火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)
シミュレーションの結果(その3)
マグマの脱ガスの深度(マグマ性ガスがマグマから放出される深さ)によっても,山体の熱活動の規模が変化すると考えられます.火道から周囲の地層への火山ガスの拡散は,火山ガスが上昇する経路の長さにも依存するからです.周囲の地層の透水係数を10-13 m2,火道の透水係数を10-10 m2で一定とした場合に,脱ガスの深度を変えることによって周囲に形成される熱水系の変化をシミュレーションによって検討しています.
図は,脱ガスの深度を標高-200m(海水面下200m),0m,300m,450mとした結果です.脱ガスの深度によって山体の熱活動の規模がかなり変わることが分かります.脱ガスが海水面下200mで起きる場合には,観測されているような,火道を通っての高温火山ガスの放出は起きません.海水によって火山ガスが有効に冷却されるからです. 一方,脱ガスが地表近くで起こるとすると(300mと450mの場合),その周囲の熱水系はあまり発達しません.火山ガス上昇の経路が短く,周囲の地層への火山ガスの散逸が少ないからです.実際に見られる硫黄岳山腹の熱活動の広がり(500m~1km程度)を考慮すると,脱ガスの深度は海水準に近いと推定されます.この結果は,他の観測から推定される深度と矛盾しないものとなっています.