西之島火山 Nishinoshima Volcano


概要

研究史

海底地形

陸上地形

西之島の地質 I:西之島溶岩

西之島の地質 II:1973-74年噴出物

1973-74年噴火の概要

1973-74年噴火後の地形変化

全岩化学組成

文献

著者:中野 俊 2013/10/11

このデータ集は5万分の1地質図幅「父島列島」(海野・中野,2007)をもとに一部修正加筆したものである.

このデータ集を引用する場合,次のように引用してください.
中野 俊(2013)詳細火山データ集:西之島火山.日本の火山,産総研地質調査総合センター
https://gbank.gsj.jp/volcano/Act_Vol/nishinoshima
/index.html

西之島の地質 I:西之島溶岩

 西之島溶岩は、旧島及び北沖の岩礁群に分布し、西之島火山の山頂火口縁を構成する安山岩溶岩及び火砕岩であり、基本的に陸上における火山活動の噴出物である。旧島は南北に分かれた2段の台地状地形からなるが、以下、北台地、南台地と仮称する。

fig7
  第7図 西之島火山の地質図 海野・中野(2007)の一部
  N1: 西之島溶岩(1973-74年噴火以前の噴出物)N2: 1973-74年噴火噴出物
  a: 海浜堆積物(礫・砂) 赤字の緯度経度は世界測地系,黒字は日本測地系

 高度20m前後の南台地は2枚の安山岩溶岩からなる。下部の溶岩は南台地の北東側のみで観察され、確認できる層厚は5m程度、その基底面は露出しない。上部の溶岩は塊状部の層厚10-20 m以上で下部の溶岩との間にはクリンカーのみが挟在する。全体として2枚の溶岩の境界は緩く南ないし西傾斜であると考えられる。特に上部の溶岩では板状節理の発達が著しい部分がある(図8 第8図A)。空中写真では、東端の高度25m地点よりもやや東方から南西方向及び北西方向に流下したことを示す溶岩じわが認められ、この台地表面は上位溶岩流の原面であると考えられる。この溶岩の基底面の傾斜方向と同じであり、下位溶岩との間に浸食間隙が認められないことと矛盾しない。

 北台地は海抜高度数m~10mの平坦面を構成する溶岩が主体である。東崖では、この溶岩の少なくとも一部が火砕成溶岩であることを示す構造が見られる部分がある。南西側の海食崖では溶岩底面での水蒸気爆発に起因すると考えられる直径約4mの円形の竪孔が塊状溶岩中に見られる(図8b 第8図B)。この溶岩を覆って北台地の南半に局所的にアグルチネート及び火砕サージ堆積物が分布する(図9 第9図)。溶岩の上部クリンカーを覆って層厚約3mのアグルチネートが分布するが、連続性の悪い層厚20-30cmの成層した細粒火砕物(二次堆積物)がアグルチネートの下位に部分的に挟在する。アグルチネートの上位を、火砕サージと考えられる層厚50cm以下の成層・固結した細粒火砕物が覆う。なお、南台地の下部の溶岩が北台地を構成する溶岩に相当すると考えられるが、調査不十分につき現地で直接の層序関係を確認できていない。

fig8
図8 図を拡大する
第8図 西之島溶岩を構成する溶岩の産状
A:南台地南端に発達する板状節理 露頭の高さ約15m
B:南台地の溶岩中に形成された円筒状の爆裂火口跡 直径約3m
(海野・中野(2007)の第4.4図)


図6 図を拡大する
第9図 西之島溶岩を構成する火砕岩の産状(北台地) 
A:溶岩を覆うアグルチネート B:アグルチネートを覆う火砕サージ堆積物
(海野・中野(2007)の第4.5図)

 西之島溶岩の噴出時期は不明であるが、後期更新世あるいは完新世と考えられる。

 西之島溶岩の岩石はいずれも斜方輝石単斜輝石安山岩である(図10 第10図)。斑晶は大きさ1.5mm以下の斜長石、0.6mm以下の単斜輝石、1.0mm以下の斜方輝石、0.4mm以下の不透明鉱物からなり、その多くは自形ないし半自形を呈し、集斑状をなすことがある。斑晶量は、斜長石が6 %以下、輝石は合わせて3%以下である。石基は斜長石、単斜輝石、斜方輝石、不透明鉱物及び淡褐色ガラスからなる。なお、南台地南東の孤立した海抜高度9mの小岩体からはかんらん石斑晶の存在が報告されている(伊津,1976)。

図10 図を拡大する
第10図 西之島火山噴出物の顕微鏡写真 
西之島溶岩はGSJ R81925(地質標本館登録番号)Aは開放ニコル、Bは直交ニコル 
Pl:斜長石、Cpx:単斜輝石、Opx:斜方輝石
(海野・中野(2007)の第4.6図)

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