北海道駒ヶ岳火山地質図 解説目次
1:まえがき - 駒ヶ岳火山の周辺の地質 - 駒ヶ岳火山の概観
2:駒ヶ岳火山の地質と活動史
3:駒ヶ岳火山の歴史時代の噴火
4:駒ヶ岳火山の岩石
5:活動の監視・観測 - 将来の活動と災害の予測
6:文献(火山地質図での引用)
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5:活動の監視・観測 - 将来の活動と災害の予測
活動の監視・観測
1929年の大噴火前までの駒ヶ岳火山の地震観測は,駒ヶ岳火山から35km離れた函館測候所(現海洋気象台)で,1927年から行われていた.1929年の大噴火の直後には,地震計による地震観測,石本式傾斜計による傾斜観測が臨時に行われた他,1930,1931,1934年に水準観測が行われ,1904年を基準として,山体の東側を中心に沈降していることが明らかにされた.
その後,気象庁は,1959年から山頂の南西4.5kmの地点に駒ヶ岳地震観測所を設置し,1965年には山頂の西方4.0kmの地点に三成分地震計を設置し連続観測を行っている.また,定期的に,山頂の噴気温度の観測を行っている.その他,気象庁機動観測班,北海道大学理学部,北海道大学理学部有珠火山観測所,国土地理院などにより臨時地震観測,重力,地温,地磁気等の観測が実施されてきた( 第9図).
現在,気象庁は,山頂の西南西4.1kmの地点に地震計を設置し,森測候所までテレメータして常時観測を行っている.また,山頂付近で年数回の現地観測と森測候所から毎日遠望観測を実施している.北海道大学理学部有珠火山観測所は,山麓の5ヶ所に地震計を設置し,有珠火山観測所ヘテレメータして常時観測を行っている.また,山頂および山麓での辺長・水準測量,重力,地磁気などの観測を繰り返し実施している.
将来の活動と災害の予測
駒ヶ岳火山は,1640年いらい4回の大規模な軽石噴火(プリニー式噴火)をおこし,いずれも火砕流の発生を伴い,災害をもたらした.また,中小規模の噴火も多数発生している.第2表に見られるように噴火の間隔については,特に一定の規則性が認められないが,現在は,1929年の大噴火から約60年,1942年の中噴火から約50年を経過しており,活動再開の可能性は,今後次第に増してくるように思われる.
噴火史と火山の構造から予測される将来の噴火地点は,山頂の火口原である.噴火様式は,中小噴火の場合は主に水蒸気爆発であるが,大噴火では多量のマグマが軽石,火山灰となって放出され,降下軽石のほか火砕流の流出を伴うことが多い.火砕流は量的に軽石流が主要部を占め,少量の火砕サージを伴っている.軽石流は谷沿いに流下し,山麓で扇形に広がる.軽石流の流出にさきがけ,あるいは流出中も,少量のより速い流速をもった火砕サージが流下し,山腹を広くおおい波紋状地形をつくる.この大噴火の破局的な活動の継続時間は比較的短く,これまでは1-3日間であった.
駒ヶ岳火山の歴史時代の軽石は,全岩組成では中性の安山岩であるが,成層火山の溶岩より僅かに珪長質である.液体マグマに相当する軽石の石基ガラスの組成は極めてSiO2に富んでいる.このような珪長質マグマが,急速な発泡により軽石噴火をおこし,その過飽和圧力を解放する.このように駒ヶ岳火山は,短時間に激しい爆発的噴火により多量のマグマを軽石・火山灰として放出するため,その後は数10年あるいはさらに長い休止期に入ると考えられる.休止期に比べると活動期は極めて短いため防災措置は短時間に有効に行われるようでなければならない.
噴火の様式・規模などについては,明確な予測が不可能であるが,既述の歴史時代の活動およびマグマの性質から,つぎの2つのケースが考えられる.
中・小噴火の場合:小-中規模の水蒸気爆発(-マグマ水蒸気爆発)が発生する場合.
最近の例では1935-1938年の小噴火および1942年の中噴火がこれに当たる.この種の噴火では,火山岩塊の落下範囲は火山の中腹ぐらいまで(火口から2-3km)である.火山礫・火山灰は遠方に達するが,山麓で最大厚さ1-3cmと予想される.1942年の中噴火では,南方,東南方および東南東方の3方向に,湿った噴煙(火砕サージ)が斜面を山麓まで流下し,火山灰が2-3cm堆積した.
大噴火の場合:大規模な軽石噴火が発生する場合.1640年,1694年,1856年および1929年の大噴火がこれに当たる.予測される主な現象は,
火口・割れ目の開口
少量の火山岩塊・火山灰の放出
山体の一部崩壌-岩屑なだれ-津波の発生(1640年の場合)
多量の軽石・火山灰の噴出,火砕流(軽石流および火砕サージ)の流下
二次的泥流(土石流)の発生
溶岩円頂丘の形成(1856年の場合)
などである.大噴火の場含でも,活動の初期は中小噴火と同じである.噴火が開始した場合,中小噴火で終わるのか,さらに大噴火に移行するのかの判断は難しい.1640年の噴火は,3,000年近くの休止期のあと再開したもので,この時山体の一部が崩壊し岩屑なだれとなって海になだれ込んで津波を発生した.このため,噴火湾沿岸で多数の犠牲者がでた.軽石噴火が開始されると,降下軽石は主に火口の東方に降下堆積する.降下軽石の堆積量は,山麓で厚さ1m内外,火山から50km付近でも10cm内外に及ぶと堆定される.さらに,山腹から山麓にかけて,いずれの方向にも高温(700℃-800℃)の火砕流(軽石流および火砕サージ)が流下する.これらの到達距離は山頂から5-7kmで,20分ぐらいで流下すると予測される.山頂部の高い火口壁(剣ヶ峰,砂原岳,隅田盛)は火砕流の流下障害となって,これらの外側斜面では余り大きな火砕流はみられない.しかし,他の部分,東側,南西側,北西側では火砕流が山麓まで流下することが予測される.軽石噴火のあと,火口内に小型の溶岩円頂丘が生ずることもある.火山活動としては,このあと急速に衰退するであろう.なお,噴火後も,降雨により二次的な泥流(土石流)が発生することも予測される.
以上のような噴火予測にもとづけば,その災害要因としては,山体の一部崩壊-岩屑なだれ,軽石・火山灰の降下,火砕流,火砕サージおよび二次泥流などが想定される.これらにより災害が発生する範囲は,個々の要因によって異なる.軽石・火山灰の降下による災害は風向きに支配されて広範囲に及ぶ.山麓では堆積量が1mに達することも予測される.火山岩塊・火山弾の落下は,火口から2-3kmの火山の中腹までの範囲と予測される.岩屑なだれ,火砕流および火砕サージは,流下速度が速いことおよび破壊力が大きい事などから最も警戒すべき現象である.火砕流の到達範囲は,火口から5-7kmである.岩屑なだれは,山麓周辺のみならず,噴火湾沿岸一帯,特に対岸の海岸線の複雑な有珠海岸ではこのような危険に対する注意が必要である.
以上のほか,噴火とは直接関係がないが,大雨によって二次的な泥流(土石流)が発生する危険にも注意する必要がある.