十勝岳火山地質図 解説目次
1:はじめに - 2:十勝岳火山の概要
3:十勝岳火山群の活動史
4:歴史時代の噴火
5:噴出物の岩石学的特徴 - 6:硫黄鉱床及び温泉
7:火山観測体制 - 8:火山防災上の注意点
謝辞 - 引用文献
前を読む 次を読む
1:はじめに - 2:十勝岳火山群の概要
1:はじめに
十勝岳火山群は北海道中央部に位置する第四紀の火山群で,記録が残る19世紀以降,1926年,1962年,1988-89年にマグマの噴出を伴う噴火が起きている.特に1926年噴火では,山体崩壊とそれに伴う泥流の発生等によって死者行方不明者146名を出す災害を起こした.1988-89年の噴火以降も火山群中央部では噴気活動が依然活発であり,地震活動や地殻変動も観測されている.
十勝岳火山群の地質学的調査は納富 (1919),多田・津屋(1927) の予察的報告以降,高橋 (1960),勝井ほか (1963a),NEDO (1990) などによって行われてきた.また石川ほか (1971),勝井ほか (1987) は十勝岳火山群の火山活動を総括し,藤原ほか (2007) などは最近数千年間の噴火堆積物に焦点をあてた研究成果を公表している.この火山地質図は,これら研究成果に著者らによる地質調査と放射年代測定結果を加え,十勝岳火山群の火山地質をまとめたものである.
2:十勝岳火山群の概要
2.1 地形
十勝岳火山群は,北海道中央部からカムチャツカ半島へ延びる千島弧の南西端に位置し,標高1,400m〜2,000mの複数の火山からなる.これらは基底直径が5〜10km程の独立した噴出中心をもつ火山体をつくる.火山体は主に北東から南西方向に長さ約25kmにわたり配列し,北からオプタテシケ山,美瑛岳,平ヶ岳,富良野岳,前富良野岳,大麓山等の火山がある.千島弧南西部には,太平洋プレートの斜め沈み込みに伴う雁行配列した島嶼や火山列が形成されており,十勝岳火山群の北東-南西方向の配列も,この応力場の影響下にある.またこの方向と直交する北西-南東方向にも,上ホロカメットク山から境山 (奥十勝岳),下ホロカメットク山といった火山列が形成されている.
十勝岳火山群の縁辺に位置する火山体の周囲には,火山麓扇状地が広く形成されている.一方,火山群中央部に位置する十勝岳山頂の北西斜面には明瞭な火口地形が認識でき,山腹には新鮮な溶岩地形が保存されている.また上ホロカメットク山の北西側には,浸食により火口が拡大した地形や崩壊壁が認められ,その下流方向には岩屑なだれ堆積物や地すべり堆積物が分布している.
2.2 周辺の地質
十勝岳火山群の基盤岩は,鮮新世の火山岩類,後期鮮新世の美瑛火砕流堆積物,前期更新世の十勝火砕流堆積物からなる.美瑛火砕流 (約190万年前) 及び十勝火砕流 (110〜120万年前) は,流紋岩質の大規模火砕流堆積物で,十勝岳火山群を取り囲む旭川,美瑛,南富良野の各方面へ達している (池田・向山,1983).これら火砕流堆積物は,その分布,上面高度及び重力異常から,十勝岳火山群の北東部付近に噴出源があったとされる.美瑛川流域では,これら火砕流堆積物が東北東-西南西方向の断層で限られ,その上位を十勝岳火山群の噴出物が覆う.本地質図では,明瞭な変位を示す部分を伏在実在断層,それ以外の部分を伏在推定断層として表記した.これらは第四紀の断層運動であるが,十勝岳火山群ではそれ以降の明らかな断層は認められず,最近の断層運動は活発ではない.
前を読む 次を読む