火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)
大谷平(おおたにびら)西のテフラ
山頂部の硫黄岳新期溶岩を覆うテフラは,下位から降下軽石層(K-Iw-P1),火砕サージ堆積物(K-Iw-S1),火砕流堆積物(K-Iw-P2)に大別できます.
K-Iw-P1は,白色軽石のほかに縞状軽石を大量に含む降下軽石層で,層厚は約7mに達し,一部は溶結しています. K-Iw-P1から採集された炭化木片から炭素同位体年代法を用いて1130±40年前の年代値が得られています(Kawanabe and Saito, 2002).山麓に分布するK-Sk-u-3の層順に縞状軽石を含む火砕流堆積物があり(前野・谷口,2005),層位および岩相からおそらくK-Iw-P1に対比されます.このことから硫黄岳は1100年以上前に成長を終え,現在とほとんど変わらない大きさになっていたと思われます.なお竹島西端のオンボ崎の硫黄岳テフラ中に軽石が散在する層準の下位の腐食土壌の年代は1290±80年前と報告されており(奥野ほか,1994),この軽石層がK-Iw-P1に対比される可能性があります.
K-Iw-S1はK-Iw-P1を直接覆います,砂〜礫サイズの流紋岩片からなる層理の発達したサージ堆積物です.斜交層理から推定される流走方向,火山岩塊の衝突痕の方向から,大穴火口から噴出したと考えられます.またK-Iw-S1はキンツバ火口内にも分布することから,キンツバ火口はK-Iw-S1以前には形成されていたらしい.
K-Iw-P2は,白色軽石と黒曜岩岩塊を含む火砕流堆積物で山頂部でK-Iw-S1が作る谷に沿って分布するほか,西中腹の展望台付近,山麓の登山道上り口,東温泉周辺にも分布します(硫黄岳テフラ柱状図および年代値).硫黄岳で最新のマグマ噴火による堆積物で,堆積物中に含まれる大量の炭化物から600年から500年前の年代値が得られています(Kawanabe and Saito, 2002).山麓に分布するK-Sk-u4の中の噴火イベントに対応すると考えられます.
Kawanabe and Saito (2002) Fig.5を引用.
1999年11月 川辺禎久撮影