4:活動の監視・観測 - 将来の活動と災害の予測
活動の監視・観測
有珠火山の1910年の噴火では,臨時に設置された地震計により地震観測が行われ,また水準測量によって噴火に伴う地殻変動が観測された.大森房吉によるこれらの観測は,日本における近代的火山観測の先駆となった.1943-1945年の昭和新山の生成については,地震観測をはじめ,地殻変動,地形変化,地磁気・地温変化,さらに新溶岩,火山ガス,昇華物等の詳細な研究が行われ,粘性の大きなデイサイト質マグマの火山活動の特徴が明らかにされた.有珠火山では,その後,大学・気象庁・地質調査所などの機関により,多面的な調査・観測が実施された.特に1977-1978年噴火に際しては,火山噴火予知連絡会は現地に有珠山総合観測班を設け,各観測班の連絡・調整に当るとともに観測結果の検討を行って,火山活動に関する情報を関係自治体の災害対策本部等に提供した.また,1977年には北海道大学有珠火山観測所(UV0)が設置された.他の機関の常時・臨時の観測もあわせると,有珠火山は日本でも最もよく監視・観測が行われている火山の一つとなった.
現在,北海道大学有珠火山観測所は,山麓と山頂部の12ヵ所に地震計を設置し,集中記録方式でコンピューターによる常時連続観測を行っている.このほか,南麓では気象庁による地震観測も続けられている.北大有珠火山観測所は,地震観測の他に傾斜計,辺長・水準測量等による地殻変動の観測や,重力・地磁気・地電流・地温・噴気温度・地下水位などの観測を連続的に,あるいは繰返し実施している.また各大学その他の機関・研究者によって軽石・火山灰等の噴出物,火山ガス・温泉などについても観測・研究が進められている.
有珠火山の最近の活動は,粘性の高いデイサイト質マグマによってひき起こされており,地震の多発と著しい地殻変動を伴う特徴がある.1977-1978年の噴火・地震活動・地殼変動の推移の観測結果を 第10図に示す. 第11図は北大有珠火山観測所がとらえた1978年8月における震央分布である.これらの震源は高精度で決定されており,誤差は水平面で50m以内,鉛直面で100m以内である.これらの震源域は,有珠火口原内及びその周辺の比較的狭い範囲に限られ,しかも有珠新山の隆起に伴うU字型の断層帯( 第6図)に沿って地震が発生していることを明瞭に描き出している.火口分布や表面温度分布( 第12図)もこのパターンと調和的である.ここで注目されることは,隆起の中心部,つまり火口原中央の地下では地震が殆んど発生していないことである.この空白域にデイサイト質マグマが貫入し,隆起を続けているのであろう.
将来の活動と災害の予測
有珠火山は,大規模な1663年の活動のあとを除くと,約30-50年の休止期をへて噴火を反復している.このような噴火の反復性は長期的な噴火時期の予測の上で重視されている.さらに,過去のいずれの噴火でも,顕著な地震活動が先行している.このような現象は,マグマが珪長質で粘性が高いために起こると考えられ,将来,噴火に先行する諸現象の解析により,直前の噴火予知が可能となるであろう.
噴火史と火山構造から予測される将来の噴火地点は,有珠山頂部を含む北西-南東の地帯と,これに平行した北麓の地帯である.これらの地帯では,明治新山や昭和新山の形成時も,また1977-1978年の活動でも,破壊的な地殻変動が起こっている.この地帯は,洞爺カルデラ南壁の内側に相当しており,地盤も弱く,マグマの上昇の場となるだけでなく,マグマの上昇に伴う地殻変動も受け易いと考えられる.
噴火様式は,本質的にはマグマの性質に左右される.有珠火山の歴史時代のマグマの組成は珪長質で,ごく僅かづつSiO2量が減少する傾向にある.しかし,今後数10年間にマグマの組成が著しく変化する可能性は少ない.したがって,将来も当分はデイサイト質マグマを噴出する活動を起こすであろう.この場合,その活動様式として最も可能性が大きいのは多量の軽石・火山灰を噴出する爆発的噴火であり,また過去3回の噴火にみられたように火砕流が発生する可能性もある.粘性の大きなマグマの上昇により,地殻変動を伴いながら,潜在円頂丘または溶岩円頂丘が形成する公算も大きい.洞爺湖側の北麓で噴火が発生すると,1910年の活動のように高温のマグマが豊富な地下水層に接触して,激しい水蒸気爆発が起こったり,火口から直接火山泥流を発生する危険が考えられる.
以上のような噴火予測にもとづけば,その災害要因としては,1977-1978年の活動のような火砕物降下,地殻変動に加え,火砕流及び火山泥流などが想定される.これらにより災害が発生する範囲は,個々の要因によって異なる.軽石・火山灰降下による災害は風向に支配されて広範囲に及ぶが,火山岩塊・火山弾の落下は火口から2.0-2.5kmの範囲にとどまる.予想される破壊的な地殼変動は,主に山項から北麓地帯に限られる.火砕流は最も警戒すべき現象であり,その到達範囲は,過去の例によれば山頂から半径5-6kmである.また,火山泥流は火口の位置・地形及び下流域の水系に支配されて流下する.
以上のほか,噴火とは直接関係ないが,1977-1978年の活動に伴ったように,大雨によって泥流(土石流)が発生する危険は今後も存続する.外輪山の北東部一帯及び南東側の一部における崩壊は,今後も長く統くであろう.泥流防止の対策は将来も必要である.