒火山礫の異質岩片を多く含む淘汰の極めて悪い塊状の降下堆積物からなる.本堆積物からは本質物の存在が確認できず,水蒸気爆発の産物と判断できる.層厚は沼沢湖周辺で40 cm 以上,20 km 東方の地点でも数cm以上である.異質岩片は変質した白色-灰色の流紋岩溶岩・火砕岩が多い.堆積物中には植物片がしばしば含まれるが,これらは全く炭化していない.

 ユニットII(地質図では省略)は,逆級化構造を持つデイサイト軽石の細粒-粗粒火山礫降下堆積物からなる. 分布の主軸は沼沢湖付近から東に向き,その層厚は沼沢 湖東方で1m 以上,猪苗代湖周辺で約16 cm である.軽石の最大粒径は沼沢湖東方で10 cm 以上,猪苗代湖周辺で4 mm 以下である.

 ユニットIII(Mz )は,径15 cm 以下のデイサイト軽石に富む火砕流堆積物からなり,ユニットIIの降下堆積物を直接覆う.主に当時の只見川を厚さ100 m 前後で埋積したが,河川による浸食と沼沢湖火砕堆積物による被覆のため,本火砕流堆積物の原地形は完全に失われている.現在,この堆積物の分布は給源から6 km 内でしか確認できていない.只見川沿いの本堆積物は基底部数m を除き溶結しており,柱状節理の発達した岩壁を作っている.鏡下では溶結部の基質の火山ガラス片が強く変形しているにもかかわらず,含まれるガラス質本質岩片の多くは偏平化を免れている.これは,溶結した火砕流中の軽石の発泡の程度がもともと低かったことによるのであろう.これに対し基底部の非溶結相は,比較的発泡の良い軽石に富む基質支持で淘汰の悪い塊状の火山岩塊- 火山灰からなり,新鮮な単斜輝石斜方輝石普通角閃石デイサイト・単斜輝石斜方輝石黒雲母普通角閃石デイサイトや変質の進んだ白色デイサイトの石質岩片を含んでいる.本火砕流堆積物は谷埋めで斜面に対しアバットしており,後述する沼沢湖火砕流のような斜面を被覆するサージ相の発達は,沼沢火山周辺の山地内でこれまで確認していない.また,残存部の分布から見て,火砕流の主堆積場は只見川本流沿いに限られており,地形障害を乗り越えて分布することはなかったと見られる.火砕流が只見川本流を10 km 程度流れ下ったとすると,推定される谷埋め堆積は1 km3 強で,おそらく2 km3 を越えることはなかったであろう.鏡下での本火砕流堆積物の本質岩片は,斑晶として斜 長石(最大長径2.8 mm ),石英(最大長径2.8 mm ),普通角閃石及びカミングトン閃石(最大長径2.0 mm ),鉄鉱,黒雲母(最大長径1.3 mm )を含み,その量比はこの順で少なくなる.普通角閃石とカミングトン閃石は同一斑晶として共存するものがある.溶結した本質岩片の石基はガラス質-ハイアロピロティック組織を持っている.本本質岩片のSiO2含有量は69 Wt%,K2O含有量は 1.8-2.0 Wt%である.

年代・対比 水沼火砕物の本質軽石から分離したジルコンのフィッショントラック年代値は,51±14 kaである(山元, 1995).また,本火砕流噴火による只見川の堰止湖堆積物中の埋没樹幹(TAD-01)からは48,180±580 yBPの放射性炭素年代が得られ,他の広域テフラとの層序関係からその暦年代は約53 ka と考えられている(山元・長谷部, 2014).山元(2003)は福島県郡山市の郡山層(郡山研究グループ, 1962)に挟まれる水沼火砕物の直下の炭質物について放射性炭素年代測定を(株)地球科学研究所に依頼し44,930±1,030 yBPと45,210±1,540 yBPの補正放射性炭素年代を報告していたが,当時の年代測定にはバックグラウンドなど含め品質を保証できるものではないことから,これらの年代値は >43,500 yBPと修正されるべきである(山元・長谷部, 2014).


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