八丈島火山地質図 解説目次
1:はじめに - 2:八丈島火山の概要
3:八丈島火山陸上部の活動史
4:八丈島海域の海底火山活動
5:歴史時代の噴火 - 6:現在の活動
7:噴出物の岩石学的特徴 - 8:噴火活動の特色
引用文献
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4.八丈島海域の海底火山活動
4.1 ケンケン山
八丈島火山の西方の八丈海盆は,背弧リフト盆地で,背弧リフト盆地はこの地域から南方,すなわち,青ヶ島,スミス島,鳥島の西方まで存在することが確認されている( 第1図).これら南北に連なる盆地は,フィリピン海プレートとその下に沈み込む太平洋プレートの相対運動のバランスから,この地域で伸張場が発生,正断層系が発達し,地殻が引き延ばされることによって形成されていると考えられる.そしてこの盆地形成に伴って火山活動が起きることが知られている(例えばTaylor, 1992; Ishizuka et al., 2002).小島西方に位置するケンケン山はこの八丈海盆内に位置し,周辺海底からの比高が約1,100 mの海底火山体で,大きくドーム状の山体を持つ北部とカルデラ様地形を持つ南部の山体に分けられる.北部の山体には,その南西斜面と山頂部に径200–400 mの火口様の凹地が認められる.山頂部は安山岩〜デイサイト溶岩からなる比高数十から100 m程度の複数のドームにより構成される.一方南部山体には,直径がそれぞれ約2 kmと3 kmの2つのカルデラが認識でき,カルデラ内にデイサイト及び流紋岩溶岩からなる溶岩ドームが形成されている.またカルデラ壁には流紋岩溶岩や成層した流紋岩軽石を主体とする堆積物が露出し,南部山体が流紋岩マグマの活動により形成されたことを示している.さらに,概ね南北方向に連なる,底径が1 km程度の溶岩丘が北部山体の斜面や南部山体に見られる.採取された試料はいずれも玄武岩溶岩で,この火山列が玄武岩マグマの活動により形成されたことを示唆する.地形的な関係から,この火山列の形成は,南部山体のカルデラ形成後と考えられる.
4.2 黒瀬西海穴
黒瀬西海穴は長径7–8 kmの海底カルデラ火山と考えられる.カルデラ壁において極めて新鮮な露頭が見られることから,カルデラ壁は崩壊を続けていると考えられ,カルデラの径は形成時より拡大していると考えられる(NT12-19航海乗船研究者,2012).これまで行われた試料採取やカルデラ壁の観察結果から,大量の流紋岩軽石を放出する複数回の爆発的な噴火を起こして形成されたと考えられる.反射法地震探査断面においても,複数の噴出物に相当すると考えられるユニットが認識されると同時に,その下位にカルデラ形成以前の基盤に相当するユニットも認められる( 第4b図).この断面からカルデラ壁における噴出物の厚さは約430 mと見積もられる.黒瀬西海穴の噴出物は,八丈海盆に広く堆積しており,南すなわち海穴から離れるに従って層厚を減じる.噴出物に相当するユニットはその下位の半遠洋性堆積物を侵食しているため,降下物ではなく火砕流あるいはタービダイトとして流動,定置したものと考えられる.活動時期については明らかではないが,最新の大規模な軽石の放出を伴う噴火が,西山火山の海底側火山の活動時期と重なることから(西山周辺の側火山群の章参照),約1万年前以降も活動していたと考えられる.