火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)


温泉水,地下水および火山ガスの水の水素・酸素同位体比

横軸は,水の酸素同位体比(18O/16O)で,標準平均海水の酸素同位体比に対する千分偏差(‰)で示してあります.縦軸は,水の水素同位体比(D/H)で,同じく標準平均海水の水素同位体比に対する千分偏差(‰)です.

☆は火山ガス(噴気ガス),△は硫黄島の温泉,○は海底および昭和硫黄島の温泉と海水および降水,+は掘削井の井戸水を示します.各温泉の位置は,図:火山ガス・温泉・土壌ガス分布を参照下さい.

日本の降水の水素・酸素同位体比のほとんどは,図中の2本の直線(δD=8δ18O+10,および,δD=8δ18O+20)に挟まれた領域にプロットされます.硫黄島の降水も同様です.

硫黄岳火口内で採取された火山ガスの多くは高い酸素同位体比(+6〜+10‰)を持ち,マグマ起源であることが示唆されます.硫黄岳の斜面にある噴気孔から放出されている火山ガスは,天水とマグマ水の混合線上にプロットされており,マグマ起源のガスに天水が加わって形成されたガスであると考えられます.

平家城温泉の同位体比は,水素が-25〜-20‰,酸素が-3〜-2‰です.硫黄岳南西部にある東温泉水は平家城温泉と降水の混合線上に分布しています.また,硫黄岳北東部の海岸の穴の浜温泉が,平家城温泉と海水の混合線上にプロットされます.さらに,硫黄岳南側の崖から湧出する湯の滝温泉と硫黄岳北部の北平(きたびら)温泉は,平家城温泉とマグマ水が混合したものと考えられます.これらの硫黄岳の周囲から湧出する温泉水は,同位体的には平家城温泉に酷似しています.

海水と降水が1:1で混合した地下水が硫黄岳山体内に存在し,その地下水にマグマ水が混合すれば,この平家城温泉水の同位体的特徴を説明できますが,Cl濃度は説明できません(図:温泉水,地下水および火山ガスのCl濃度と水の酸素同位体比を参照).天水の涵養・浸透時の蒸発プロセスによる同位体シフトが硫黄岳山体内で起き,蒸発の影響を大きく受けた地下水が関与している可能性があります.

外輪山の外側で湧出している坂本温泉とウタン浜温泉は,ともに降水と海水の混合線上に分布しているので,単純な降水と海水の混合系であることがわかります.ただし,マグマ性ガスの混入を否定するものではありません.

長浜の温泉水には,酸素同位体シフトしたものとそうでないものがあります.1990年に採取された試料は,海水と降水の単純な混合で説明可能です.1994年に採取した試料は,それよりも高い酸素同位体比を持ち,マグマ水の混入があることを示しています.

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