十勝岳火山地質図 解説目次
1:はじめに - 2:十勝岳火山の概要
3:十勝岳火山群の活動史
4:歴史時代の噴火
5:噴出物の岩石学的特徴 - 6:硫黄鉱床及び温泉
7:火山観測体制 - 8:火山防災上の注意点
謝辞 - 引用文献
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7:火山観測体制 - 8:火山防災上の注意点
7:火山観測体制
十勝岳火山群では,1959年1月に地震の常時観測が始まり,1962年噴火の1年後には,十勝岳火山観測所 (気象庁) が白金温泉に設置された.それ以降多くの機関が各種観測を実施している.現在の各種観測点は十勝岳山頂の北西側とヌッカクシ火口 (安政火口) 周辺に集中している.地震計は気象庁・北海道大学・防災科学技術研究所・北海道により13台,空振計は気象庁・北海道大学・北海道により4台,GPSは気象庁・国土地理院・道立地質研究所により6台が設置されている (2010年2月現在).また気象庁,北海道開発局,北海道による遠望カメラでも火山活動が監視されている.気象庁では2007年12月以降,十勝岳火山群に噴火警戒レベルを導入し,火山活動の状況を1〜5の5段階に評価,公表している.なお,十勝岳火山観測所は1995年に無人化され,現在では観測データが札幌管区気象台へ自動送信されている.
8:火山防災上の注意点
十勝岳火山群における完新世の噴火活動の特徴は,ストロンボリ〜準プリニー式噴火での降下火砕物の噴出が起こった後,溶岩が流出するというサイクルを繰り返していることである.比較的穏やかな噴火がほとんどであり,防災上憂慮される規模の火砕流は,4,700〜3,300年前にグラウンド火口の活動で発生しているのみである.個々の噴火の噴出量は少なく,4,700年間の総噴出量で 0.13 km3 DRE (岩石換算) 程度であり ( 第7図),他の北海道の活火山と比べてもその量は少ない.マグマ噴出率は過去4,700年間での顕著な変化は認められず,今後も同様の活動が続くと考えられる.一方,ヌッカクシ火口 (安政火口) では完新世のマグマ噴火は認められないが,小規模な水蒸気噴火が繰り返し発生している.十勝岳火山群では十勝岳北西斜面でのマグマ噴火だけではなく,ヌッカクシ火口 (安政火口)での熱水活動と,関連する水蒸気噴火にも注意が必要である.これらのマグマ活動と熱水活動が連動しているかについては,今後の調査が待たれる.
十勝岳火山群の火山防災上の留意点として挙げられるのは,グラウンド火口周辺やヌッカクシ火口 (安政火口) 周辺において,熱水活動が盛んで山体の変質が進んでいるため,マグマ噴出が小規模であっても熱水噴出や山体崩壊を伴う可能性が高いことである.また積雪の期間が長く積雪量も多いため,噴火による融雪火山泥流の発生も大きな問題である.1926年の噴火では山体崩壊と熱水噴出,そして融雪も加わって大規模な大正泥流が発生した.同程度の規模の泥流は過去4,700年間で繰り返し発生したことは明らかであり,富良野川流域では,完新世に7回の大規模な泥流堆積物が報告されている (南里ほか,2008).これら泥流堆積物の一部は,本地質図で示した噴火年代とは異なる時期に発生しており,噴火とは直接関係ない大規模地震により発生した可能性もある.従って,観測による噴火前兆の的確な把握だけではなく,特に泥流に対する防災対応を日頃から整えておく必要があろう.
20世紀に起こった3回のマグマ噴火 (1926年,1962年,1988-89年) では,火口での昇華硫黄量の増加,温泉の泉温上昇,小規模な水蒸気噴火の繰り返し,地震の発生回数の増加等,噴火前に予兆現象が起こっている ( 第1表).噴火の継続期間は1ヶ月〜2年であり,噴火開始から数時間〜数日後に最盛期を迎える共通点がある.これら20世紀の噴火事例は観測体制の整備や観測結果の解釈に役立つと考えられるが,完新世の噴火履歴を考慮すると,それらに加えて20世紀の噴火ではなかった溶岩流の流下も想定しておく必要がある.