火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)


メルト包有物のH2O, SおよびCl濃度

カルデラ噴火(竹島火砕流軽石)および後カルデラ期噴火(稲村岳スコリア,硫黄岳軽石,昭和硫黄島溶岩)のメルト包有物のH2O, SおよびCl濃度を図に示します.紫色の♢が竹島火砕流軽石,緑色の□が稲村岳スコリア,赤色の△が硫黄岳軽石,黄色の○が昭和硫黄島溶岩のメルト包有物です.

竹島火砕流軽石,硫黄岳軽石,昭和硫黄島溶岩の流紋岩メルト包有物は同様なS濃度を持っています.一方,稲村岳スコリアのメルト包有物は1000-2000ppmのS濃度を持ち,流紋岩メルト包有物よりも高い.

Cl濃度は,流紋岩メルト包有物の方が,稲村岳スコリアのメルト包有物よりも高い.また,流紋岩メルト包有物内では,竹島火砕流軽石,硫黄岳軽石,昭和硫黄島溶岩の順にCl濃度が高くなっているように見える.メルト包有物の主成分元素組成および岩石学的研究から,竹島火砕流噴火から昭和硫黄島噴火までに流紋岩マグマ溜まりが少し結晶化していると考えられていることとと,このCl濃度の時間変動は調和的です.すなわち,この結晶化により珪酸塩メルトのCl濃度も高くなった可能性があります.

一方,昭和硫黄島メルト包有物のS/H2O比は,火山ガスのS/H2O比と同様な値を示しています.H2OとCO2と同様に, H2OとSがほとんど脱ガスすれば,これらの比は一致するので,低圧下の脱ガスを示唆しています.

一方,Clは低圧で脱ガスが起きても,H2OやSに比べて珪酸塩メルトへの溶解度が高いので,Clの一部はメルトに残ります. 実際に竹島火砕流軽石,硫黄岳軽石,昭和硫黄島溶岩の基質ガラスを分析したところ,約1200ppmのCl濃度を持つことがわかっています. そこで,マグマの脱ガスで現在硫黄岳山頂火口から放出されている火山ガスと同じ組成のガスが放出され,H2Oが完全に脱ガス,Clがメルトに1200ppm残ったと仮定した場合の,元々のメルトのClおよびH2O濃度のとりうる値をLine Aで示します.昭和硫黄島メルト包有物はLine Aより少し上に位置するが,昭和硫黄島メルトが火山ガスの起源であるという仮説と大きな矛盾はありません..

Saito et al. (2001)のFig.7を改変.