第3期に相当する安達太良火山のテフラについては,山元・阪口(2000)に詳しく書かれています.それによるとこの時期のテフラは,約25-20万年前の安達太良—水原テフラ群と,休止期をはさんで12万年前に始まった安達太良-最新期テフラ群に分けられます.安達太良-最新期テフラは更に,噴出規模や噴火様式から,12万年前の安達太良-岳テフラの活動,11-3万年前の活動,1万年前より新しい活動に細分できます.
1.安達太良-水原テフラ群:このテフラ群は,風成層にはさまれた,粘土化が顕著な6層のテフラからなります.風化が著しく,露出も悪いため,等層厚線図を書くことはできません.この時期は,火山列の主体部が形成された時期にあたり,大規模な溶岩流の流出に伴って発生した,サブプリニー式噴火によってもたらされたのが,このテフラ群と考えられます.テフラとして噴出した体積は1 km3未満と推定されます.
2.安達太良-岳テフラ:このテフラは,現存する安達太良火山テフラの中では最も大規模な活動に由来するものです.前期は軽石を主体とした降下火砕物で若干のスコリアを含み,後期はスコリアや火山弾,火山餅などが卓越しました.安達太良第2降下火砕物はこのテフラの給源近傍相です.また,元山火砕流や東麓に分布する湯川火砕流(このHPでは記載していない)も,このテフラと同時の活動に由来すると考えられています.総噴出量は,約2 km3と見積もられています.噴火様式はプリニー式からサブプリニー式,ストロンボリ式へと変化していきました.
3.11-3万年前の活動によるテフラ:この間に噴出したものとして,8テフラが確認されています.この時期には1−2万年間隔で爆発的噴火が起きました.Ad-MT, Ad-SH, Ad-EB1, Ad-EB2, Ad-NHは,岩石換算体積が0.05〜0.1 km3程度のサブプリニー式噴火,Ad-EB3, Ad-EB4, Ad-JMは,岩石換算体積が0.03〜0.05 km3程度のブルカノ式噴火です.8万年前のAd-EB2までは,平均噴出率が0.008 km3/1000年でしたが,その後はやや噴出量が低下したようにみえます.
4.1万年前より新しい活動によるテフラ:沼ノ平テフラ群がこの時期の噴出物です.パン皮状火山弾を含む,発泡の悪いガラス質安山岩のブルカノ式噴火堆積物が特徴的に見られます.そして,しばしばマグマ噴火に先行して水蒸気爆発があったことが,堆積物からうかがわれます.このうち,2400年前におこったAd-NT6では,マグマ噴火堆積物より,水蒸気爆発による堆積物の量の方が多くなっています.また,この噴出年代は酸川ラハール堆積物のうち,最大のL1の発生時期とほぼ一致します.これらは一連の噴火活動によって生じたものかもしれません.
地質層序図(第1期・第2期)
地質層序図(第3期)(藤縄・鎌田,2005を一部改変)
※テフラ記号をクリックすると別ウィンドウで分布図が表示されます