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蔵王火山地質図 解説地質図鳥瞰図
4:蔵王火山の活動史

 蔵王火山の活動を,時期,岩質,活動様式から6 つに区分した( 第2図). それらは,活動期 I : ソレアイト系列の玄武岩からなる水中火山岩であるロバの耳岩火山体形成期(約 100 万年前前後),活動期 II : 北部で安山岩質の火山体を形成した鳥兜‒横倉山火山体形成期(約 50 万年前),活動期 III : 主に安山岩からデイサイト質の成層火山体群である古熊野岳火山体と玄武岩質安山岩の中丸山火山体形成期(約 35〜25 万年前),活動期 IV : 主に安山岩で構成される成層火山体である刈田岳火山体形成期(約 25〜20 万年前),活動期 V : 主に安山岩で構成される成層火山体である熊野岳‒地蔵山火山体形成期(約 13〜4 万年前),活動期 VI : 玄武岩質安山岩の火砕岩で主に構成される御釜‒五色岳火山体が形成された最新活動期(約 3.5 万年前〜現在)である.噴出物の推定総体積は約 25 km3 である(第四紀火山カタログ委員会, 1999).なお,これ以降に述べる噴出物の体積は新たなユニット区分に従って求めた値であり,現存体積を溶岩換算している.なお,各ユニット名は,地質学的な休止期を挟まない一連の噴火で形成されたと判断したものを溶岩,火砕岩とし,複数の噴火期で形成されたものを溶岩類,火砕岩類とし区別して記述する.


4.1 活動期 I : ロバの耳岩火山体形成期(約 100 万年前前後)
 活動期 I の噴出物は,中央部のロバの耳岩,丸山沢や五色沢の源頭部周辺に広く分布する.玄武岩火砕岩,岩脈と岩床によって構成されている.従来,ロバの耳岩火砕岩類,丸山沢噴出物と二分されていたが(酒寄, 1992),すべて一連のものと考えられるため,ここでは一括してロバの耳岩火砕岩類及び岩脈群と呼称する.火砕岩の層厚は最大で 200 m に達する.岩相は,発泡度の低い火山礫〜火山岩塊を同質の細粒物が埋めているハイアロクラスタイト様を示すものが多い.含まれる岩片の粒度の変化で識別されるほぼ水平方向の層理が観察される.急冷縁を持つ伸長した形状を示す水冷火山弾も含まれ,それらは長径がメートルサイズのものも認められる.火砕岩に貫入する岩脈は,およそ北北西‒南南東方向に伸長し,火砕岩をほぼ垂直に貫いている.厚さは数十cm〜数mと変化に富む.ロバの耳岩付近で観察される岩脈は,最上部で分岐し,その一部が角礫状に自破砕し,周囲のハイアロクラスタイト様の火砕角礫岩に移化している.五色沢源頭部では岩脈からシルが派生している.以上から,この火砕岩は水中に玄武岩マグマが噴出したことによって形成され,岩脈は,それらの供給岩脈と考えられる.当時,この付近に海水が侵入していたとする証拠はなく,おそらく蔵王火山の活動に先行し湖が存在していたと推測される.浸食が進んでおり,かつ,後の噴出物によって覆われているため,形成当時の山体・古地形の正確な復元は困難である.本火山体の火山岩類から得られた年代値は,約180〜70万年前の値を示す(高岡ほか, 1989; 山﨑ほか, 2014).これらは値のばらつきも大きく,岩脈試料のため年代値の過大評価の可能性も考えられるため,正確な形成年代は不明である.そのため,本地質図では,ロバの耳岩火山体の形成期を約 100 万年前前後とする.現存するものの総体積は約 3 km3と推定される.


4.2 活動期 II : 鳥兜山‒横倉山火山体形成期(約 50 万年前)
 北部の鳥兜山,五郎岳,三方荒神山付近と横倉山付近に分布する.横倉山溶岩類,鳥兜山溶岩,五郎岳溶岩類及び三宝荒神山類で構成され,前者3 つの火山岩類は互いに岩質が類似している.その後の崩壊と浸食によって,山体の原形が失われている.形成年代は約 50 万年前,総体積は約 3 km3 と推定される.


4.3 活動期 III : 古熊野岳及び中丸山火山体形成期(約 35 〜 25 万年前)
 熊野岳の東西の浸食が進んだ部分に主に露出する古熊野岳火山体と,中丸山を構成する中丸山火山体に 2 分される.

