蔵王火山地質図 解説目次
1:はじめに - 2:蔵王火山と周辺の地質概要
3:蔵王火山の地形
4:蔵王火山の活動史
5:歴史時代の噴火
6:噴出物の岩石学的特徴 - 7:最近の状況 - 8:火山活動の監視体制
9:火山防災上の注意点
謝辞 / 引用文献
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1:はじめに - 2:蔵王火山と周辺の地質概要
1:はじめに
東北日本弧火山フロントの中央部に位置する蔵王火山は,東北地方の中で噴火記録が最多の活火山である.1894〜97 年には最新の噴火活動があり,山上の火口湖である御釜(おかま)を噴火口とする複数回の噴火が発生し,噴火と同時に湖水が溢れてラハールも発生した.1939〜43 年には,噴火に至らなかったが,火口湖の御釜の底から火山ガスが湧出し,湖水変色,湖面が硫黄で覆われるなどの活動が起こった.さらに 2013 年 1 月からは火山性微動が断続的に観測されており,今後の活動を注視すべき火山である.
蔵王火山については古くから多数の地質学的研究が行われてきた.比較的新しい研究(大場・今田, 1989; 酒寄, 1992)では,その活動を 3 ないし 4 つのステージに分けていた.今回,それらの先行研究を踏まえた上で,蔵王山の活動全体を通して層序の再検討を行い,各時期の噴火様式・形成された山体・マグマの特徴に注目して 6 つの活動ステージに区分した.また,新たな層序に基づく既存年代値(高岡ほか, 1989)の再検討と系統的な年代測定を行った(山﨑ほか, 2014).さらに,最新活動期(活動期 VI)については,地質調査,古記録の解析を詳細に行い,従来に比べ噴火史を格段に精度高く明らかにした.この地質図は,それらの成果に基づき蔵王火山の地質と噴火活動史をまとめたものである.
2:蔵王火山と周辺の地質概要
2.1 蔵王火山群と蔵王火山の概要
蔵王山は,最高峰の熊野岳(くまのだけ)(1,841 m)を中心として,鳥兜山(とりかぶとやま),五郎岳(ごろうだけ),地蔵山(じぞうさん),五色岳(ごしきだけ),刈田岳(かっただけ)などの多数のピークを持つ山々の総称である.蔵王山の周辺には,およそ北〜南に連なる多数の成層火山が存在し,広義の蔵王火山群をなしている( 第1図).本地質図では,北は鳥兜山から地蔵山,熊野岳をへて南の刈田岳付近までの間に噴出中心があったと推定される火山体を蔵王火山と定義する.これは従来,中央蔵王火山と呼ばれている範囲にほぼ対応する.その噴出物は,北は蔵王ダム,蔵王温泉付近,南は澄川(すみかわ)付近まで分布している.対象とする範囲の北方には約 100 万年前(高岡ほか, 1989)の瀧山(りゅうざん)火山,約 40〜 30 万年前(高岡, 1988)の雁戸山(がんどさん)火山,さらに北には約 200〜100 万年前(三村, 2001)の神室岳(かむろだけ)・大東岳(だいとうだけ)火山などからなる北蔵王火山が,南方には約 130〜 10 万年前(高岡ほか, 1989; 沼宮内ほか, 1992)に形成された後烏帽子岳(うしろえぼしだけ),杉ヶ峰(すぎがみね),屏風岳(びょうぶだけ),不忘山(ふぼうさん)などからなる南蔵王火山と約 150 万年前(山﨑ほか, 2014)の冷水山(ひやみずやま)火山が,西方には西蔵王火山が隣接している.さらに,南蔵王火山の東方には約 40 〜 30 万年前(伴ほか, 1992)の青麻(あおそ)火山がある( 第1図).
2.2 蔵王火山の基盤
基盤岩類は中生代白亜紀の花崗岩類や変成岩類,新生代中新世の堆積岩類・火砕岩類などからなる.白亜紀の花崗岩は対象地域の中央部に変成岩類を伴って分布している(山田, 1972).花崗岩の一部は,最
高で標高 1,490 m の名号峰(みょうごうほう)山頂にまで分布している.中新統としては,北部や西部では,宝沢層(市村, 1957)や成沢層(神保, 1965)などが,南部と東部では,峨々(がが)層,青根(あおね)層(山田, 1972)などが分布している.いずれも凝灰岩や凝灰角礫岩主体とする地層である.これらの地層も北西部や南西部において標高約 1,000 m 付近にまで分布している.蔵王火山本体の噴出物は,これらの基盤を覆うように分布している.
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