火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)


トリチウムを用いた地下水平均滞留時間モデル

地下水系の平均滞留時間を推定するためには,地下水流動モデルを設定する必要があります.完全混合モデル(帯水層完全混合流モデル)は,降水が涵養した後,地下水系内にて完全に混合し,その混合した地下水が流出するというモデルです.ピストン流モデルは,文字通り降水が涵養し地下水系に移行してから,そのまま混合しないで流動し流出するモデルです.いずれも,地下水系の容積を流出量で割った値が平均滞留時間となります.一般に,降水量が多く地下に断層が多数ある日本では,実際の地下水系は完全混合モデルの方に近いと言われています.

使用可能な温泉・地下水のトリチウム濃度は1974年(松葉谷ほか,1975)および1993年のデータです.それぞれについて計算結果を図に示します.本文では,完全混合モデルを用いていますが,比較のため,ピストン流モデルの結果についても示します.横軸が平均滞留時間(年)で,縦軸がそのときのトリチウム濃度(TU)です.

観測されたトリチウム濃度から,この図を使って地下水系の平均滞留時間が求められます.例えば,S1については,1974年の長浜の地下水のトリチウム濃度(54±2TU)から完全混合モデルのグラフから11年および25年の2つの解が得られ,1993年のデータ(3.1-3.8TU)から10-17年が得られます(表:各地下水系の平均滞留時間及び,マグマ起源成分量).

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