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十勝岳火山地質図 解説地質図鳥瞰図
3: 十勝岳火山群の活動史

 十勝岳火山群の活動は,主に火山体の地形と岩石記載の特徴から古期,中期,新期の3つの活動期に区分されてきた (勝井ほか,1963a).本地質図では,新たに得た放射年代に加え,噴出中心の違いと岩石学的特徴の違いを考慮し,3つに区分されてきた活動期を再定義して用いる.活動年代は,古期が約100〜50万年前,中期が約30〜数万年前,新期が数万年前以降である ( 第1図).

3.1 古期
 古期噴出物は安山岩の大麓山火山 (Tr),布部川溶岩 (Nu),石垣山溶岩 (Is) からなる.大麓山火山は本地質図では南部にわずかに分布し,火山地形が失われた緩やかな斜面をもつ.分布及び現存する地形から,噴出中心は本地質図外南方と推定される.布部川溶岩及び石垣山溶岩はそれぞれ布部川沿いと火山群の稜線部にわずかに露出するのみで,噴出中心や全体の構造は不明である.

3.2 中期
 中期の活動は,十勝岳火山群の噴出中心の分布域が拡大 した時期として特徴づけられる.噴出物は主に玄武岩〜安山岩の溶岩と火砕物からなり,成層火山を形成する.わずかにデイサイト溶岩を伴う.地表に露出する噴出物の放射年代からは,古期との間に数十万年間の時間間隙が存在するようである.中期は,活動年代と噴出中心の広がりによって,約30〜20万年前 (中期1) と約20〜数万年前 (中期2) の2つに細分される.

 中期1では,玄武岩〜玄武岩質安山岩のオプタテシケ火山 (Op),前富良野岳火山 (Mf),下ホロカメットク火山 (Sh) が,それぞれ十勝岳火山群の北東,南西,南東部で活動した.オプタテシケ火山は安山岩を伴う.同時期に火山群の中央部では,安山岩の平ヶ岳火山 (Ta),奥十勝岳火山 (Ot),1840m峰火山 (18p) が活動した.またデイサイトの華雲ノ滝溶岩類 (Kn) もヌッカクシ富良野川の上流域に認められる.これら中期1の火山体には,浸食が進み明瞭な火口地形が認められないものが多い.

 中期2では,玄武岩〜玄武岩質安山岩の美瑛富士火山 (Bf) 及び富良野岳火山 (Fu),安山岩の美瑛岳火山 (Be),三峰山火山 (Sp) 及び三段山火山 (Sa) が活動した.これらの火山は,中期1で活動した火山の間を埋めるように火山体が成長している.これら火山体は,火山列の主方向である北東-南西方向と直交する北西-南東方向に延びた形を持つ.地質図の南部に位置する玄武岩の原始ヶ原溶岩 (Ge) は,火山麓扇状地堆積物1に覆われており,噴出源は不明である.しかし,噴出物の分布及び年代から中期2の側噴火噴出物と考えるのが妥当であろう.美瑛岳と富良野岳の山頂部には西側に開口した馬蹄形火口が認められる.その他の火山体の火口は埋積ないし浸食され明瞭ではない.

 これら中期の火山体周囲には,火山麓扇状地堆積物1が広く分布している.

3.3 新期
 新期は約6〜5万年前以降の活動で,噴出中心が十勝岳火山群中央部に収斂する.中期との間にある時間間隙の期間は不明である.新期は複数の火口から噴出した玄武岩〜安山岩の溶岩及び火砕物からなり,噴出中心の違いと活動時 期から,更に新期1と新期2に分けられる.新期噴出物には明瞭な溶岩地形が残されている.

