5.6 kaの大規模な噴火活動で放出された池田湖テフラは,池崎[いけざき]火山灰,尾下[おさがり]スコリア,池田降下軽石,池田火砕流,山川火砕サージ,池田湖火山灰と呼ばれる(第5図,第6図).それぞれのテフラは,大きな浸食間隙なく整合的に堆積しており,短期間に起こった一連の噴火による噴出物と考えられる.
A:指宿市カオリン山付近における池田湖テフラ.Ik-Ik:池崎火山灰,Ik-Os:尾下スコリア,Ik Pfa:池田降下軽石.
B:同地点における池田湖テフラ柱状図.
1.粗粒火山灰,2.降下スコリア,3.降下軽石,4.火砕流・サージ堆積物,5.成層した細粒火山灰.6.腐食土壌(クロボク).
(図幅第6.3図)
A:5万分の1地質図幅「開聞岳」地域を中心とした分布.
B:池田降下軽石の広域分布.宇井(1967),小林ほか(1983)を元に新データで改変.
(図幅第6.4図)
以下に地質図に示していない池田湖テフラについて記載する.
池崎[いけざき]火山灰(Ik-Ik)
池崎火山灰(小林・成尾,1983)は,池田湖テフラ最初期の黄褐色粗粒火山灰層で,幸屋テフラの上位に発達した厚さ10 cmほどの黒色腐植土層を覆う.池田湖北方から東方の指宿市東方[ひがしかた]付近にかけてよく観察できる.指宿市水迫では,厚さ最大10 cmほどの黄褐色の礫混じりの粗粒火山灰層で,層厚変化が激しい.数 cmから数 mmの層理が認められる.軽石片など本質物由来と思われる火山灰は含まず,溶岩片・斜長石・黒雲母などの鉱物片がほとんどを占める.礫は径5 mm程度の安山岩片が主で,まれに花崗岩片を含む.成尾・小林(1984)は,池田湖北岸に近い池崎付近で,池崎火山灰に斜交層理が発達し,直径40〜50 cmに達する安山岩片,花崗岩片が堆積していることを報告した.これらの事実及び等層厚線から,成尾・小林(1984)は,池崎火山灰は水蒸気爆発によるサージ堆積物であり,池崎集落付近が噴出口と考えた.
尾下[おさがり]スコリア(Ik-Os)
宇井(1967)は池田降下軽石に先行する降下スコリア層を認め,尾下[おさがり]スコリアと命名した.尾下スコリアは,池崎火山灰を浸食間隙なしで覆う.池田湖から東方の広い範囲で認められるが,池田湖西方では池田降下軽石の下に尾下スコリアは認められない.これは噴出口が池田湖中心部より東側にあったためと考えられている(宇井,1967;成尾・小林,1984).尾下スコリアは,カリフラワー状または破断面で囲まれた,発泡の悪い黒色安山岩スコリアからなる.発泡が悪いこと及びカリフラワー状の外形から,尾下スコリアをもたらした噴火は水が関与した噴火である可能性が高い.指宿市水迫周辺での尾下スコリア層の厚さは5 cmほど,平均最大粒径は30 mmで,下位の池崎火山灰にめり込んでbomb sag構造を示すことがある.魚見岳でも直径2 cmほどの尾下スコリアが見られる.斑晶鉱物は,かんらん石・単斜輝石・斜方輝石・斜長石が認められる.
池田降下軽石(Ik-Pfa)
尾下スコリアの噴出に引き続き,巨大なプリニー式噴火が池田湖付近で発生し,池田降下軽石(宇井,1967)が,指宿地域から東方の大隅半島南部までの広い範囲に降下・堆積した.厚さは指宿市石嶺[いしみね]付近で3 m,東方[ひがしかた]付近で2 m以上に達し,大隅半島側でも根占[ねじめ]町花之木[はなのき]で1.5 mほどある.指宿市石嶺付近での軽石の平均最大粒径は10 cmを越える.軽石粒径の変化による不明瞭な層理が認められ,噴火の強度が変化したことがわかる.大半は発泡のよい白色流紋岩軽石だが,暗灰色の安山岩組成の縞が入った縞状軽石もよく認められる.このほか溶岩片が含まれるほか,堆積岩片,花崗岩片もわずかに含まれる.岩質は角閃石流紋岩で,斑晶鉱物として斜長石・石英・角閃石・単斜輝石・斜方輝石を含む.縞状軽石の暗色部には,かんらん石も認められる.