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北海道駒ヶ岳火山地質図 解説地質図鳥瞰図
2:駒ヶ岳火山の地質と活動史

 駒ヶ岳火山は数万年前に成層火山を形成してから歴史時代にかけて,2回の山体崩壊と多数回の軽石噴火をおこしている. 第1表に示すように,これらの噴出物はI期からIV期に区分される.駒ヶ岳の火山活動史は,これらの噴出物の層序と分布の調査から明らかにされてきた( 火山地質図および 第1図参照).以下にその概要を紹介する.14C年代値と層準・出典は 第1図に明記してある.


I期の噴出物
駒ヶ岳溶岩:駒ヶ岳火山はII期以降の火山噴出物に広くおおわれている.成層火山体を作る噴出物は,わずかに山頂部の剣ヶ峰と砂原岳西部に露出するにすぎない.この2つのピークは,いずれも輝石安山岩の厚い溶岩流からなる駒ヶ岳溶岩により構成されている.この駒ヶ岳溶岩は溶結したII期以降の火砕流堆積物におおわれている.


II期の噴出物
駒ヶ岳岩屑なだれ堆積物:駒ヶ岳火山の西麓と北東麓には,かつて“泥流堆積物”と呼ばれた輝石安山岩の大小の岩塊(直径最大5m)と同質の細粉からなる駒ヶ岳岩屑なだれ堆積物が広く分布し,西麓では段丘堆積物をおおっている.北東麓の松屋崎海岸や北西山腹の押山沢上流,その他の谷底にも分布するが,いずれもその下位層は露出しておらず,II期の降下軽石・火砕流におおわれている.この岩屑なだれ堆積物は淘汰が悪く,岩片の磁化方位が一定せず,小丘群をつくって分布するのが特徴である.成層火山の形成後,駒ヶ岳火山は恐らく水蒸気爆発に伴って山体崩壊を起こし,低温の岩屑なだれを生じたのであろう.この岩屑なだれ堆積物の厚さは,南麓では不明であるが,西麓で5-25m,北東麓の松屋崎で32mに達する.駒ヶ岳火山の山頂部はこの大崩壊によりかなりの部分が失われたと思われる.

Ko-h2降下軽石・火砕流:北東麓の海岸には上述の駒ヶ岳岩屑なだれ堆積物の風化面上に粗粒の降下軽石と火砕流が堆積している(柳井・雁沢(1988)の鹿部降下軽石・軽石流堆積物).この降下軽石は火山の西麓から南東方にも分布する.駒ヶ岳降下火砕物の標準層序模式地の一つとなっている鹿部町大岩台地(段丘面)では,この降下軽石はKo-h層の下半部に対比される.ここではこれをKo-h2降下軽石と呼ぶ.この降下軽石の主要部の分布軸は恐らく東方にある.降下軽石は炭化した化石林を埋積し,その14C年代は3.2万年->3.9万年BPである( 第1図).この降下軽石に伴う火砕流は,北麓から東麓にかけて分布し,一部は溶結している.東麓の出来澗崎溶結凝灰岩・折戸川溶結凝灰岩(勝井ほか,1975)と呼ばれるものがこれに相当する.
Ko-h1降下軽石・火砕流:西および北麓および南東方には,上記のKo-h2降下軽石の風化面をおおってKo-h1降下軽石(および火山灰)が分布する.北麓では火砕流(地質図では省略)を伴っており,その中に含まれる炭化木片の14C年代は約1.7万年BPである( 第1図).

濁川カルデラ降下軽石・火山灰
駒ヶ岳火山はII期の約3-4万年から1.7万年前までにおきた大崩壊と2回の軽石噴火のあと,約1.1万年の間活動を休止する.この間に約1.2万年前には西北西方にある濁川カルデラが形成し,駒ヶ岳火山はその降下軽石・火山灰によって広く被覆された.この濁川カルデラの噴出物は紫蘇輝石角閃石安山岩質の軽石・火山灰からなり,駒ヶ岳火山の普通輝石紫蘇輝石安山岩質軽石・火山灰と明瞭に区別され,駒ヶ岳火山のII期とIII期噴出物を区分する有効な鍵層となっている.西麓の森町オニウシ公園から西方の鷲の木トンネルの柱状図( 第1図)にみられるように,Ko-h1降下軽石のやや粘土化した風化面上に,一連の濁川カルデラ噴出物が堆積し,さらにその上の腐植層を後述のIII期のKo-g降下軽石が被覆している.噴出物からみると濁川カルデラは最初火山灰を放出して活動を休み,ついで細粒の軽石と石質火山灰を放出する小噴火が続き,ついにプリニー式軽石噴火がおこり,やや多量の岩片を含む降下軽石の放出,火砕サージ,大規模な火砕流の噴出に至ったという活動史がたどれる.火砕流は鷲の木トンネル付近までしか到達していないが,火砕サージは駒ヶ岳火山の西麓地方を広くおおっている.


III期の噴出物
Ko-g降下軽石・火砕流:鹿部大岩台地のKo-gに対比される降下軽石は,駒ヶ岳火山の西麓から北麓にかけて広く分布する.その主要な分布軸は東側にあり,北山腹や北東麓ではこれに伴う火砕流(スコリアを含む軽石流)も分布する.北麓の火砕流中の炭化木の14C年代は約6,000年BPである.
Ko-f降下軽石・火砕流:鹿部大岩台地のKo-fに対比されるやや粗粒な降下軽石は,駒ヶ岳火山の東南東側に分布軸をもつが,出来澗崎海岸地方では浸食により失われている.北麓や西麓には,これに伴って火砕流(軽石流)が広く分布する.Ko-f降下軽石の表層の腐植の14C年代は2,750±110年BPで,Ko-fの軽石噴火は約3,000年前に起きたと推定される.


Ko-e降下火山灰
駒ヶ岳火山は,Ko-fの軽石噴火のあと1640年まで3,000年近く活動を休止する.駒ヶ岳火山地方には,Ko-fと後述のKo-d降下軽石の間の層準にKo-e降下火山灰が広く分布している.Ko-e火山灰は,駒ヶ岳火山起源とされてきたが,山麓や山腹でもその層厚は上部の腐植層を含めても10-50cmにとどまり,火山灰そのものの層厚は,4-10cmにすぎず,駒ヶ岳火山周辺では系統的な層厚変化がみられない.この火山灰は,輝石,斜長石を含む細粒のガラス片からなり,その起源は駒ヶ岳火山ではなく遠隔の火山に求められよう.Ko-e上部の腐植の14C年代は1,700±130年BPである.なお,この腐植層の上部には,白斑状の火山灰が発見されることがあり,これはB-Tm火山灰(白頭山起源,800-900年BP,Arai et al., 1986)に対比される.


IV期の噴出物
駒ヶ岳火山は,IV期(歴史時代)にはいって1640年に活動を再開し,山体崩壊につづいて軽石噴火をおこした.この山体崩壌で山頂部はさらに低くなり,出来澗崎が生じ,南麓にも岩屑なだれ小丘群が生じ,大沼・小沼の堰き止め湖が現在の形となった.軽石噴火は,1694年,1856年,1929年にも発生し,いずれも火砕流の発生を伴っている.これらの噴出物により駒ヶ岳火山の表層は広く被覆されている.1942年には水蒸気爆発がおこり,火口原に割れ目を生じている.これら歴史時代の噴出物の詳細については古記録とともに次項で述べる.


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