3.3.1 新期1
 新期1では,上ホロカメットク山周辺,鋸岳火口,十勝岳山頂部で噴火が起こった.これらの活動は,十勝岳火山群の中央部にあたる径3km程の狭い範囲内で起こっている.上ホロカメットク山周辺からは,ヌッカクシ富良野川岩屑なだれ堆積物 (Nd) が流下し,その後上ホロカメットク溶岩類 (Kh),ナマコ尾根溶岩類 (Na),馬ノ背爆発角礫岩 (Ua) からなる安山岩質の溶岩及び火山砕屑物が噴出している.これら噴出物の噴出中心と考えられる上ホロカメットク山周辺には,それ以降の火山活動に伴う崩壊,浸食により,火口地形の拡大が起きている.鋸岳火口からは,安山岩の鋸岳溶岩類 (Nl) が流下し,周囲に鋸岳火砕丘 (Np) が形成された.鋸岳火砕丘は主に冷却節理を伴う火山岩塊と火山礫〜火山灰基質の噴出物からなり,これらにはサグ構造が認められる.十勝岳山頂部は比高100m程度をもつデイサイトの十勝岳溶岩 (Tl) からなる.新期1の噴火堆積物周囲には火山麓扇状地堆積物2が分布している.

3.3.2 新期2
 新期2には,十勝岳山頂北西側のグラウンド火口,摺鉢火口,北向火口,中央火口及び62火口 ( 第2図) と,上ホロカメットク山西側のヌッカクシ火口 (安政火口) で噴火が起こった.これらは完新世の活動である.このうちヌッカクシ火口 (安政火口) では水蒸気噴火のみが,他の火口ではマグマの噴出を伴う噴火が起こった.新期2の噴出物は溶岩流,降下火砕堆積物,火砕流堆積物と少量の岩屑なだれ堆積物からなる.岩質は主に玄武岩質安山岩からなり,玄武岩と安山岩を伴う.新期2では狭い範囲で噴出中心を移動させながら現在まで活動を継続し,爆発的噴火と溶岩流出を繰り返し起こした.このうち4,700年前以降の噴出物は,1) 給源となる火口の違い,2) 本質噴出物の岩石学的特徴の違い,3) 数百年間以上の時間間隙の存在から,活動期が細分されている (藤原ほか,2007,2009).本地質図では完新世初めに流下した溶岩流を新たに加え再区分した.これら新期2の噴火堆積物の周囲には火山麓扇状地堆積物3が分布している.新期2の噴出物の層序関係を 第3図に示す.

 なお上ホロカメットク山西方の火口は,従来ヌッカクシ火口,旧噴火口,安政火口と呼ばれてきた.本地質図ではヌッカクシ火口 (安政火口) と表記するが,安政年間に噴火が起こった確証はない.

グラウンド火口噴出物
 グラウンド火口は長径約800mをもち,北西側に開口した2つ以上の火口からなる.グラウンド火口の形成と同時期に流下した溶岩流の分布から推定すると,現在認識できる火口の北方延長にも火口があったと考えられる.

 この時期の最下位の噴出物は望岳橋溶岩 (Bo) である.本溶岩は標高1,130m〜700mに分布する厚さ20m以上の安山岩のブロック溶岩であり,溶岩流表面には新鮮な溶岩地形が認められる.溶岩流下位の土壌中に産する炭化物の炭素年代から,本溶岩が完新世の早い時期に活動したことは間違いない.現在では,それ以降の噴火堆積物に覆われ噴出源を特定できないが,地形と溶岩流の分布から,グラウンド火口一帯を噴出源と考えるのが妥当である.

 グラウンド火口の活動はその後,爆発的噴火から溶岩流出へと変化する.グラウンド火口で4,700年前と3,300年前に発生した火砕流堆積物 (Gf) は,標高1,570m〜620mに分布し白金温泉まで達している.層厚は10m以下である.地質図では,4,700年前の火砕流堆積物の分布が小規模であることから一括して示した.4,700年前の火砕流堆積物は,スコリアと少量の軽石を本質噴出物として持ち,類質及び異質岩片を多く含む.3,300年前の火砕流堆積物は下部と上部に分けられ,本質噴出物として下部がスコリアと軽石を,上部はスコリアを持つ.下部には本質噴出物に加え,類質及び異質岩片も多く含まれる.下部と上部の間に時間間隙を示す証拠はない.本質噴出物のうちスコリアは玄武岩質安山岩,軽石は安山岩である.堆積物の層相とグラウンド火口の形状から,4,700年前と3,300年前のそれぞれで,山体崩壊を伴う火砕流が発生したと考えられる.グラウンド火口を噴出源とする降下火砕堆積物 (Gp) は,3,300年前に噴口出したもので,火口周辺に広く溶結して堆積する.本質噴出物としてスコリアと軽石を伴う.これらの遠方相である降下スコリア (Tk-2) は,火口から東南東方向に分布し,70km程遠方の帯広周辺まで達している.グラウンド火口の活動末期に噴出したグラウンド火口溶岩 (Gl) は,火口北西の標高1,400m〜960mと白金温泉付近の標高730m〜670mに分布する.岩質は玄武岩質安山岩である.発泡した軽石片を取り込むことがある.

