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八丈島火山地質図 解説地質図鳥瞰図
1:はじめに - 2:八丈島火山の概要

1:はじめに

八丈島火山は伊豆小笠原火山弧上に構築された複合火山で,伊豆諸島の八丈島を構成する.八丈島火山の海面上の部分は八丈島の北西部を占める西山(八丈富士)と南東側を占める東山(三原山),及び小島(八丈小島)からなる.八丈島の噴火活動は江戸時代初期の1605年(慶長十年)の噴火記録以降,400年以上にわたって静穏な状態が続いている. また,侵食の進んでいない西山の新鮮な火山地形は活動的な火山であることを示している.しかしながら,マグマ貫入によって発生した2002年8月の群発地震などは,八丈島火山の火山活動が近年においても継続していることを示している.

 八丈島火山の基盤や山体下部は海面下に分布している.そのため,火山全体の形成史や噴火システムを考えるうえでは,海底部を含めた火山体全体やその基盤に関する情報が不可欠である.この火山地質図は八丈島火山の火山地質について,これまでの研究成果に加え,新たな地表調査を行うとともに,陸上部のみならず,海面下の山体や側火山の分布,隣接するケンケン山火山・黒瀬西海穴火山などの情報を合わせて提示し,火山全体を理解できる地質図を目指したものである.  


2:八丈島火山の概要

2.1 海底の広域地形
 八丈島火山周辺の海底部を含めた広域構造を 第1図 に示す.八丈島火山は,伊豆小笠原弧の火山フロントに相当する七島(しちとう)・ 硫黄島(いおうとう)海嶺とよばれる概ね南北方向に伸びる海底の高まりの上に位置する.七島・硫黄島海嶺上には第四紀火山が配列している.八丈島の北方約80 kmには御蔵島火山が,南方約70 kmには青ヶ島火山があり,いずれも活火山である.また八丈島の北方約30 kmには,海底カルデラと考えられる黒瀬海穴(くろせかいけつ)が存在する.

 八丈島付近では,七島・硫黄島海嶺の東方約200 kmに伊豆小笠原海溝の海溝軸があり,海溝までは比較的起伏の小さい緩斜面が続いている.一方,八丈島の西側には,七島・硫黄島海嶺の西側に沿って八丈島西方から青ヶ島西方まで南北約100 kmにわたり,水深1,500 m前後の凹地が南北に発達しており,八丈海盆と呼ばれる(Honza and Tamaki, 1985.).八丈海盆はいわゆる背弧凹地(リフト盆地)に相当し,東縁及び西縁を断層崖で画された地溝状の地形を呈している.小島西方には,八丈海盆の東縁に相当する比高約600 mの崖が南北方向に伸びる.同様の走向の崖は八丈海盆縁に複数見られ,反射法地震探査の結果から正断層の活動に伴い形成されたと考えられる (Ishizuka et al., 2008).この崖の一部を切るように八丈島北方の火山列の西側海底から八丈海盆に向かって下る海底谷が発達している.

 八丈島は,七島・硫黄島海嶺の上に発達する直径約25 kmのほぼ円形の高まりの北端部に位置する.八丈島の周辺の海底面には,小型の側火山が分布している.特に八丈島の北側から北東側には,西山の山頂を中心として放射状に配列する側火山が発達する.これらの火山体は八丈島の海岸から約7 kmまで認められる.また西山から北北西方向に雁行状に配列する火山列が約18 kmにわたって存在する(Ishizuka et al., 2008).また小島北北西の海底にも同様の火山列が約10 km程度追跡できる.火山列を構成する側火山はいずれも周辺海底からの比高が200 m程度以下,底径が2 km未満である.

 小島西方約15 kmの八丈海盆内には,海図上でケンケン山と呼ばれる,周辺海底からの比高が1,000 mを超える海底の高まりが存在する.ケンケン山は近年の調査により複数のカルデラ,火口地形や溶岩ドームを擁する比較的新しい火山であることが判明した(Ishizuka et al., 2008).

 ケンケン山の北方約20 kmに黒瀬西海穴(くろせにしかいけつ)とよばれる凹地が存在する.黒瀬西海穴は七島・硫黄島海嶺から東北東–西南西方向に伸びる尾根状の高まりと八丈海盆が交差する地域に形成されている.黒瀬西海穴はやや東西方向に伸びた楕円形をしており,その長径は7–8 km,比高は最大1,000 mである.構造断面から,黒瀬西海穴はカルデラ火山と考えられる(村上・石原,1985).このカルデラから噴出したと考えられる軽石が火山列を含む八丈島北方の海底を広く覆っている.

2.2 陸上地形
 八丈島の陸上部分は東山と西山の2つの火山体が接合した火山島で,北西–南東方向に伸びたひょうたん型をしている.八丈島は長径約14 km,面積69 km2で,その最高点は西山(八丈富士)の854 mである.東山は,開析された複数の火山体からなる複雑な山体からなる.八丈島火山の陸上部の層序関係を  第2図 に示す.

東山の外縁部に相当する神湊(かみなと)(底土(そこど))港~登竜峠(のぼりょうとうげ)~末吉北方と,洞輪沢(ぼらわざわ)から八丈島南端の小岩戸ヶ鼻にかけて,及び横間ヶ浦(よこまがうら)付近には,最も古いと考えられる侵食の進んだ火山体が分布する. また海岸線も波蝕が進んでいるため,その大部分は高い海食崖に囲まれている.それらを覆って,東山の中心部を構成する成層火山体が発達している.この火山体は,東山山頂部に見られる“西白雲山(にしはくうんざん)カルデラ”(津久井ほか,1991)よりも古い山体(西白雲山火山)と,その内部に成長した三原火山に大別できる.

 西山は直径約6 kmの比較的単純な円錐形をしており,その形状から八丈富士とも呼ばれる.しかし,標高500–600 m前後に傾斜が変わる部分があり,大島(1989)は一旦形成されたカルデラがその後カルデラ内に成長した火山体により埋積された痕跡であるとした.山頂部には直径約500 mの円形の火口が存在する.侵食谷はほとんど見られず,西山の表面には新鮮な溶岩地形が発達しており,パホイホイ溶岩やアア溶岩などの表面構造が残されているものもある.また西山を囲む海食崖は,一般に100 m以下であり,東山に比べて海食崖の高さは低い.また東山との接合部には溶岩流からなる広い緩斜面が広がっており,八丈町の主要な市街地や八丈島空港はその上にある.この緩斜面上は人工改変が進んでいるが,溶岩流上面に相当する平坦面と,溶岩流末端崖及び側端崖が明瞭に認められる.またこの緩斜面上には側火山の活動によるスコリア丘列が複数発達する.主なものは,八丈島空港を横切り八丈植物公園内に伸びる火口列があげられる.

 小島は八丈島の西約2 kmにある長径約3 km,短径約1.5 km,面積約3 km2の島で,北西–南東方向に伸びた円錐形の地形をしている.最高点は大平山(おおたいらさん)でその山頂の標高は617 mである.周辺海底からの比高は約1,100 mである.北東側及び南西側は山頂付近まで達する高い海食崖になっている.南東及び北西部の海食崖は比較的低い.南東側及び北西側の山腹には,比較的明瞭な溶岩地形が保存されている.


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