沼沢火山の活動史は, 当初,高橋・菅原(1985)によって,1)外輪山溶岩の噴出,2)古期カルデラの形成,3)中央溶岩丘群の形成と水沼火砕流の噴出,4)沼沢湖火砕流群の噴出と沼沢湖カルデラの形成の順とされていた.しかし,外輪山溶岩とされた高森山溶岩や高久原溶岩からは鮮新世を示すK-Ar年代値が得られ(菅原, 1991:山元, 1995),古期山体は沼沢火山の基盤の会津金山火山岩に区分し直す必要が生じた.また,沼沢団研(1999)によって沼沢火山噴出物とされていた只見川沿いの小津巻に露出する弱溶結した黒雲母流紋岩質火砕流堆積物からも鮮新世を示すフィッショントラック年代値が得られ,上井草層のカルデラ形成期火砕流堆積物を彼らが誤認していることが碓実である.更に,高橋・菅原(1985),沼沢団研(1999)が沼沢火山噴出物とした沼沢湖を取り囲むデイサイト溶岩のうち惣山・前山を構成するもの以外は,例外なく逆帯磁をしており,これらも沼沢火山の基盤(会津金山火山岩)に含めるべきものである.
結局,沼沢火山噴出物として定義するべきものは,下位から尻吹峠火砕物,木冷沢溶岩,水沼火砕物,惣山溶岩,沼御前火砕物,前山溶岩,沼沢湖火砕物である.後述するように尻吹峠火砕物は,東方の会津盆地周辺から福島中通り南部,栃木那須野ヶ原に広く追跡される沼沢‐芝原テフラ(鈴木, 1992:山元, 1999a;2012)の火口近傍相に相当するもので約11万年前に噴出したことが放射年代値や層序関係から明らかにされている.その下位からは確実に沼沢火山起源と見られるものは確認しておらず,この噴火で沼沢火山の活動が始まったものと考えている.反対に沼沢火山の最期の噴火は紀元前3400年頃の沼沢湖火砕物の噴出で(山元, 2003),この噴火により沼沢火山は最近1万年間に噴火実績のある活火山として扱われている.
活火山である沼沢火山の層序については,高橋・菅原(1985)や沼沢団研(1999)の研究があるものの,本報告書はこれに従っていない.特に沼沢団研(1999)の層序は5.2,5.3及び6.5章にあるように事実誤認が甚だしく,参考になるものではない.