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桜島火山地質図(第2版) 解説地質図鳥瞰図
5:活動の監視・観測 - 将来の活動の予測

活動の監視・観測

 桜島火山の大正噴火は,日本における近代的な手法による火山活動観測の最初の舞台の1つであった.その後鹿児 島地方気象台による定常的な活動監視・観測に加えて, 1960年に京都大学防災研究所桜島火山観測所(現火山活動 研究センター)が設置され,日本で最もよく監視・観測が 行われている火山の1つである.地震計は京都大学・気象庁・大隅河川国道事務所・鹿児島大学合せて島内に18ヶ所設置され,島外にも多数の観測点がある.地盤変動観測は,坑道内に設置した傾斜計,伸縮計やGPSによる連続観測が行われている.京都大学と大隅河川国道事務所は200m超級の観測坑道を設置しており,GPSは京都大学・国土地理院・気象庁によって,24か所に設置されている.大学等研究機関による合同観測である集中総合観測は10回を数え,GPS・水準測量による地殼変動観測,重力・地磁気の 観測等が繰り返し行われている.

 桜島火山における火山性地震のうち,通常の地震と同様 にせん断破壊によって発生するA型地震の震源は桜島の北 東沖若尊カルデラ付近から桜島の南西沖にかけて分布し, 南岳火口直下では多数発生する( 第9図).一方,マグマの発 泡に関連して発生するB型地震と爆発地震は火口直下の1-3kmの範囲の深さにおいて発生する.1970年代にはA型地 震の発生から火口近傍の浅い場所でのB型地震の多発へ移行し,山頂噴火活動が活発化したが,1980年代はA型地震の発生なしにB型地震の群発が爆発的噴火活動の活発化に 結びついた.

 南岳の爆発の直前,10分〜数時間前には火口方向の地盤 の隆起傾斜と地盤の伸長が観測される( 第10図).これは,火道深部4km付近にマグマが貫入することによる体積膨張に起因している.爆発が発生するとマグマ物質の放出により地盤は沈降・収縮する.2009年以降爆発回数が増加している昭和火口の噴火でも同様の地盤変動がみられるが,多くは火口直下浅部1km付近の体積膨張によるものである.

 大正噴火のあと鹿児島湾北部の地盤は著しく沈降し,桜島の噴火活動は姶良カルデラを中心とする地殻変動に関係することが発見された. 第11図は鹿児島市北方大崎の鼻(水準点2474)の鹿児島市内(水準点2469)に対する上下変動を示したもので,大正噴火以後,沈降を回復するようにカルデラが隆起していることがわかる.しかし隆起は一様に進行しているのではなく,昭和溶岩が流出する活動の際には沈降し,南岳の噴火活動が著しいときは隆起が一時停滞もしくはやや沈降を示していることがわかる.一方,静穏期もしくは噴火活動が顕著でないときは隆起が継続し,その量は年間1千万m3のマグマの供給量に相当すると推定されている.現在の隆起は1993年ごろに再開したものである.


将来の活動の予測

 大正噴火以降の地盤の隆起から推定できるマグマの蓄積量とその状態が続いていること,2006年に再開した昭和火口の噴火活動は2009年以降,爆発回数を増加させていることから,長期的にみれば桜島の噴火活動は活発化の傾向が認められる.また,昭和火口における噴火活動の長期化あるいは激化から,昭和溶岩のような溶岩の流出に至る可能性もある.この活発化と噴火警戒レべルの導入を受け,鹿児島市では2010年に新たに桜島火山ハザードマッブを公開している.一方,1955年から続いた南岳の爆発的噴火活動は2000年以降,静穏化に向かったが,再び南岳の噴火活動に回帰する可能性も十分ある.南岳のブルカノ式噴火活動ではかなりの範囲に火山灰が拡散し,弾道放出された火山弾は3km程度の集落の至近距離に落下した.また,大雨に伴い,沢沿いで土石流が頻発した.さらに大正噴火で沈降した姶良カルデラの地盤の回復量( 第11図)からみて,文明・安永・大正の噴火に匹敵するような大噴火を想定する時期に近づきつつあることも指摘できる.現在は精密な火山観測が常時行われているので,このような大噴火については確実に直前の前兆現象をとらえることができ,突然不意におそわれるようなことはないであろう.しかし,このような大規模噴火が発生すれば,記録に残されているような大被害とともに現代の高度化した社会では新たな種類の被害がもたらされる可能性があり,人命や社会に被害が及ぶ危険は以前よりも増している.活動監視を行いつつ噴火 予知の高度化の研究を進めるとともに,短期・長期的な防災対策を実施することが今後とも必要である.


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