4.3.1 古熊野岳火山体
 熊野岳の西部・東部の下部には安山岩〜デイサイト溶岩が広く分布する.蔵王沢付近及び東部の追分付近に露出するものを蔵王沢溶岩類,仙人沢流域に露出するものを仙人沢溶岩類,濁川流域に露出するものを不帰ノ滝溶岩類と呼称する.活動時期は約 35〜25 万年前である.総体積は約 12 km3 と推定される.仙人沢溶岩類の下位に火山岩塊火山灰流堆積物が認められる以外,いずれのユニットも複数の溶岩のみからなる.各ユニットを形成する一枚一枚の溶岩は,蔵王沢溶岩類では厚く,蔵王沢においては 100 m 以上の厚さに達するのに対し,仙人沢溶岩類は 10 m 程度,不帰ノ滝溶岩類は 10〜30 m 程度の厚さのものが主体である.蔵王沢溶岩類の分布域は広く,全岩組成のトレンドは地域によってやや異なっている.おそらく噴出中心は各々異なっていたものと思われ,また噴出時期も若干幅がある可能性がある.

4.3.2 中丸山火山体
 現在の主稜線から西方約 4 kmに位置する中丸山山頂付近から西側に分布する玄武岩質安山岩からなる中丸山溶岩類で構成される.活動時期は誤差範囲を考慮して約 27 万年前と考えられる.体積は約 0.12 km3 と推定される.溶岩は厚いところで約 10 m 程度に達するが,薄いものは数 m である.噴出口は現在の中丸山山頂付近と推定される.


4.4 活動期 IV : 刈田岳火山体形成期(約 25〜 20 万年前)
 刈田岳を中心に東西に流下した多数の溶岩によって構成される成層火山体を刈田岳火山体と呼称する.総体積は約 3.6 km3 と推定される.刈田岳から西方には,下位から坊平溶岩,一枚石沢溶岩類,御田の神溶岩の 3 つ,東方には,下位から賽ノ磧溶岩類,聖山平溶岩類,金吹沢溶岩類,蔵王エコーライン溶岩類の 4 つのユニットが認められる.中央部の刈田岳溶岩は,御田の神溶岩及び聖山平溶岩類を覆い,蔵王エコー ライン溶岩類は,分布から一枚石沢溶岩類の上位である.約 25〜20 万年前の年代値が得られている.個々の溶岩は厚い場合が多く,例えば坊平溶岩は 100 m 以上である.何れの噴出物も現在の刈田岳あるいはそのやや北方から噴出したと考えられる.溶岩の流下距離は時間の経過と共に短くなった.活動期 IV の期間は 5 万年間程度と短く,また噴出率は約 0.1 km3 / 千年と比較的高い( 第3図).


4.5 活動期 V : 熊野岳‒地蔵山火山体形成期(約 13〜 4 万年前)
 約 13 万年前から熊野岳〜地蔵岳付近を噴火口とする活動が起こり,火砕岩を多量に含む成層火山体が形成された.下位から熊野岳西方溶岩・火砕岩類,観松平溶岩類,地蔵山溶岩,地蔵山東溶岩,熊野岳主山体溶岩・火砕岩類,馬の背下部溶岩・火砕岩類,熊野岳山頂溶岩,馬の背溶岩からなる.体積は約 2.2 km3 と推定される.

 熊野岳西方溶岩・火砕岩類は,主に凝灰角礫岩ないしアグロメレートからなる.級化構造で区別される厚さ数 m 程度の多数の層で主に構成される.上部には厚さ 10 m 以下の溶岩が少なくとも 3 枚狭在する.その上位の観松平溶岩類及びその上位の地蔵山溶岩は主に溶岩で形成される.地蔵山溶岩は地蔵山東溶岩に覆われる.地蔵山東溶岩は,噴出中心近傍ではアグロメレートを伴い,遠方では溶岩のみが観察される.これらのユニットからは,約 13〜9 万年前の年代値が得られている.熊野岳主山体溶岩・火砕岩類は,馬の背カルデラ壁の下部に良く露出している.同質の火砕岩を随伴する複数の安山岩溶岩からなる.カルデラ壁下部の溶岩からは,約 9 万年前の年代値が得られている.馬の背下部溶岩・火砕岩類は,熊野岳主山体溶岩・火砕岩類の上位に傾斜不整合面を挟んで重なる.この噴出物は,凝灰角礫岩,アグロメレート及び溶岩からなる.この溶岩から約 7 万年前の年代値が得られている.その上位の,熊野岳山頂溶岩は,噴出中心近傍では約 2 m の大きさの火山弾を含むアグロメレート及びアグルチネートからなり,遠方では溶岩のみで構成される.最上位の馬の背溶岩は,溶岩主体であるが標高の高いところでは部分的にアグロメレートが見られる.約 4 万年前の年代値が得られている.活動期 V の期間は 9 万年程度で,噴出率は約 0.02 km3 / 千年と活動期 IV に比べて低い.


