池田湖火山灰層堆積後,池田湖南岸に角閃石デイサイトの溶岩ドームがテフラの放出を伴って形成された.この溶岩ドームを鍋島岳溶岩ドームと呼び,先行して放出されたテフラを鍋島岳テフラ層(地質図には省略)と呼ぶ(宇井,1967;奥野・小林,1991).
鍋島岳溶岩ドームは,地形的に西側山麓に分布する鍋島岳溶岩I,溶岩ドームの主部をなす鍋島岳溶岩II,鍋島岳溶岩IIが池田湖に崩落した後に,崩落崖下に成長した鍋島岳溶岩IIIの3つの岩体に区分される(奥野・小林,1991;第15図).噴出質量は約138×109 kgである(奥野・小林,1991). 鍋島岳の西麓及び東麓には,大底月[おおそこつき],小底月[こそこつき],水源地マールなどの爆裂火口がある( 第14図).西麓の大底月が東西約140 m,南北約110 m,小底月が直径約50 m,東麓の水源地マールが直径約90 mである.いずれも鍋島岳溶岩ドームを破壊しており,放出岩塊は直接鍋島岳噴出物を覆うことから,鍋島岳噴出直後に形成された火口と判断され,鍋島岳溶岩ドームの活動に含めておく.
(図幅第6.12図)
命名 宇井(1967).太田(1966)の鍋島岳溶岩.
模式地 鍋島岳南及び北中腹の農道切り割り.
分布・層厚 池田湖南岸に位置する.鍋島岳溶岩ドームは,東西約500 m,南北約1200 m,比高190 m,北側約1/3が池田湖側に崩落している(第6.14図).
層序関係 池田湖火山灰を腐植土層を挟んで覆う.鍋島岳溶岩ドームに先行して鍋島岳テフラ(Nb)が周辺に堆積した.鍋島岳溶岩ドームを鍋島岳テフラ層は覆っておらず,テフラ噴出後に溶岩ドームの形成があったと考えられる.開聞岳テフラに腐植土層を挟んで覆われる.鍋島岳西麓の大底月・小底月,東麓の水源地マールは,鍋島岳テフラ及び鍋島岳溶岩ドームの堆積面を破壊している.
北半分が池田湖側に崩落している.背後は開聞岳.
(図幅第6.14図)
岩相 鍋島岳テフラ層は,鍋島岳の周辺2 kmほどの範囲に確認できる,スコリア,軽石,岩片及び火山灰からなる降下テフラである(第17図).奥野・小林(1991)は鍋島岳テフラ層を下位から黄褐色火山灰層(Nb-1),軽石及び類質岩片を含むスコリア層(Nb-2),細粒スコリアを含む火山灰層(Nb-3),スコリア層(Nb-4)に区分した.鍋島岳東約500 mの地点では,Nb-1は厚さ約9 cmの火山灰層で,火山豆石を含む.Nb-2は,厚さ約1 m,径30 cmほどのスコリアとそれより大きな40 cmほどの軽石を含むもっとも規模が大きな鍋島岳テフラで,下部ほど類質岩片が多い.Nb-3は厚さ12 cmほどで,いくつかのユニットが識別できる細粒のスコリア・類質岩片・火山灰からなり,火山豆石を含む.Nb-4は厚さ約50 cm,主にスコリアからなり,スコリアの最大平均粒径は12 cmほどである.いずれのユニットの本質物にも急冷構造が認められ,噴火に水の関与があったと見られる.奥野・小林(1991)によると鍋島岳テフラ層の噴出質量は,約62×106 kgと推定されている.
A:山川町利永.スケールは1 m.
(図幅第6.15図)
鍋島岳溶岩ドーム本体は,暗灰色の苦鉄質包有物が多く認められる灰白色-暗灰色の単斜輝石斜方輝石角閃石デイサイト溶岩で,スコリア,軽石も同一の岩質である.鍋島岳溶岩ドームを構成するデイサイト溶岩の全岩主成分組成を 第1表2 に示す.鍋島岳南東山腹では,発泡度の違いによる流理構造が発達する(第18図).角閃石・斜方輝石・単斜輝石・斜長石が主な斑晶鉱物だが,まれに石英及びかんらん石も認められる.
(図幅第6.16図)
地質年代 奥野ほか(1993)は,鍋島岳テフラ層に含まれる炭化木片の放射性炭素年代値から,鍋島岳の噴火年代を4.3 kaと報告している.