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桜島火山地質図(第1版) 解説地質図鳥瞰図
3:火山活動と地形

 火山の地形は噴出物の累積や火口ができるなど火山活動そのものによってできる地形と,それを破壊する侵蝕作用による地形との双方で作られている.

 桜島の火山活動には,火口から爆発によって火砕物を空中に放出する活動と,溶岩を流出する活動とがある.火砕物の放出は更に,火口から射出されて放物線の弾道を飛行して落下するものと,ガスとともに噴煙となって上空に吹き上げられ,風に流されて火口から離れた地域にまで降下するものとに分けられる.

 弾道放出されるものは主に粗粒の岩塊で,火口の周囲に累積する.斜面が一定の傾斜(安定角)以上になると岩塊は転り落ちてしまうので,火口をとりまく山体の上部は円錐形の急斜面が保たれている.

 火口から上昇した噴煙は風に流される.中緯度地域の大気の上層には偏西風とよばれる西風が常に吹いているので,噴煙柱の高さが数1,000mを越すような大噴火では,灰・軽石は火山の東方に降下する.大規模な降下軽石層が東に細長く延びて分布(図4を拡大する 第2図)するのはこのためである.噴煙がそれほど高く上らないときは,灰はその高さでの風下に流されて降下する.こうして堆積する降下火砕物層は付近をほぼ一様な厚さで覆うので特別な火山地形を作らない.火山活動が継続し,火砕物の堆積が統くと,地表の小起伏は次第に埋められてなだらかな地形となる.

 以上のような上空から落下する火砕物のほかに,桜島火山では火砕物が大量に放出される時に小規模な火砕流が発生することがある.このとき火砕物は気体と混合して岩なだれ状に山腹斜面を高速で流下する.

 溶岩流は高温のマグマが火口を溢れ出て地表を流れる現象である.溶岩は山体上部の急斜面では細い流路で急速に流下し,山麓の緩傾斜地では一定の厚さでひろがり,末端は急崖で終っている.桜島火山の溶岩では1枚の厚さは20-100m以上あるので,溶岩流全体は舌状あるいは舞台状の地形をつくる.北岳北麓の階段状の地形は厚い溶岩が何枚も重ってできたものである.

 溶岩流が一旦停止したのち,前縁の一部が破れて,練りはみがきがチューブから押し出されるように,内部の高温のマグマが流れ出ることがある.このような二次的溶岩流の大規模な例は大正溶岩(有村東方,T2')・昭和溶岩(黒神付近)などにみられ,細い溶岩流が樹枝状に分岐した特徴的な地形を示す.

 溶岩流はしばしば海岸に到達し,更に海を埋めたてながら前進して陸地を拡大する.歴史時代の多くの溶岩が示す(図4を拡大する 第3図)ように,桜島は火山島として少しづつ陸地を拡大しつつ成長してきたのであろう.

 溶岩流の表面には,内部の流動によって,溶岩堤や溶岩じわのような特徴的な表面地形ができる.桜島火山の溶岩では,それらの起伏の比高が数-30mになるものがあり,顕著なものは地質図上に記号で示してある.

 溶岩流の表層部はふつう岩塊におおわれており,石材として採石されるような緻密な部分はその内側にかくれている.これは溶岩内部の流動のために,固化しかかっていた表層が破砕されるためである.岩塊には,破砕前の状態に応じて,とげとげした多孔質の表面をもつものや,平滑な破断面で囲まれたものなど種々あり,大きさもさまざまであるが,径数mを超すようなものも珍しくない.

 現在昭和(1946年)溶岩・大正(1914-15年)溶岩は,巨岩塊で覆われた,はじめの表面地形をほぼ残しているが,大正溶岩には全面的に,昭和溶岩の一部にも植物の成長が始っている.安永(1779年)溶岩の表面はすでに森林に覆われ,樹木のないところでも表層部には安永以後の火山灰が厚く堆積して,大きい岩塊がその表面に頭を出しているのみである.文明(1471-76年)溶岩では溶岩堤や溶岩じわのような大きい起伏は明瞭に残されているが,個々の岩塊は灰に覆われて見えない.溶岩流の表面はこうして後の堆積物に埋積されて丸味を帯び,微細な地形的特徴は次第に失われてゆく.


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