4.6 活動期 VI : 御釜‒五色岳火山体形成期(約 3.5 万年前〜現在)
 この活動期は約 3.5 万年前から始まり(Miura et al., 2008; Ban et al., 2008; Takebe and Ban, 2011), 噴出中心は馬の背カルデラ内の御釜〜五色岳付近の複数個所と推定される.最新活動期の噴出物は,下位から熊野岳火砕岩類,駒草平(こまくさだいら)火砕岩類,刈田岳火砕岩類,馬の背アグルチネート及び五色岳火砕岩類からなる(Ban et al., 2008).それらに加えて五色岳東方溶岩,刈田岳北方溶岩,濁川(にごりかわ)溶岩,振子滝溶岩及び五色岳南方溶岩などの溶岩も伴う.溶岩の前 3 者は刈田岳火砕岩類の下位,後 2 者は五色岳火砕岩類の下位であると考えられる.本活動期の噴出物は,溶岩を伴うが,火砕岩の量が著しく多いという特徴がある.これら最新活動期の噴出量は,蔵王火山の総噴出量の1割以下の0.74 km3 程度である.

 熊野岳火砕岩類は熊野岳山頂部の東半分の表層部に分布している.アグルチネート,アグロメレート,火山礫凝灰岩,凝灰角礫岩などが互層をなす火砕岩で,総層厚は 20 m 以上である.各単層の厚さは 20 cm 以下の場合が多い.活動期 III の熊野岳山頂溶岩を覆い,分布状況から駒草平火砕岩類の下位と考えられる.体積は約 1.9×10-3 km3 と推定される.駒草平火砕岩類は,アグルチネート,火砕角礫岩,凝灰角礫岩,火山礫凝灰岩,凝灰岩などで構成される多数の火砕岩層で構成され,総層厚は 30 m 以上である.体積は約 0.03 km3 と推定される.

 駒草平火砕岩類の分布は,馬の背カルデラのカルデラ壁に切られ,浸食カルデラ内部には分布しない.その一方,刈田岳火砕岩類以新の火砕岩類はカルデラ壁沿いからその内側かけて分布している.そのため,馬の背カルデラの地形形成は,駒草平火砕岩類の形成以降,刈田岳火砕岩類の形成以前である.馬の背カルデラは,従来,一回の大規模な崩壊によって形成されたと考えられていたが(今田・大場, 1985 など),それに対応する大規模な崩壊堆積物は見つかっていない.しかし,駒草平火砕岩類活動時の噴出量は後述するテフラを含めて約0.3 km3 であり,陥没カルデラを形成するほどの量ではない.そのため,この地形は陥没カルデラであるとは考え難い.おそらく,馬の背カルデラは,駒草平火砕岩類を噴出した火口地形が,浸食や小規模な崩壊の繰り返しによって拡大した,浸食カルデラであると考えられる.

  
濁川溶岩は,最大層厚 20 m 程度で峩々(がが)温泉の対岸に局部的に分布し,河川性の礫層を直接覆う.五色岳東方溶岩は,主に五色岳の東方約 400 〜 700 m 付近に分布する溶岩である.厚さは最大で約 50 m に達し,五色岳火砕岩類と馬の背アグルチネート及び刈田岳火砕岩類に覆われる.刈田岳北方溶岩は,馬の背カルデラ壁の南西部の標高約 1,500 m 付近に貼り付くように分布している.分布地域の標高を考えるとカルデラ底が深くなる前に噴出したものと考えられる.最大 5 m 程度の厚さで,北部に向かって薄くなる.直下に層厚 1 m 以上で長径約 5 cm 程度のスコリアで構成される降下スコリア堆積物が認められる.これも本ユニットに含める.この溶岩は,刈田岳火砕岩類に覆われる.これら3つの溶岩の岩質は似ており,苦鉄質包有物を含まない特徴も一致する.3 つの溶岩の体積は併せて約 6×10-3 km3 と推定される.

 刈田岳火砕岩類は,アグロメレート,火山角礫岩,凝灰角礫岩,火山礫凝灰岩,凝灰岩などからなり,総層厚は 30 m 以上である.体積は 約 1.5×10-3 km3 と推定される.馬の背アグルチネートは馬の背付近に主に分布している.五色岳東部にも局部的に見られる.厚さ 10 m 以上で,アグルチネート,アグロメレート,降下スコリア層などで構成される.体積は約 1×10-3 km3 と推定される.

