aistgsj
第四紀火山>活火山>有珠
有珠火山地質図(第1版) 解説地質図鳥瞰図
1:まえがき - 有珠火山周辺の地質 - 有珠火山の概観

まえがき

 支笏・洞爺国立公園の一部を占める有珠火山は,寛文3年(1663年)から今日まで7回の噴火を記録しており,わが国における最も活動的な火山の一つである.近年になって有珠火山に生じた明治新山(1910年),昭和新山(1943-1945年)及び有珠新山(1977-1978年)は,粘性の高い珪長質マグマによる特異な火山活動の産物として注目されている.有珠火山の周辺には,優れた火山地形,肥沃な火山性土壌,豊かな温泉の湧出などがみられ,観光,農・林・水産業などの開発がさかんである.観光客は年間500万人に及んでいる.しかし火山地域の開発には,噴火災害や山体の崩壊・泥流(土石流)などの災害に対する考慮も必要である.このことは,1977-1978年の噴火を通じて改めて得られた教訓の一つである.この火山地質図は,有珠火山についてのこれまでの地質学的破究の結果をまとめたもので,有珠火山の将来の研究ばかりでなく,噴火防災・地域開発・観光などのために利用されることがあれば幸いである.


有珠火山周辺の地質

 北海道南西部の噴火湾の北辺には,澄明な湖水をたたえる洞爺湖がある.洞爺湖は,ほぼ円形のカルデラ湖で,直径約10km,湖面海抜84m,水深平均110m(最大179m)で,中央に既に活動を終わった輝石角閃石安山岩の溶岩円頂丘の集合からなる中島火山があり南側に有珠火山が噴出している.ブーゲー異常分布では,洞爺カルデラは低重力異常型に属し,カルデラ中心部は周縁より相対的に約11mgal低い.

 洞爺湖の周辺には,この地域の基盤を作る新第三紀の変質安山岩及び輝石安山岩などが広く分布している.壮瞥町滝の上付近から洞爺湖東岸にかけては,更新世初期に噴出したと考えられる壮瞥火砕流堆積物(流紋岩質,大部分非溶結)と滝の上火砕流堆積物(安山岩質,大部分溶結)が分布している.長流川東岸には,滝の上火砕流堆積物をおおって,礫・砂・シルト及び粘土からなる上長和層(更新世中期?)が露出している.上長和層は虻田市街地東方の丘陵地にも分布している.以上の更新世の地層は,有珠火山の基底にも広く分布し,昭和新山ではこれらの地層が押し上げられて地表に露出している.

 更新世末期には,現在の洞爺湖の中心付近で大規模な軽石噴火が起こり,洞爺カルデラが形成した.このときの噴出物が洞爺軽石流で,北方へはニナルカ台地をへて羊蹄山の基底から日本海の岩内海岸まで,また南方へは有珠山の基底から伊達市にかけて流下堆積している.これら洞爺軽石流堆積物の総量は20km3以上に及んでいる.長流川下流左岸の火砕流台地では上下2枚のフローユニットが認められ,下位が淡紅色火山灰流,上位が帯紅灰白色の軽石流(いずれも非溶結)からなっている.これらの岩質は輝石流紋岩である.洞爺軽石流堆積物の14C年代として1万数千年B.P.から>30,400年B.P.(GaK-2974)まで多くの報告があるが,若い方の値は再堆積物の年代であるらしい(画像を拡大 第1表 , 画像を拡大 第1図


有珠火山の概観

 有珠火山は,洞爺カルデラの南壁上に生じた二重式の火山で,直径約1.8kmの外輪山をもつ玄武岩-苦鉄質安山岩の成層火山(基底直径6km,比高約500m)と,その寄生火山(ドンコロ山スコリア丘),及び3個のデイサイト溶岩円頂丘(小有珠,大有珠,昭和新山)と7個の潜在円頂丘(西山,コンピラ山,西丸山,明治新山,東丸山,オガリ山,有珠新山)から構成されている.潜在円頂丘は粘性の大きなマグマが地表を隆起させて生じたもので,この実例は1910年に明治新山の形成によってはじめて明らかにされた.有珠山の溶岩円頂丘は,いずれも粘性の極めて高いデイサイト質マグマが地表を隆起して潜在円頂丘を作り,さらに引き続き溶岩が地表に突出したもので,その表面は滑り面をもつ赤い天然レンガで被覆されているのが特徴である.これらの円頂丘群は,山頂及び北麓をとおる北西-南東方向の2帯に配列している.円頂丘のいくつかは歴史時代に生じたことが記録からも明らかである.

 有珠山の形成史は完新世初期(約1万年前)にさかのぼる(画像を拡大 第1表).まず,洞爺カルデラの南壁で玄武岩-苦鉄質安山岩の溶岩・スコリア(有珠外輪山溶岩)が噴出した.これらの噴出物は,はじめ洞爺カルデラの内側に流下し,山体成長とともに外側にも流下して,円錐状の成層火山を作った.この時期に,北東麓の洞爺カルデラ壁沿いでは小さなスコリア丘(ドンコロ山)を生じている.その後,7000-8000年前,有珠山の山頂部は磐梯山の1888年の噴火のように水蒸気爆発によって山頂部が崩壊し,岩屑は南麓に広く流下して大小の流れ山を作った(善光寺岩屑流).この岩屑流堆積物は,有珠外輪山溶岩のほかに,洞爺軽石流堆積物や上長和層をもまきこんでおり,複雑な海岸線をもつ有珠湾を作り,また各所で採石されている.この堆積物の上位には,縄文早期から晩期までの人類遺跡が発見されている(若生貝塚).有珠火山の周縁にはその後,数千年の間,この火山を起源とする火山噴出物が見当たらず,有珠火山は長い間活動を休止していたと考えられる.この間に,有珠火山では地下に極めて珪長質なマグマが作られ,寛文3年(1663年)の軽石噴火(プリニー式噴火)に始まる歴史時代の動が起こった.有珠火山は歴史時代に軽石・火山灰噴火,水蒸気爆発などをくりかえし,ベースサージや火砕流をも発生し,さらに上述のような多数の溶岩円頂丘や潜在円頂丘を生じている.


 前をよむ 前を読む 次をよむ 次を読む