新期火山群
この火山群において,約7万年前から3万年前の間に活動した火山は見つかっていません.この間は火山活動の休止時期であったと考えられます.およそ3万年前から再び活動を開始し,白谷山,アカンダナ,焼岳火山らの新期火山群をつくりました(及川,2002).
はじめに活動を開始した火山は白谷山火山で,約3万年前から1万年前に活動しました(及川,2002).
白谷山火山は,溶岩ドーム(円頂丘)を形成しながら,たびたび火砕流を発生させました.特に1.1万 年前前後から1万年前(14C年代:yr BP)にかけて,白谷山円頂丘溶岩 III の成長と共に,熊牧場火砕流堆積物,平湯川火砕流堆積物 I ,平湯川火砕流堆積物 II の火砕流が山麓に流れ下りました(図1).
熊牧場火砕流堆積物は,軽石からほとんど発泡していないものなどからなる 様々な発泡度の火山岩片を含む火砕流堆積物です.その一方,2つの平湯川火砕流堆積物は発泡の程度 が低い火山岩片と同質の火山灰からなる典型的なBlock and ash flow堆積物です.
平湯川火砕流 I は新期火山において最大の火砕流堆積物で,この火砕流堆積物 の二次堆積物は大量に高原川沿いに流れくだりました.現在その二次堆積物でつくられた段丘が富山平野まで追跡できます(小池,1978;小石・大井,2004).
アカンダナ火山 は,1万年前以降に活動した溶岩ドームと溶岩流からなります(及川,2002).
この火山は,活動の初期 (1909峰溶岩,アカンダナ火砕岩の活動)に山体を急速に成長させたため,山体が地すべりを起こしました(図2).その後,安房谷溶岩,安房峠溶岩と現 在の山頂をつくる アカンダナ円頂丘溶岩を形成しました.安房谷溶岩,安房峠溶岩は溶岩じわなど新鮮な溶岩地形が保存されています.
約1万 から6千5百年前(14C:yr BP),この火山の活動によって河川が堰き止められ平湯の東にある安房(あぼう)平に湖を形成しました(及川ほか,2000).
最後の噴火時期は明らかではありませんが,焼岳火山最後のマグマ噴火より古いと推定されています.
1909m溶岩により形成された溶岩ドームが地すべりを起こして現在の地形をつくった.A)現在の地形.1909m溶岩(太線)とアカンダナ円頂丘溶岩 (破線) の分布域. ケバ線は地すべり崖.細線は等高線(100間隔).B) 断面図.太線は現在の地表.細線は地すべり前の1909m溶岩がつくった地形.破線はアカンダナ円頂丘溶岩のつくる地形.
焼岳火山は,白谷 山火山にやや遅れ,約2万年前から活動を開始し,現在まで活動しています(及川,2002).
溶岩ドームや溶岩流とそ れらの崩落に 伴う火砕流堆積物(Block and ash flow 堆積物)によって形成されています.また,岩屑なだれも一回発生しています(黒谷岩屑なだれ堆積物).
焼岳火山群での最後の噴火は,1962-63年に起きた水蒸気 噴火ですが,最新のマグマ噴火は約2300年前(14C: cal yr BP)に焼岳火山で起きました(図3).この噴火によって,現在,皆さんが上高地から望む焼岳の大部分,山頂部のごつごつした溶岩ドーム(焼岳円頂丘溶岩)とその周囲のなだらかな斜面がつくられたのです.なだらかな斜面は,中尾火砕流堆積物とよばれる火砕流堆積物で形成されています.岐阜県側の中尾温泉はこの火砕流がつくった段丘の上に建っています.
最後のマグマ噴火以降,比較的規模の大きい水蒸気噴火が焼岳で8回起きています(1962-63年噴火は除く).