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青ヶ島火山および伊豆諸島南方海底火山地質図 解説地質図鳥瞰図
5:島弧上の海底カルデラを伴う火山

 八丈島と鳥島の間には,海面下に6つのカルデラが報告されている.東青ヶ島カルデラ,北ベヨネースカルデラ,明神礁カルデラ,スミスカルデラおよび南スミスカルデラについては,地質調査船「白嶺丸」の調査によって初めてカルデラの詳細が明らかにされた(村上・石原,1985).最近Yuasa et al. (1992)によって鳥島の東方の凹みもカルデラ(鳥島カルデラ)であることが報告された.このほかにも,八丈島の南方約40kmに位置する堆上の小さな凹地についてもカルデラである可能性が指摘されている(藤岡ほか,1992).

東青ヶ島カルデラ:東青ヶ島カルデラは,青ヶ島の東方約12kmの32°27'N,139°54'Eに位置し,カルデラ縁の大きさは約5.4×9.9kmである.カルデラ床の水深は600-800mであり,その直径は約4×7.3kmである.カルデラ壁の傾斜は緩く平均14-20°である.外輪山まで含めたカルデラ全体の形状は,北北東-南南西方向に長軸を持つ楕円形である.外輪山の山体は北部と南部で大きく,海底地形名はそれぞれ第2東青ヶ島海丘と第3東青ヶ島海丘である.音波探査断面図上で第1層は成層しており,カルデラ内において第2層を不整合におおう.第2層はカルデラ壁において断層によって切られており,カルデラが第2層の陥没によって形成されたことを示している.カルデラ壁は侵食により開析が進み,カルデラの年代が他のものより古いと思われる.ブーゲー重力異常はカルデラ中央部において最も高い値を示し,このカルデラが高重力異常型であることを示す.北の方で負異常,南の方で正異常を持つ顕著な双極子型の磁気異常がカルデラの南部で認められる.

北ベヨネースカルデラ:北ベヨネースカルデラは青ヶ島の南南東40kmの32°06'N,139°51'Eに位置し,明神海丘上に形成されている.カルデラ縁およびカルデラ床ともその形状は円形に近い.カルデラ縁およびカルデラ床の直径はそれぞれ4.3×6.0kmと2.4×3.8kmであり,東青ヶ島カルデラに比べてひとまわり小さい.カルデラ床の水深はおよそ1,300mであり,カルデラ内に中央火口丘が形成されている.外輪山の頂上の水深は一般的に600-700mであり,最も浅い所では364mである.カルデラ壁の比高は700-900mと他のカルデラに比べて大きく,さらにカルデラ壁の傾斜も20-30°と急である.音波探査断面において第1層は成層しておりカルデラ周囲で厚く堆積する.カルデラ壁は第1層からなり,断層によって切られていない.このことからこのカルデラは陥没カルデラではなく,最大厚さ700mの第1層からなる火山体の中心にある噴火口の可能性もある.ブーゲー重力異常はカルデラの中央部において相対的に高い値を示し,高重力異常型のカルデラと考えられる.このカルデラにおいて,顕著な磁気異常は認められない.

明神礁カルデラ:明神礁カルデラは31°53'N,139°59'Eに位置し,明神礁およびベヨネース列岩を外輪山の一部とする.カルデラ縁は円形に近く,その直径は7-9kmである.カルデラ床は5-6kmの直径を持ち,水深900-1,000mである.カルデラ壁の比高は1,000m近くあり大きく,傾斜も急である.カルデラ内には大きな中央火口丘が形成され,その頂上の水深は330mである.カルデラ壁下部は,第2層からなり断層によって切られている.このことはカルデラの形成が第2層の陥没によることを示す.

明神礁:明神礁は最も活動的な火山礁であり過去爆発的な噴火を繰り返している(Morimoto and Ossaka, 1955;小坂,1991).1896年には波浪礁の存在が確認され,1906年には噴煙が目撃された.1915年には水深10mの浅瀬となり,海中噴火が起こった.1934年には海水変色と硫黄臭が報告されている.1946年には水平規模200m×150m高さ100mの新島が形成されたが,沈下し波浪礁となった.1952年-1953年には大爆発を繰り返した.1952年9月16日に噴火が始まった.翌17日には新島が出現し,18日には水平規模150m×100m高さ30mにまで成長した.21日には噴煙が5,000mに達し,22日には新島は小岩礁になっていた.23日には大爆発を起こし噴煙が6,000-10,000mに達し島は消失した.24日の大爆発では,28分後に八丈島八重根港で波高0.9mの津波を記録した.このとき明神礁を調査中の海上保安庁の測量船第5海洋丸が遭難し31名が殉職した.翌25日に八丈島全域に降灰があった.10月には新島が再出現し高さ最大で80mに成長した.1953年には新島の高さが最高で120mに達し,1月-9月まで爆発が続き新島出現水没を繰り返した.3月に青ヶ島から爆発や噴煙を確認できることがあり,八丈島では約1週間にわたり津波を記録した.8月24日には青ヶ島で大爆発を望見することができた.1954年,1955年には噴火が確認され,1957年には深海魚の死体が浮上し,1960年には再噴火し噴煙は2,000-3,000mに達した.1970年には10年ぶりに噴火した.付近を航行中の第2海徳丸は「1月29日噴火直前に海水の変色域が認められ硫黄臭が感じられた.爆発の約1時間前には異様な海鳴が船体に感じられ避難した.」と報告した.1月29日から5月頃まで爆発が断続的に続き,ときおり環状の波浪礁が確認され,水深約10mにまで溶岩円頂丘が成長していた.4月23日の噴火では幅300-500m高さ1,000mの水柱が目撃され,噴煙は2,000mに達した.1月の噴火直前の魚群探知機の映像では,直径約200mの溶岩円頂丘の中央付近に直径約30mの溶岩の尖塔が海面下約40mにまで突き出していたが,4月の噴火直後の魚群探知機の映像では,最頂部は水深50-55mの深さになり,直径約100m深さ約60mの欠損部が生じていた.その後,1971年,1979年,1980年,1982年,1986年,1987年,1988年に海水変色が確認されている.