 グラウンド火口噴出物の総噴出量は0.07km3 DRE (岩石換算) と見積もられる.

摺鉢火口,北向火口噴出物及び焼山溶岩
 摺鉢火口,北向火口と焼山溶岩は前述のグラウンド火口の北に,北北西-南南東方向で配列し,ほぼ同時期に活動した.これらの噴出物はいずれも玄武岩質安山岩である.

 摺鉢火口は直径400mの均整のとれた摺鉢状の火口をもち,周囲に摺鉢火砕丘 (Su) をつくる.噴出物は溶結火砕岩を主体とし,火砕サージ堆積物を伴う.火口壁には中期の平ヶ岳火山噴出物が露出することから,摺鉢火口はマールである.摺鉢火口から噴出した降下スコリアはTk-4と呼ばれ,東南東方向に分布し,摩周火山起源の摩周b火山灰 (約1,000年前) に覆われる.すなわち摺鉢火口の形成は1,000年前より古い.

 北向火口は近接した複数の火口からなり,火砕丘の形成と溶岩流出を繰り返した.これらの噴出順序と被覆関係は第3図に示している.雲ノ平火砕丘 (Km) は,北方に開口したと思われる火口が認められ,これに並行する方向に延びたやや扁平な火砕丘をつくる.最下位には火砕サージ堆積物を伴う.降下スコリア (Tk-5) が東方に小規模に分布する.北向第一火砕丘 (Kp1)は径500m程の小型の火砕丘である.降下スコリア (Tk-6) が東南東方向に分布し,摩周b火山灰 (約1,000年前) を覆う.北向第一溶岩 (Kl1) は雲ノ平火砕丘の中央部にある火口を埋積し,アバレ川に沿って山麓まで約3.5km流下している.北向第二溶岩 (Kl2) は火口から西方に約600m流下した小規模な溶岩流である.北向第二火砕丘 (Kp2) は径200m程のごく小規模な火砕丘である.

 焼山溶岩 (Yl)は標高1,000m〜780mの山麓部に分布する.表面の植生が北向第一溶岩より未発達である.明瞭な火口地形を認めることは出来ない.分布から標高1,000m付近より噴出したと推定され,完新世で最も標高の低い地点からの噴出物になる.

 これらの総噴出量は0.037km3 DRE (岩石換算) と見積もられる.

中央火口噴出物
 中央火口からの噴出物は中央火口丘(Cp)と中央火口丘溶岩(Cl)である.中央火口丘は,グラウンド火口の北西側に位置し比高50m程の火砕丘をつくる.1926年噴火の際に一部が崩壊し,北西方向に開口した地形を持つが,それ以前は北東-南西方向にやや伸張した火砕丘であった.中央火口丘に対比される降下スコリア(Tk-7)が,中央火口から東南東方向に小規模に分布する.噴出物の岩質は玄武岩である.中央火口丘溶岩は,平ヶ岳火山にできた浸食沢に沿って,中央火口から標高910mまで約2km流下しているアア溶岩である.本溶岩の厚さは5m程で,中央火口丘起源の降下スコリア(Tk-7)を直接覆う.岩質は玄武岩質安山岩である.中央火口噴出物の総噴出量は0.019km3DRE(岩石換算)と見積もられる.

ヌッカクシ火口 (安政火口)噴出物
 ヌッカクシ火口(安政火口)噴出物は完新世に起こった複数回の水蒸気噴火堆積物である.これらは変質した岩片を主体とし,火口周辺にごく小規模に分布している.最上位の噴出物は樽前a火山灰(西暦1739年)を覆う.分布が狭いため本地質図では省略した.


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