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九重火山地質図 解説地質図鳥瞰図

九重火山地質図 解説目次

1:はじめに - 2:地形
3:形成史
4:歴史噴火
5:噴出物の岩石学的特徴
6:温泉・地熱・鉱床 - 7:現在の活動と観測体制 - 8:噴火活動の特色と火山防災上の注意点
謝辞 / 引用文献

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6:温泉・地熱・鉱床 - 7:現在の活動と観測体制 - 8:噴火活動の特色と火山防災上の注意点

6:温泉・地熱・鉱床

 九重火山周辺には筋湯,法華院,赤川など多くの温泉があり,また黒岳周辺には白水鉱泉などの炭酸泉も多く存在する.本地質図西部の黒岩山西部では昭和30年代から地熱調査が行われ,1967年には大岳地熱発電所(12,500 kW)が,1977年には八丁原(はっちょうばる)地熱発電所1号機(55,000 kW),1991年には2号機(55,000 kW)が稼働を開始した.八丁原地熱発電所は日本最大の地熱発電所となっている.星生山北東部や硫黄山周辺,赤川などに硫化水素などを含む火山ガスを放出する活発な噴気と硫気変質帯がある.硫黄山周辺に発達する硫気変質帯では少なくとも江戸時代から硫黄が採掘されていたが,1983年頃に中止された.


7:現在の活動と観測体制

 九重火山は1995〜96年の噴火以降,1997年に火山性微動の発生などがあったが,これ以降大きな異常は観測されていない.星生山北東の硫黄山山腹の噴気高度は 2005年頃から低下傾向にあり,地震活動も静穏である.火山性地震は星生山周辺浅部,黒岩山西方筋湯・大岳周辺の数 km 以深で発生している(気象庁, 2013).大船山及び黒岳周辺では浅い火山性地震は少ないが,逆に星生山以西では認められない深さ 20〜25 km ほどで起きる深部低周波地震活動がある.

 九重火山は気象庁による常時観測火山であり,2013年時点の観測体制は,九重山近傍の観測点として気象庁による地震計1点,GNSS観測点3点,傾斜計1点,空振計1点,遠望カメラ1点,京都大学火山研究所の地震計1点,九州大学の地震計1点,大分県の地震計4点となっている(気象庁, 2013).この他広域観測ネットワークとして,国土地理院の電子基準点,防災科学技術研究所の地震観測点が周辺 20 km 以内に存在する.2007年12月1日より気象庁は九重火山で「噴火警戒レベル」の運用を開始した.運用開始以降2014年7月の時点までレベル1(平常) の状態が続いている.


8:噴火活動の特色と火山防災上の注意点

 九重火山は玄武岩質安山岩からデイサイトまでの広い組成範囲のマグマを噴出し,大規模火砕流や,溶岩流,溶岩ドーム,火山岩塊火山灰流,土石流など噴火様式,火山現象も多様である.

 歴史時代以降の九重火山の異常現象は噴気帯の熱水活動に伴うもので,最近約1600年間は大規模なマグマ噴火は発生していない.しかしそれ以前の約8000年間は,九重火山東部の大船山,黒岳を中心に活発なマグマ噴出があった.2014年現在マグマ噴火につながるような前兆現象は観測されていないが,東部の深さ20〜25 km 付近に深部低周波地震が観測されており(気象庁, 2013),将来のマグマ噴火の可能性にも留意しておく必要がある.

 1995〜96年噴火は主に噴気熱水活動に伴う水蒸気噴火であった.これと同程度あるいはより規模の大きな水蒸気噴火は,過去数千年間に星生山,硫黄山周辺で複数回発生している.このような水蒸気噴火は,事前の予測が難しく,登山道が近くにあることから,比較的規模の小さな水蒸気噴火でも火山岩塊の投出による被害の可能性がある.また変質した粘土質火山灰の堆積は,地表の浸透能を低下させ,少量の降水でも土石流の発生を引き起こしかねない.特に注意が必要であろう.

 安山岩‒デイサイトマグマの噴出の場合,厚い溶岩流及び溶岩ドームを形成する.この場合降下火砕物は比較的少ないが,溶岩流,溶岩ドームの崩落による火山岩塊火山灰流堆積物も山頂から4 km 以上離れた火山麓扇状地堆積物中に認められ,これらによる災害には注意すべきだろう.玄武岩質安山岩マグマの場合,溶岩流の流出のほかに,火口から3〜4 km 離れたところまで火山弾が達しているほか,山麓の広い範囲にスコリアなどの降下火砕物が降下している.これらの降下火砕物による被害も注意すべきである.


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