 振子滝溶岩は,現在の五色岳山頂から約 400 m 北方の五色岳山体底部付近から振子滝まで連続的に,さらに振子滝の東方にも小規模に分布している溶岩である.五色岳南方溶岩は,五色岳の南の濁沢を挟んだ対岸の一部分に分布している.下部はハイアロクラスタイト様の凝灰角礫岩,上部が水中自破砕溶岩からなる.上部の水中自破砕溶岩は概ね垂直方向の粗めの節理に加え,その節理から垂直方向に細かめの節理が多数延びて,偽枕状溶岩状(Watanabe and Katsui, 1976)の産状を示す.振子滝溶岩及び五色岳南方溶岩の岩質は良く似ている.いずれ も,五色岳火砕岩類の下部に覆われるが,馬の背アグルチネートより下位の活動期 VI の火砕岩との層位関係は不明である.以上 2 つの溶岩の体積は併せて約 0.75×10-3 km3 と推定される..

 五色岳火砕岩類は,主に火砕丘をなす五色岳を構成する火砕岩である.火山礫凝灰岩,火砕角礫岩,凝灰角礫岩などの火砕岩を主体とし,アグルチネートも含む.体積は約 0.015 km3 と推定される.また,五色岳火砕岩類の活動期に,五色岳東側の一部が崩壊して濁川岩屑なだれ堆積物が形成された.

 これまでの火山灰層序学的研究(井村, 1994; 地質調査所, 2000; 伴 ほか, 2005; Miura et al., 2008; 河野ほか, 2014)により,最新活動期 に対応する 21 枚のスコリア質火山礫〜火山灰層が認められる.これらは蔵王‒遠刈田テフラ(Za–To)1〜16 と名付けられて,このうち 5 は 6 層に細分されている( 第4図).Za–To 1〜4(約 3.3〜1.3 万年前)が熊野岳火砕岩類,駒草平火砕岩類及び刈田岳火砕岩類の活動期に,Za–To5〜8(約9〜4.1千年前)が馬の背アグルチネートの活動期に,Za–To9〜16(約 2 千年前以降)が五色岳火砕岩類の活動期に形成されたと推定できる(伴ほか, 2005; 河野ほか, 2014).山体から離れた山麓部に広く分布しているテフラ層は,主に Za–To 1〜4 で,それらの等層厚線図を 第5図に示す.To1〜4 のテフラ層の体積は,0.3 〜 0.03 km3 であり(Miura et al., 2008),VEI( Newhall and Self, 1982): 4〜3 の噴火である.活動期 VI 中で最大の噴火は,駒草平火砕岩類に対比される Za–To2 であり,総噴出量 0.3 km3 にも及ぶ.Za–To2は,山麓では降下スコリア層とその上下の粗粒火山灰層として観察される.スコリア層部分は,蔵王川崎スコリア(板垣ほか, 1981)と呼称され,その分布軸は東北東を向き,火口から 40 km ほど離れた仙台市街地では最大 2 cm の厚さで堆積している(板垣ほか, 1981).形成年代は,約 3 万年前であり(長友ほか, 2005; Miura et al., 2008).規模から準プリニー式噴火による噴出物と考えられる.

 また,現在の五色岳山頂の南方部から御釜に火口が移動したのは,Za–To11 の活動からである.放射年代値,層位関係,前後の噴出物の特徴の変化などから,Za–To11 は後述する西暦 1230 年のものに相当すると考えられる.その他,放射年代値などから,Za–To14は17世紀,Za–To15 は 18 世紀末から 19 世紀前半,Za–To16 は 19 世紀中盤頃の噴火に対応するものと推定される.なお,1895 年噴火によると考えられる灰白色のテフラは古土壌を挟んで Za–To16 の上位に分布している.

  第3図に示した噴出量積算図の活動期 VI には上記のテフラの体積も加えてある.活動期 VI 全体の平均噴出率は約 0.03 km3 / 千年で,活動期 V と同程度である.詳しく見ると,熊野岳・駒草平・刈田岳火砕岩類の形成期は,その後の 2 つの火砕岩類の形成期の噴火と比較して,噴火間隔が長い一方で 1回の噴火は規模が大きい.五色岳火砕岩類と馬の背アグルチネートの活動期を比較すると,前者の方が噴火間隔は短く,1 回の噴火規模は小さい.噴出率は前者の方が後者よりやや高い.


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