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第四紀火山>活火山>八丈島
八丈島火山地質図 解説地質図鳥瞰図
7:噴出物の岩石学的特徴 - 8:噴火活動の特色

7:噴出物の岩石学的特徴

 八丈島火山の噴出物の特徴は,中野ほか(1991,1997),津久井ほか(1993)などによってまとめられている.東山火山の噴出物は,玄武岩から流紋岩にいたる広い化学組成範囲(SiO2 wt.% = 47 – 74%)を示すが,主体は玄武岩〜安山岩である( 第5図 第3表).流紋岩組成の噴出物は降下軽石及び火砕流堆積物中に含まれるのみで溶岩としては存在しない.玄武岩〜安山岩の噴出物は一般に斑晶鉱物として斜長石,単斜輝石,斜方輝石,かんらん石,チタン鉄鉱が含まれる.東山火山では,末吉ステージで玄武岩とデイサイト,中之郷ステージで玄武岩〜玄武岩質安山岩,三根ステージで安山岩とデイサイトと,活動ステージごとに噴出物のSiO2量が明瞭に異なる(津久井ほか,1993).一方西山火山は極めて狭い化学組成範囲を示し(SiO2 wt.% = 49 – 56%),三根ステージを除くほとんどの噴出物はSiO2 wt.% = 49 – 52%の範囲内に収まる( 第5図).いずれもソレアイト系列かつ低カリウムの玄武岩〜玄武岩質安山岩である.斑晶鉱物は斜長石,単斜輝石,少量のかんらん石を主体とするが,一部には無斑晶質な玄武岩も少量存在する.西山火山噴出物の主成分組成には,斜長石斑晶の濃集の効果の影響が強く見られる.すなわち斜長石斑晶の多い噴出物で,SiO2, MgO量が低く,Al2O3量が高いといった特徴が見られる.西山火山の大越ヶ鼻ステージの山頂部の降下スコリア,富士登山道ステージの船付鼻スコリア丘堆積物及び溶岩流,そして西山火山最新の噴出物と考えられる富士登山道スコリア丘堆積物,降下スコリア層及び溶岩については,それぞれ化学組成上区別できる.富士登山道スコリア及び溶岩については,SiO2量やFeO*/MgO比がそれ以前の噴出物よりやや高い特徴を示す.微量成分組成でも,千畳敷ステージ以降の噴出物は極めて狭い組成範囲を示し,時間的な明瞭な変化は認められない.一方,三根ステージの噴出物はそれ以降の噴出物と有意に組成に異なるものがある.小島火山の噴出物は,玄武岩質安山岩〜安山岩で,これまで採取された噴出物の化学組成は,極めて狭い範囲(SiO2 wt.% = 54 – 56 wt.%)を示す.斑晶鉱物は斜長石,単斜輝石と少量のかんらん石を主体とする.


8.噴火活動の特色

 八丈島火山の噴火に関する目撃記録は極めて乏しいため,過去の噴火記録からその活動を推測することは困難である.噴出物の特徴や噴火履歴から推測すると,現在の活動中心は西山火山である.西山火山はその円錐形の火山体から推測されるように,主に山頂火口からの噴出物の累積により形成されている.地質記録からも,西山火山は4,000–3,000年前ごろまでに陸上に成長し,3,000–1,000年前頃に多量の玄武岩溶岩流を噴出し火山体を急成長させたことが明らかである.そして近年まで山頂火口から繰り返し噴火していることが読み取れる.西山山頂で噴火が発生した場合,約700年前の大越ヶ鼻ステージの活動のような山頂火口からの火砕噴火と溶岩流の流出が繰り返される可能性が高い.急傾斜の山頂付近に多量の火砕物が急速に堆積した場合には,山麓まで到達する火砕流の発生も予想される.一方,最も若い富士登山道ステージの活動のように,西山山頂から放射状に発達する山腹割れ目噴火が発生することも十分考えられる.山腹割れ目噴火は,八丈町最大の市街地である三根地区・大賀郷(おおかごう)地区を含む西山山麓のあらゆる場所で発生する可能性があり,山腹割れ目噴火が発生した場合には割れ目火口からのスコリアの降下や溶岩流の流下が予想される.また噴火割れ目が海岸部に達する場合,マグマ水蒸気爆発が発生する可能性が高い.さらには,西山の海岸~沖合には1万年前以降に噴火したと見られる側火山が多数分布している.これら海岸〜沖合での海底噴火の可能性も考慮する必要がある.


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