火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)


流紋岩メルト包有物の主成分元素組成

メルト包有物の主成分元素組成は,マグマ溜まりの進化過程のどの時点でそのメルト包有物が捕獲されたかを知るために重要な情報です.メルト包有物の主成分元素組成は,鉱物の化学分析と同じくEPMAで測定できます.

この図は,Saito et al. (2001)による薩摩硫黄島火山のカルデラ噴火(約7300年前の竹島火砕流噴火)および後カルデラ期噴火(約500年前の硫黄岳,1934-1935年の昭和硫黄島噴火)の流紋岩質メルト包有物と基質ガラスの主成分元素組成です. 竹島火砕流軽石(赤色の◆),硫黄岳軽石(赤色の▲),昭和硫黄島溶岩(黄色の●)のメルト包有物は,どれもSiO2濃度が70wt.%以上の流紋岩組成を持っています.一つの噴火内では,メルト包有物はほぼ同様な化学組成を持っています.しかし,3つの噴火を比べると,噴火時期が新しくなるにつれ,SiO2,K2O濃度が高くなり,Al2O3, CaO, FeO濃度は低下していることがわかります.

また,各噴火のメルト包有物の主成分元素組成は,そのメルト包有物が含まれている火山岩の基質ガラスの組成(竹島火砕流軽石は◇,硫黄岳軽石は△,昭和硫黄島溶岩は○)とほぼ同じ範囲にあります.基質ガラスは,マグマ溜まりの噴火直前のメルトが急冷・固化したものであるので,これらのメルト包有物は,噴火直前のマグマだまりのメルトが捕獲され形成されたと考えられています.

一方,図中に示すように,竹島火砕流噴火(約7300年前)から昭和硫黄島噴火(1934-1935年)までの流紋岩の全岩化学組成はほぼ同じ範囲にあります(→岩石学).従って,上記のメルト包有物および基質ガラスの主成分元素組成の時間変化はマグマ溜まりの結晶化によって起きていることが考えられています.例えば,上記の竹島火砕流噴火(約7300年前)から硫黄岳噴火(約500年前)までのSiO2, Al2O3, CaO, K2O濃度の変化は,マグマ溜まり内での斜長石(An50)の5-10vol%の晶出で説明可能です.また,カルデラ噴火から昭和硫黄島噴火(1934-1935年)までは15-20vol%の晶出で説明可能です.実際のモード組成は,竹島は斜長石7vol%, 硫黄岳7-14vol%,昭和硫黄島14vol%で,時間とともに斜長石斑晶が増加する傾向が見られ,この仮説と矛盾していません.

Saito et al. (2001)のFig.4を改変.

この画像へのリンク: