有珠火山地質図 解説目次
1:まえがき - 有珠周辺の地質 - 有珠火山の概観
2:歴史時代の噴火
3:有珠火山の岩石
4:活動の監視・観測 - 将来の活動と災害の予測
5:文献
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3:有珠火山の岩石
有珠火山の本体を構成している外輪山溶岩は,玄武岩-苦鉄質安山岩であるが,1663年以降の歴史時代に噴出した軽石・円頂丘溶岩は,流紋岩-デイサイトである.
玄武岩及び苦鉄質安山岩は,暗灰,暗褐灰色で,一般に著しい斑状組織を示し,斜長石,かんらん石,紫蘇輝石,普通輝石などの斑晶を含み,ときに灰長石の大型斑晶(直径2-3cm)を含んでいる.石基はインターサータル又はインターグラニュラー組織を示し,おもに斜長石,普通輝石,ピジョン輝石からなり,少量のチタン磁鉄鉱,クリストバル石,燐灰石,火山ガラスなどを含んでいる.
流紋岩は,1663年降下軽石(Us-b層)として産し,大部分が白色で発泡のよい火山ガラスからなり,ごく少量の斜長石,鉄紫蘇輝石,チタン磁鉄鉱などの斑晶を含んでいる.流紋岩質軽石には,このほか,稀に普通輝石と普通角閃石の斑晶も含まれるが,石英は認められない.
デイサイトは円頂丘溶岩,軽石,パン皮状火山弾,火山岩塊などとして産する.円頂丘溶岩は,いずれも緻密で淡灰色を呈し,斑晶として一般に少量の斜長石,紫蘇輝石を含み,石基はクリプトフェルシチック組織を示し,斜長石,クリストバル石,アノーソクレース,紫蘇輝石,チタン磁鉄鉱,燐灰石,火山ガラスなどからなる.以上のほかごく稀に石英,普通輝石,普通角閃石を斑晶として含むことがある.火山岩塊やパン皮火山弾では石基が一般にガラス質で,軽石は大部分が無色,灰白色の多孔質ガラスからなっており,ともに円頂丘溶岩と同じように斜長石,紫蘇輝石の斑晶を少量含んでいる.
有珠火山の代表的な岩石の化学組成を 第2表に示す.外輪山溶岩はSiO2が49-53%で低く,Al2O3,FeO+Fe2O3,CaO,MgOなどに富んでいる.一方,歴史時代の軽石・円頂丘溶岩はSiO2が68-73%で高く,一般にAl2O3,FeO+Fe2O3,CaO,MgOなどに乏しい( 第9図).これらに共通した特徴は,アルカリ,特にK2Oに乏しいことである.有珠火山では,SiO2が55-66%の中間組成の岩石を欠除している.外輪山が形成してから,歴史時代の活動が始まる数千年の長い休止期に,極端に珪長質なマグマが生じたのである.
歴史時代の有珠火山の噴出物は,上述のようにいずれも珪長質であるが,初期のものは最もSiO2に富む流紋岩で,後期のものほどSiO2量がやや減少し、Al2O3,FeO+Fe2O3,MgO,CaO量がやや増加してデイサイトとなっている.本質噴出物のこのような経時的な組成変化は,歴史時代の活動に先だつ長い休止期の間に,有珠火山の地下に上部が流紋岩質で下部がデイサイト質の組成的に分層したマグマ溜りが形成されたことを暗示する.歴史時代の活動では,このマグマ溜りの上部から次々に噴出が行われたと考えられる.