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北海道駒ヶ岳火山地質図 解説地質図鳥瞰図
1:まえがき - 駒ヶ岳火山の周辺の地質 - 駒ヶ岳火山の概観

まえがき

 北海道渡島半島の噴火湾(内浦湾)に面してそびえる北海道駒ヶ岳火山(以下駒ヶ岳と呼ぶ)は,1640年(寛永17年)以来、多数の噴火を記録しており,わが国における最も活動的な火山の一つである.特に1640年の活動では山体崩壊により噴火湾に津波が発生し,700名以上が溺死した.1856年の活動では火砕流により20数名が犠牲となった.また,1929年の噴火で発生した火砕流(軽石流)は,世界的に注目されている.駒ヶ岳周辺は,美しい火山の山麓に多数の小島を配した大沼・小沼の堰き止め湖があり,温泉も湧出して国定公園に指定されている.近年,山麓地域の開発が進められている.しかし,この火山地域の開発には,噴火時における降下火砕物,火砕流,火砕サージ,泥流などによる災害のほか,山体の一部崩壊による岩屑なだれの危険に対する考慮も必要である.

 この火山地質図は,駒ヶ岳火山についてのこれまでの研究資料に,1988年迄に行った筆者らによる野外および室内の研究成果を加えてまとめたもので,この火山の将来の研究や,噴火防災・地城開発などのために利用されることがあれば幸いである.


駒ヶ岳火山の周辺の地質

 駒ヶ岳火山の北麓は噴火湾に面し,南および西方には新第三系からなる海抜数100mの丘陵性山地が連なる.駒ヶ岳火山とこれらの山地の間には,大沼・小沼・じゅんさい沼などを含む低地帯が発達する.

 新第三系中新統の中ノ川層は,おもに流紋岩質の緑色凝灰岩からなり,泥岩および変質火山岩を挟在し,東麓の鹿部町から南東方に分布する.鮮新統(一部中新統?)の峠下火山砕屑岩類は,輝石安山岩質および角閃石安山岩質の凝灰角礫岩,火山円礫岩および溶岩からなり,凝灰岩・砂岩を伴い,南方に広く分布する.これと指交して火山の西方には,鮮新統の尾白内層が分布する.尾白内層は下部の凝灰質砂岩部層と上部のシルト岩部層からなる.以上の鮮新統は北北西-南南東方向に軸をもつ向斜および背斜構造を示し,流紋岩および安山岩によって貰かれている.一方,火山の南東の折戸川付近には,流紋岩質凝灰岩からなる鮮新統の留ノ沢層が分布する.

 駒ヶ岳火山西麓の森町鳥崎川付近から西方に更新統の森層が分布し,南東麓では折戸川右岸に同じく更新統の鹿部層が露出する.両層は,ともに未固結の礫・砂および凝灰質砂・シルトなどからなり,海抜数10-100mの低い丘陵をつくっている.また,鳥崎川および尾白内川の河岸には低い段丘面(比高20-25mおよび5-10m)が発達し,南東麓の折戸川右岸にも段丘面(比高20-60m)がみられる.これらの段丘は,厚さ2-3mの砂・礫層からなり,駒ヶ岳火山の降下火砕物におおわれており,西麓の鳥崎川および尾白内川付近では駒ヶ岳岩屑なだれ堆積物により厚くおおわれている.

 駒ヶ岳火山山麓周辺には,沖積層がやや広く分布する.これらは主に砂・礫からなり,駒ヶ岳火山の降下火砕物におおわれている.火山山麓には火山岩塊・礫・火山灰・砂などからなる扇状地堆積物も発達している.


駒ヶ岳火山の概観

 駒ヶ岳火山(1,133m)は山頂が破壊した円錐形の成層火山で,山麓は広く裾をひき,その基底直径は約17kmにおよぶ.山頂部には砂原岳・剣ヶ峰・隅田盛に囲まれた直径約2kmの馬蹄形火口が東方に開き,北西には押出沢爆裂火口が開いている.火口原には,1929年(昭和4年)噴火前に大きな楕円形火口があり,その中央近くに安政火口(直径200m)とその中に小さな溶岩円頂丘があった.現在,これらは昭和4年軽石に厚く埋積され,中央に昭和4年大火口(弱く噴気中)があり,その東側に同じく昭和4年に生じたヒサゴ形火口とマユ形火口がある.火口原を横断して延長約1.6kmの昭和17年割れ目が開口しており,その北西端近くに昭和17年火口がある.

 山腹は厚い火山砕屑物でおおわれ,南と東の斜面には火砕サージの波紋状地形がみられる.山腹の西丸山,東丸山,赤禿山などの小突起は,寄生火山と考えられているが,いずれも火山砕屑物におおわれ,内部構造は不明である.

 駒ヶ岳火山の山麓は降下軽石・火砕流堆積物により厚くおおわれ,火山麓扇状地も発達している.山麓には新旧の岩屑なだれ堆積物が小丘群(流れ山地形)をつくって分布する.南麓の大沼・小沼などの浅い湖沼群は,駒ヶ岳火山噴出物による堰き止め湖である.

 この火山地質図では,溶岩(山頂部のみ),岩屑なだれ堆積物,火砕流および火砕サージの堆積物の分布域を塗色し,降下火砕物の分布は等厚線で示してある.


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