青ヶ島火山 および 伊豆諸島南方海底火山
地質図 解説目次
1:はじめに - 青ヶ島火山
2:青ヶ島火山の地質と活動史 - 天明以前の火山活動
- 1781-1785天明の噴火
3:岩石
4:地下構造探査 - 火山活動の監視・観測
- 将来の活動と災害の予測
5:島弧上の海底カルデラを伴う火山
6:背弧リフト内の火山
- 海底火山活動の監視・観測・将来の活動と災害予測
7:文献(火山地質図での引用)
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6:背弧リフト内の火山 - 海底火山活動の監視・観測・将来の活動と災害予測
背弧リフト内の火山
本海底地質図の範囲内の背弧リフトは,その地形および構造から,北から八丈リフト,青ヶ島リフト,明神リフトおよびスミスリフトに区分される. 第6図は,各リフトを東西に横切る音波探査断面を示す.リフトを区切る東西の境界断層はP層を切っており,P層形成以後にリフトの形成が始まったことを示す.リフトの凹地内にも数多くの正断層が発達し,その一部はQ1層最上部まで切る.境界断層も含めて凹地内の正断層の走向は,N25°EからN30°Wの範囲にありほぼ南北方向が最も卓越する.スミスリフトの南須美寿海盆には,ほぼ南北の走向を持つ活断層が数条発達する(Murakami,1988).南須美寿海盆の堆積物の上部層は,海底カルデラか背弧リフトが供給源と考えられ,主として軽石からなることが深海掘削によって明かにされた.この軽石層は5つのユニットに区分されそれぞれの噴出年代が古地磁気学的方法と微化石より,上部より各々今から1,000,31,000,61,000,67,000および131,000年前と見積られた(Nishimura et al., 1992).活断層によるそれぞれの軽石層の垂直変位量は下部層ほど大きく,断層運動が各軽石層堆積期間中継続されていたことを示す.
背弧リフトの火山は,地形的に円錐状と南北に細長い海嶺状の山体の2種類に区分される.いずれも火山体の大きさは,火山フロント上の火山体に比べると小さく,円錐状火山が直径数km以下,海嶺状火山が長軸15km以下の大きさである.円錐状火山の分布は限られ,リフトを隔てる基盤の高まり域に分布する.さらにリフト内でもより西側に分布する.海嶺状火山は,リフトの最も若い活動域である中軸部において多く分布し,その他に,リフトに発達する正断層に沿って分布する.例えば,スミスリフトの南須美寿海盆に発達する活断層のひとつに沿って枕状の玄武岩溶岩が噴出している.その溶岩は,堆積物を貫き海底に顔を出し,高さ約100m,東西幅約800m,南北長約5kmの細長い高まりを形成する( 第7図).スミスリフト内の円錐状火山と海嶺状火山から採取された玄武岩について,それぞれ約0.6Maと0.05-0.3MaのK-Ar年代が報告されている(Hochstaedter et. al., 1990).
背弧リフトでは化学組成上バイモーダルな火山活動が知られている(Ikeda and Yuasa, 1989; Fryer et. al., 1990; 山崎ほか,1991).八丈リフトではかんらん石含有単斜輝石玄武岩と流紋岩が,青ケ島リフトでは単斜輝石かんらん石玄武岩と石英含有斜方輝石単斜輝石流紋岩が,スミスリフトでは流紋岩,単斜輝石かんらん石玄武岩,単斜輝石かんらん石デイサイトが産出する( 第1表).
海底火山活動の監視・観測・将来の活動と災害予測
本地域は海域のため定常的な観測ができない.これまで海面現象(海水変色,異常臭,軽石などの浮遊物)については付近の船舶からの情報に頼ることが多かったが,人工衛星からの観測も行われつつある.異常が発生したときには空中からの調査と,音響探査による海底地形の解析,火山ガスや岩石の化学分析が行われている.また,海底地震計やハイドロフォンが臨時に設置されることもある.
海底火山では火山礁をもつ場合ないし頂部が浅い場合は,水蒸気爆発を伴う噴火を起こす可能性が非常に高い.頂部の深度は時間と共に変化するので注意が必要である.現在最も活動度が高い場所は明神礁付近である.また,前述したように海底火山の爆発に伴い津波も発生する可能性がある.陸上での噴火の経験から,カルデラや前述した厚い軽石層の存在を考慮すると大規模な噴火を起こす可能性はないとはいえない.しかし,噴火の規模については海域のため地質的な調査が十分できていないのが現状である.