aistgsj
第四紀火山>活火山>北海道駒ヶ岳
北海道駒ヶ岳火山地質図 解説地質図鳥瞰図
4:駒ヶ岳火山の岩石

 駒ヶ岳火山の本質噴出物は,その産状に関わらず,大部分が普通輝石紫蘇輝石安山岩質のものであって,一部にかんらん石を含むものがあり,また石英紫蘇輝石安山岩の岩脈が一例知られている.これらのおおよその性質は次のようなものである.

 一般に斑状構造が著しく,多量の斑晶を含む.斑晶鉱物としては,斜長石,紫蘇輝石,普通輝石,かんらん石,鉄チタン鉱物からなる.

 斜長石は,最も多量に含まれ,複雑な反復累帯構造を示し,ガラス,紫蘇輝石などを包有する.紫蘇輝石は,斜長石についで多量に産する.しばしば普通輝石と連晶または集斑晶し,斜長石,ガラスなどを包有する.普通輝石はしばしば紫蘇輝石,斜長石と集斑晶している.かんらん石は,駒ヶ岳溶岩の一部にのみ少量含まれる.融食形を示し,鉄チタン鉱物,ガラスなどを包有する.鉄チタン鉱物は少量であるが,一般に小型斑晶として含まれる.

 石基は,溶岩の場合,ピロタキシティックまたはハイアロピリティック組織を示し,斜長石,紫蘇輝石,単斜輝石,鉄チタン鉱物,ガラスなどからなり,やや結晶質な溶岩の場合は,かなり多量のトリディマイトが生じている.軽石の場合は多孔質で大部分ガラスからなり,少量の針状斜長石と鉄チタン鉱物の微粒子を含んでいる.スコリアでは多数の鉄チタン鉱物粒を含んでいる.溶結凝灰岩は,溶結の程度および気相変質の有無などで,石基の組織・組成が極めて変化に富む.砂原岳溶結凝灰岩の強溶結部は軽石およびガラス片が密に押しつぶされ,ユータキシティック組織を示し,全体として隠微晶質となり,空隙には多量のトリディマイトが晶出している.また,出来澗崎溶結凝灰岩では,全般的に(特に上部のフローユニットでは)溶結度が低く,軽石,ガラス片が僅かにひきのばされて溶結しただけで,再結晶作用は殆ど行われずガラスのまま残されている.1942年の山頂の割れ目では,火口底に厚く堆積した1929年の軽石層の下半分が溶結しており,上層の非溶結部との間に,著しい気相変質をうけた部分が発達している.ここでは石基ガラスが完全に再結晶し,多量のトリディマイトその他の微晶を生じている.

 駒ヶ岳火山の代表的な岩石の蛍光X線分析の結果を 第3表に示す.従来の主成分化学分析値では,大部分がSiO2=60±2%の中性の安山岩質のものであり,1929年噴出物と有史以前の噴出物とを比較しても,殆ど有意義な相違を見出すことはできなかった.しかし, 第3表から明らかなように,成層火山の溶岩に比べ,歴史時代の軽石はごく憧かにSiO2,アルカリに富み,FeO,MgO,CaOに乏しい傾向を示していることが明らかになった.

 駒ヶ岳火山の噴出物の全般的な化学組成の特徴は,中性のカルクアルカリ岩の一般的特徴とよく一致している.しかし,平均的な中性の安山岩と比較して,著しくK2Oに乏しい.また,分化の経路は,SiO2の増加に伴ってアルカリが増加し,全鉄が減少する典型的なカルクアルカリ岩系のコースをたどっている( 第8図).

 西南北海道で,駒ヶ岳火山の噴出物の化学組成とよく似ているのは樽前火山の噴出物である.両者は火山活動の形式の上からも非常に似ている点が注目される.但し,樽前火山の噴出物は,駒ヶ岳火山のものに比べ,平均値でSiO2が約2%少なく,Na2Oもやや少ない.

 駒ヶ岳火山の噴出物の全岩組成は,上述のように安山岩質マグマであるが,その噴火様式は,極めて爆発的である.この噴火様式を規定するのは,液体マグマの物性であって,これに関与する要因の一つはマグマの化学組成である.駒ヶ岳火山の1929年噴火の軽石の石基ガラスの化学組成は,神津・瀬戸(1931)によってSiO2が74%の流紋岩質であることが報告されているが,同様に,1640年および1856年の大噴火の軽石の石基ガラスの化学組成もSiO2に富み,全鉄に乏しい流紋岩質であった.このような流紋岩質マグマは,長い休止期に,安山岩質マグマから多量の斜長石や輝石・鉄チタン鉱物などの斑晶が晶出したことによって形成されたと考えられる.また,この過程は,高い水蒸気圧と高い酸素分圧のもとで行われ,マグマ溜まりの上部にはH2Oなどの揮発性成分が濃集する.このような水蒸気圧の高い流紋岩質液体マグマは,噴出に際して激しく発泡・破砕し,プリニー式の軽石噴火を起こしたと解釈される.噴火の進行とともに,マグマ溜まり下部の水の少ない,粘性の高いマグマの噴出で溶岩円頂丘を形成することもある.駒ヶ岳火山の1856年の噴火では,末期に安政火口の中に小型の溶岩円頂丘が形成されたのは,その一例である.


 前をよむ 前を読む 次を読む 次を読む