九重火山地質図 解説目次
1:はじめに - 2:地形
3:形成史
4:歴史噴火
5:噴出物の岩石学的特徴
6:温泉・地熱・鉱床 - 7:現在の活動と観測体制 - 8:噴火活動の特色と火山防災上の注意点
謝辞 / 引用文献
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1:はじめに - 2:地形
1:はじめに
九重火山は,北東側の由布・鶴見火山,南西側の阿蘇火山とともに九州中部の火山フロント上,また別府湾から有明海,島原半島へ続くいわゆる別府‒島原地溝の中に位置する活火山である( 第1図).
九重火山では,中部の星生(ほっしょう)山付近で1995〜96年に変質火山灰を放出する小規模噴火が起きた.有史時代にマグマ噴火は知られてないが,約1600年前には,安山岩溶岩ドームを形成する噴火活動を起こすなど活発な火山活動を行っている.九重火山の山体の地質については,東部は小野(1963),太田(1991),西部は鎌田(1997)が,テフラ層序については,Kamata and Kobayashi(1997)や長岡・奥野(2014)などがあり,火山活動史の大枠は明らかにされている.本地質図ではより詳細な活動履歴を復元し,将来の噴火推移予測に役立てる目的で,地表調査に加え,火山地形解析,全岩主成分化学分析,K‒Ar 及び 14C年代測定を実施し,それらの成果をまとめた.なお,各岩体の生成年代は,基本的にはユニットごとに採取した岩石試料の K‒Ar 年代値(鳴子山火山,沓掛山火山,硫黄山溶岩;山﨑ほか,2014;その他:山﨑ほか,2015)( 第2図) を用い,K‒Ar 年代値が得られていないユニットについては,奥野ほか (2013b)で報告されているTL年代を参考にした.14C年代について本文中では暦年較正を行った年代測定値を用い,これらにより得られた年代については ka(1000年前)単位で表現する.
2:地形
九重火山(くじゅう連山)の山体は東西約13km,南北約10 kmの範囲で,山体は地形的に,東部,中部,西部に分けることができる.東部は,黒岳(標高1587m),大船(たいせん)山(1786m),平治(ひいじ)岳(1643m),中部は,中岳 (1791m),久住山(1787m),三俣(みまた)山(1744m)星生(ほっしょう)山(1762m),扇ヶ鼻(1698m),西部は,黒岩山(1503m),合頭(ごうとう)山(1384m),猟師山(1423m) などの山々からなる.このうち中岳は,九州本土の最高峰である.火山体は,玄武岩質安山岩からデイサイトの小規模な成層火山や溶岩ドームの集合体から構成される.活動時期を反映して全体に西部の火山体は侵食による開析が進んでいる一方,東部は大船山や黒岳に厚い溶岩流や溶岩ドームの新鮮な地形が残されている.これら山体の間の低地には,タデ原(わら),坊ガツルや佐渡窪(サドガクボ)のような溶岩流や岩屑なだれ堆積物のせき止めによる湿原が存在する(千田,2002).
九重火山の周囲には,小規模な火山岩塊火山灰流堆積物や岩屑なだれ堆積物,土石流堆積物などからなる火山麓扇状地が広がっているほか,九重火山由来の宮城,下坂田,飯田(はんだ)の3つの大規模火砕流堆積物が分布する.このうち本地質図の範囲内には宮城及び飯田火砕流堆積物が分布する.
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