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桜島火山地質図(第2版) 解説地質図鳥瞰図
2:桜島火山の噴火史

  第2図はテフラ層序に基づく桜島火山の噴火史のまとめである.桜島火山起源のプリニー式降下軽石層は全部で17層識別されたが,このうち,上位の4層(P1〜P4)は歴史時代の噴火物である.テフラ層序および年代測定に基づく 桜島火山の噴火史は,4つのステージ(古期北岳・新期北 岳・古期南岳・新期南岳)に区分できる.

 古期北岳の活動期間は姶良Tn噴火(2.9万年前)の直後から2.4万年前頃までで,3層(P17〜P15)のテフラが島外において確認できる.古期北岳と認定された噴出物は島内の 地表には分布しないものの,黒神観測井の地下約350mから採取された安山岩溶岩岩塊からは30±5kaのK-Ar年代値が得られ,古期北岳の山体が伏在していることを意味している(宇都ほか,1999).次の新期北岳の活動開始は1.3万年前で,古期北岳期との間には約1万年の休止期間が存在した.この休止期間に高野べースサージ(A-Tkn:約1.9万年前)と北東沖新島の新島火砕流堆積物(A-Sj:約1.6万年前)が噴出したが,両者はともに桜島火山噴出物とは組成が異なり,姶良カルデラのマグマと類似する.両者は若尊 カルデラ( 第1図)もしくはその周辺から噴出したものと推定されている.

 新期北岳の初期の軽石噴火は大規模なものが多く,特に1.3万年前に発生したP14(桜島-薩摩テフラ)は,桜島火山では最大規模であった(火砕物の体積は約11km3).他の桜島火山起源のテフラで火砕物噴出量が2km3をこえるものはないので,P14は他のテフラとくらべ桁違いに大きい.桜島から10kmの範囲にはべースサージが到達しているほか,降下火砕物は南九州だけでなく,沖合の薩摩硫黄島と竹島にも分布している( 第3図).山腹の権現山溶岩はP11の降下軽石に覆われており,P12噴火で出現した可能性が大きい.権現山溶岩も含めた山腹の溶岩(春田山・引ノ平溶岩)のSiO2含有量は66〜68wt%と新期北岳溶岩流の64〜65wt%よりも珪長質である.おそらくこれらの溶岩は権現山溶岩とほぼ同時期に噴出したものであろう.これに対し新期北岳溶岩流の大半は,おそらく大半が1万年前よりも若く,特に北山腹のものは新期北岳最後のP5に直接覆われている.このP5噴火では山頂から たけ 武火砕流が発生し,その堆積物は山麓の広範囲に分布している.山麓部では非 〜弱溶結の軽石流堆積物であるが,山腹より上では強溶結となる.

 古期南岳の活動は約4.5千年前からで,この時期からブルカノ式噴火の降下火山灰からなる南岳火山砂(Sz-Mn: 第2図)の堆積が山体周辺で始まった.南岳主成層火山体の大半はこの時期に形成され,山麓には約4千年前の宮元溶岩や約3千年前の観音崎溶岩が流れ下っている(味喜,1999).南岳火山砂の堆積は約1.6千年前まで継続した.新期南岳の活動は,P4の天平宝字噴火(764〜766年)から始まり,古期南岳では起こらなかったプリニー式噴火の活動が再開している.P4以降の噴出物の化学組成は,後述するように同一SiO2含有量で比較して他成分が新期北岳・古期南岳噴出物とは系統的に異なっている.南岳で現在起きている噴火も含め,この新期の活動は継続中である.

  第4図 は桜島火山のプリニー式降下火砕物についてのテフラ噴出量-時間積算図である.古期-新期北岳の間に長期の休止期間が存在し,その直後のP14の噴出量は約11km3と桁違いに大きい.しかしそれ以降のテフラ噴出率は,大局的にみれば一定の割合で推移している.特にP3以降の最近500年間は,プリニー式噴火によるテフラの噴出が非常 に活動的な期間であることが明瞭である.


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