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桜島火山地質図(第1版) 解説地質図鳥瞰図
5:桜島火山の岩石 - 活動の監視観測 - 将来の活動の予測

桜島火山の岩石

 桜島火山の岩石は輝石安山岩及び輝石デイサイトとよばれる.これは安山岩とデイサイトの2種類の異なった岩石があるというのではなく,全体として化学組成には多少の幅があってSiO257-67%の範囲にわたりそのうちSiO2の少ない方(62%以下)を安山岩,SiO2の多い方(63%以上)をデイサイトと区分したのである.

 すべての岩石は斜長石・紫蘇輝石・普通輝石・チタン磁鉄鉱の斑晶を含み,SiO2の少ない岩石には以上のほかにかんらん石の斑晶を含むものがある.石基は一般にごく細粒の斜長石・輝石・鉄鉱・珪酸鉱物とガラスとからなり,SiO2の多い岩石中では一般にガラスの量が多い.

 桜島火山の代表的な岩石の化学組成を第1表を拡大する 第1表に示す.前述したとおりSiO2にして約10%の組成範囲があるが,岩石の化学組成と噴出順序とに一定の関係があるようにはみえない.しかし,歴史時代の溶岩については文明・安永・大正の順にSiO2%が66・64・62-59と規則的に減少している.また大正噴火の噴出物中にも組成差があり,室内実験の結果によると,1914年1月最初に噴出した軽石,同月のT1溶岩,1915年4月のT2’溶岩の順に噴火直前のマグマ中の水蒸気圧の減少,マグマ温度の増大が推定されている.大正噴火以後は1939年の噴火以来1978年までSiO2は57-62%であり,その他の成分を含めても規則的な変化はみられない.

 火山灰はマグマまたは既存の岩石の細粉であるから,一般的には火山灰の化学組成は溶岩のそれと同じである.しかし,変質した岩石の放出や,粒径によって分別されて斑晶や石基が別々に集められたりすると,もとのマグマや溶岩と異なる組成になる.赤色の火山灰は高温で酸化を受けたもので,Feの全量は同じでも,FeOに比べFe2O3が多い.


活動の監視・観測

 桜島火山の大正(1914-15年)の噴火は,日本における近代的な手法による火山活動観測の最初の舞台の1つであった.その後鹿児島地方気象台による定常的な活動監視・観測に加えて,1960年京都大学防災研究所桜島火山観測所が設置され,その他各機関の常時・臨時の観測もあわせ日本で最もよく監視・観測が行われている火山である.地震計は京都大学・気象庁・鹿児島大学合せて島内に15ヶ所設置され,島外の数ヵ所に現在なお増設されつつある.その他傾斜計,伸縮計,辺長・水準測量,検潮等による地殼変動観測や重力・地磁気の観測等が連続的に,あるいは繰り返し行われている.また固型噴出物(噴石・軽石・火山灰),ガス・温泉などについても鹿児島大学など多くの機関・研究者によって観測・研究が続けられている.

 紙面の制約のため,詳細は参考文献を見て項きたいが,現在までに判明している主な事実の一部を以下に記す.桜島火山における火山地震にはいくつかの型が区別されている.火山下のやや深い所におきるA型地震の震源は火口直下から南南西方向に次第に深くなるように分布する(図4を拡大する 第6図).B型地震は火口近傍の深さ1km以内,爆発地震は同じく深さ1-3km前後でおきる.A型地震がはじめ深い場所で,ついで浅い場所で発生し,さらに火口近傍の浅い場所でB型地震が発生し,山頂噴火活動が活発化するという順序をたどった例がこれまで数例確認されている.

 大正噴火のあと鹿児島湾北部の地盤が著しく沈降し,桜島の噴火活動と姶良カルデラを中心とする地殻変動とが関係することが発見された.第7図を拡大する 第7図は鹿児島市北方大崎の鼻(水準点2474)の鹿児島市内(水準点2469)に対する動きを示したもので,大正噴火以後,沈降を回復するようにカルデラ中心側が隆起していること,しかし隆起は一様に進行しているのではなく,昭和溶岩(1946年)が流出する活動の際にはやや沈降し,その後も噴火活動が著しいときには隆起が一時停滞していることがわかる.


将来の活動の予測

 桜島火山は活火山として将来も活発に活動を続けるであろう.文明・安永・大正の噴火に匹敵するような大噴火も200-700年位の周期でおきて,記録に残されているような大被害をもたらす可能性がある.しかし,現在は精密な火山観測が常時行われているので,このような大噴火については確実に前兆現象をとらえることができ,突然不意におそわれるようなことはないであろう.しかし,噴火予知の科学の現状は,現在のように継統して活動が行われている期間中の,1回1回の山頂爆発を確実に予知するまでには至っていない.

 最近のような活動が続くかぎり,かなりの範囲に広がる降灰と,爆発に伴う噴石の落下,ときおりの小規模な火砕流の発生は続くであろう.昭和溶岩(1946年)のような溶岩の流出の可能性も否定できない.また直接の火山活動ではないが,大雨に伴う土石流発生の危険は常に存在する.南岳火口から3km程度の至近距離に人家や幹線道路がある現在では,このような活動によって人命や社会に被害が及ぶ危険は以前よりも増している.活動監視を行いつつ噴火予知の研究を進めるとともに,短期・長期的な防災対策を実施することが今後とも必要である.


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