伊豆大島火山地質図 解説目次
1:はじめに - 伊豆大島の地形
2:伊豆大島火山の地質
3:伊豆大島火山の岩石
4:カルデラ形成以降の伊豆大島火山活動史
5:19世紀以降の活動
6:観測体制 - 防災上の注意点
7:文献(火山地質図での引用)
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6:観測体制 - 防災上の注意点
観測体制
気象庁では,島内全域に地震計8,傾斜計8を設置し大島測侯所までテレメーターで常時観測しているほか,光波測距による監視,三原山火孔内の温度観測などを行っている.東京大学地震研究所伊豆大島火山観測所では地震計18,磁力計13点など多数の観測点を配置し,地震・傾斜・地磁気・比抵坑・重力・光波測距などの連続・くり返し観測を行っている.防災科学技術研究所でも地震・傾斜・歪・地磁気連続観測を行っている.国土地理院ではGPSと潮位の連続観測を行っている.このほか東京大学,東京工業大学,海上保安庁水路部などの臨時観測も行われている.地質図には気象庁,東大地震研究所,防災科学技術研究所,国土地理院が設置している連続観測点を示した.
防災上の注意点
伊豆大島ではおよそ100-150年に一度の割合で,カルデラ外山腹に堆積物を残すような噴火(噴出量数億t)を2万年以上の間継続している.また最近200年間は30-40年に一度の割合でカルデラ内に溶岩流を流す程度の噴火(噴出量数千万t)を繰り返している.それぞれの規模の噴火とも,三原山山頂火口での活動で始まることが多く,十数年かけて溶岩噴泉・ストロンボリ式噴火→溶岩流出→爆発的噴火・竪坑状火孔の再生→終息というパターンを示すことが多くの噴火活動に認められる.
噴火の前兆は火山性微動や小さな地震が数ヶ月前から数時間前に発生し,山頂火口内からの溶岩噴泉で噴火が始まる.風下側にスコリアが降下することがあり,大規模噴火では降下スコリア層の厚さがカルデラ外山腹で数十cmから数mに達することがある.
溶岩の噴出が継続し竪坑状火孔や火口内を満たすと,カルデラ床へ溶岩流が流れ出す.溶岩流は地形的に低いところを流れるので,事前に地形と溶岩噴出地点を知ることで,流下範囲の予測はかなりの程度可能である.
ただし大規模噴火でカルデラ外での側噴火から始まったらしいものもあるほか,1986年噴火のように中規模噴火でも三原山山頂火口以外からも噴火することがある.側噴火は山麓近くの居住地域から噴火が起きることもありうるほか,標高100m以下の地域では地下水や海水とマグマが反応して,マグマ水蒸気爆発を起こすことがある.1986年噴火の場合,新たな噴火口を生じた地域で,地震活動が数時間前から活発化し,噴火直前に開口割れ目が見つかるなどした.おそらく新たな噴火口を作るときには,事前に局地的な地震や地殻変動がより多く起こると考えられるので,このような前兆に注意すべきだろう.
明治以降の中規模噴火では,マグマ噴火活動が終わり,陥没により竪坑状火孔が再生するときに爆発的噴火を起こしている.1957年の死傷者が生じた噴火も竪坑状火孔が再生する過程での爆発的噴火によるものだった.また大規模噴火でも三原山周辺1km程度の範囲に(マグマ)水蒸気爆発で発生した小規模な火砕流堆積物などが認められる.噴出量としては大きくはないが,爆発的であり,また予測も困難と考えられるので,注意が必要である.また降灰や火山ガスの放出もこの時期に活発で,農作物への被害などが生じやすい.
伊豆大島で予想される最大の火山災害は,山頂でのカルデラ形成に伴う大規模な水蒸気爆発とそれに伴う火砕流である.S2部層の火砕流は地形的な障害を乗り越えてほぼ全島を覆っており,このような噴火が起きた場合には全島避難するしか対処する方法はない.S2期の水蒸気爆発発生前には,複数箇所での側噴火があったほか,噴火前に大規模な島の隆起が起きていたらしいこと,カルデラ形成前と以後では,マグマ組成にやや違いが認められる.これらを考えると,地下深部からの大量のマグマ供給がこの時期に起きていたらしい.島の顕著な隆起などを監視することで,ある程度の予測することができる可能性はあるが,現時点で確度が高い予想をすることは困難である.