地層名 新称.鈴木ほか(1998)が模式地の尻吹峠で沼沢-芝原テフラと呼んだものと基本的には同じ堆積物である.沼沢-芝原テフラは福島中通り最南部の西郷村内で最初に記載された流紋岩軽石質の降下堆積物で(鈴木, 1992),会津盆地周辺から福島市を北限,栃木県今市市を南限に分布している(山元, 1999b ).一方,尻吹峠の本火砕物は成層構造の発達した流紋岩火砕サージ堆積物からなり,給源近傍相の岩相を示すので降下堆積物とは異なる名称で呼ぶことにする.分布が離れており両堆積物の前後関係は一切分からない.両者の対比は相対的な層序位置と本質物の岩石学的特徴の一致を根拠にしている.
模式地 金山町尻吹峠の林道切り割り露頭(第5図). ただし原稿執筆時点では林道方面の植生が進み観察が難しくなっている.
Nm-SR=沼沢-尻吹峠火砕物,Nm-MZ=沼沢-水沼火砕物,Nm-NK=沼沢-沼沢湖火砕物
山元(2003)による.
(図幅第6.4図)
分布・構造 模式地の尻吹峠のみに露出する.模式地は標高580m の基盤岩(会津金山火山岩)が作る尾根上に位置しており,その岩相も細粒の火砕サージ堆積物であること示している.谷埋めしていたと思われる火砕流本体部の堆積物は,確認できない.
層序関係 鮮新世の会津金山火山岩を直接不整合に覆う.また,土壌化風成層を挟んで水沼火砕物に覆われる.
層厚 模式地での層厚は約1.7m.
岩相 本火砕物は,非溶結で成層したカミングトン閃石含有普通角閃石黒雲母流紋岩凝灰岩からなる.石英・黒雲母結晶片の目立つ粗粒火山灰とガラス質細粒火山灰で構成され,平行層理や低角斜交層理を持つ.中礫混じりのやや淘汰の悪い粗粒火山灰をレンズ状に僅かに挟んでいる.鏡下では,斜長石・石英・緑色普通角閃石の結晶片を主体とし,カミングトン閃石・鉄鉱・ジルコンの結晶片を伴っている.火山灰中の火山ガラス片はかなり粘土化しているものの,低屈折率のマイクロ軽石が一部で残っている.火山ガラスや普通角閃石・カミングトン閃石の屈折率は,これまで沼沢-芝原テフラから報告された値と良く一致している( 第1表).
年代・対比 東隣「若松」図幅地域内の会津高田町旭三寄の沼沢-芝原テフラのジルコンからは,110±20 ka のフィッション・トラック年代値が報告されている(鈴木ほか, 1998).本テフラの上位には約11〜9万年前の御岳第1テフラ(松本・宇井,1997),約9万年前の阿蘇4 テフラ(Matsumoto et al., 1989)があること,下位には最終間氷期の最大海進時に降下した約13.5〜12.5万 年前の田頭テフラ(鈴木, 1999)があることから,層序学的に見ても本テフラの噴火年代は放射年代値の約11 万年前として問題ないであろう(山元, 1999b ).