火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)


遠地地震の振幅減衰域

地震学的にマグマ溜まりを探査する手法として,遠地地震の観測が挙げられます.地震波のうち,S波(横波)は気体や液体中を伝播できず,マグマ溜まりを通過する地震波ではP波(縦波)に比してはS波は大きく減衰します.このため,遠地地震のS波の減衰が大きい領域を調べることでマグマ溜まりの位置や大きさを推定できると考えられています.火山体周辺に広く分布した観測点において,様々な方角から到来した地震波を比較して,ある領域を通過したS波のみが減衰するのであれば,その領域が減衰域,すなわちマグマ溜まりと推定されます.

この図(遠地地震の振幅減衰域)は,西ほか(2001)による遠地地震の振幅減衰域の観測結果です.鬼界カルデラ北縁の薩摩硫黄島と薩摩竹島に設置した臨時観測点と観測された遠地地震の震源とを直線で結び,他の観測点に比してS波の振幅の減衰が大きい場合に太い直線で表わしています.この直線がその遠地地震から到来した地震波の主な経路と考えると,太い直線で示された経路の上に減衰の大きな場所があると考えられます.図からわかるように,鬼界カルデラ内部に遠地地震の減衰域があるのは認められますが,観測点がカルデラ北縁に限られ,また遠地地震の到来方向にも偏りがあるため,マグマ溜まりの位置や大きさを推定するまでには到ってません.

遠地地震観測でマグマ溜まりの位置や大きさを精度よく推定するためには,火山周辺で広範囲に観測点を分布し,十分な数の遠地地震を観測する必要があります.カルデラ底やカルデラ壁,カルデラ周辺域のほとんどが海中にある薩摩硫黄島火山では,陸上での観測に加え,海底地震計を用いた観測を行う必要があります.

西ほか(2001)のFig.2, 4を引用.