スミスカルデラ:スミスカルデラは31°29'N,140°03'Eに位置する.須美寿島(標高は136m)はその外輪山の一部である.カルデラ縁は円形に近い.カルデラ縁およびカルデラ床の大きさは,それぞれ6.6×8.3kmおよび5.0×6.2kmである.カルデラ床の水深は800-900mである.カルデラ壁の比高は最大で700m程度であり,その傾斜は平均32°と急である.第1層は成層しており,外輪山東側斜面において表層の内部構造が乱されており海底地滑りの形態を示す.第2層はカルデラ壁において断層に切られており,カルデラの成因が第2層の陥没によるものであることを示唆する.ブーゲー重力異常は,カルデラ中央部においてその周辺より約25mgal高い値を示し,高重力異常型のカルデラであることを示す.北の方に負異常,南の方に正異常を持つ双極子型の顕著な磁気異常は,須美寿島付近においてみられる.須美寿島の南西方で,1870年に新島が形成された.1916年には爆発音と黒煙が目撃され付近に降灰があった.1923年の測深では新島は消失していた.1975年,1976年,1977年に海水変色が確認されている.

南スミスカルデラ:南スミスカルデラは,須美寿島の南方約20kmの31°16'N,140°04'Eに位置する規模の小さなカルデラである.そのカルデラ縁の形状はほぼ円形に近く,カルデラ縁の直径は2×3kmである.カルデラ床の直径は1×2kmであり,その水深は最大で842mである.外輪山の頂上の水深は270-500mである.第1層は成層しており,カルデラの周囲に厚く堆積する.カルデラの外輪山は第1層が堆積してできた山体からなり,カルデラ壁には第1層が露出する.さらにカルデラ壁を切る断層は見られない.これらの特徴は北ベヨネースカルデラと同じである.

鳥島カルデラ:鳥島カルデラは,鳥島の北北東約5kmの30°32'N,140°20'Eに位置する.カルデラ縁の直径は約4kmでありカルデラ床の直径は約1kmである.カルデラ床の最大水深は660mであり,カルデラ壁の比高は480mである.鳥島はこのカルデラの南側外輪山にあたる.カルデラ壁の傾斜は最大で20°であり南西側において急傾斜である.カルデラ壁は北西側で切れており,馬蹄型のカルデラである.第1層は成層しており,場所によってはカルデラ壁において第2層をおおう.カルデラ壁は断層によって切られているようには見えない.以上述べた特徴から,鳥島カルデラは陥没でなく山体の崩壊によって形成された可能性もある.

海底カルデラの岩石:上記の海底カルデラはいずれも酸性火山岩を産出するが,一部のカルデラでは玄武岩の産出も知られ,バイモーダルな火山活動が起こっている(第1表 第1表).東青ヶ島カルデラおよび北ベヨネースカルデラには安山岩質の岩石が産出する.東青ヶ島カルデラでは,カルデラ壁で斜方輝石デイサイトと単斜輝石斜方輝石安山岩が,北ベヨネースカルデラでは,カルデラ壁で普通角閃石含有単斜輝石斜方輝石デイサイトが,外輪山外側斜面で単斜輝石斜方輝石安山岩が産出する.次に明神礁カルデラでは,ベヨネース列岩で斜方輝石単斜輝石玄武岩が,明神礁で単斜輝石斜方輝石デイサイトが,中央火口丘で斜方輝石単斜輝石デイサイトが,またスミスカルデラでは,中央火口丘及びカルデラ壁で斜方輝石単斜輝石デイサイトが,カルデラ壁でかんらん石単斜輝石玄武岩が,須美寿島でかんらん石玄武岩と単斜輝石ドレライトが産出する.そして南スミスカルデラでは,カルデラ壁で単斜輝石デイサイトと斜方輝石単斜輝石流紋岩,外輪山東部の海丘で普通角閃石流紋岩が産出している.


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