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地下水観測 −東海地震予知を目指して− |
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■ はじめに |
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私たちは、東海地震予知を目的として地下水の観測をリアルタイムで続けています。
最新の研究結果から、想定東海地震前に起こると考えられている地下水変化について
見てみましょう。 |
■ 「東海地震」とは |
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日本列島の南側にある駿河・南海トラフ沿いに、下図のように巨大地震が100〜150年ごとに発生しています。 このうち、下図のE領域(東端)が過去の巨大地震の震源域になっているにもかかわらず、1944年東南海地震の時に破壊されずに残りました。 E領域は最後の破壊のあと、150年近く経っていますので、いつ巨大地震が起こってもおかしくない状態です
(中央防災会議、2001a)。 このE領域を震源域として発生すると考えられているのが「東海地震」です。 地震の規模(マグニチュード)は 8程度と考えられています。
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「東海地震」の想定震源域は下図の青いの曲線
で囲まれた領域です。 駿河トラフからプレート境
界に沿って西に深くなり、浜名湖の真下までにな
ると想定されています(中央防災会議、2001b)。
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産総研・地質調査総合センターでは、この想定
震源域近くに10 地点15 本の地下水観測井を
展開しています。
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■ 地震予知のための地下水観測 |
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地下水観測は深さ150〜340mの深井戸で行っています。 井戸の近くには観測建屋を設置して、地下水位・地下水温のほか、気圧・雨量なども計測しています。 観測したデータは直ちに茨城県つくば市の産業技術総合研究所に電話回線を通じて送られます。 その後、いくつかのデータは気象庁に送られ、東海地震の予知のため24時間監視が行われています。
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なお、地下水位は気圧・地球潮汐・降雨によっても変化します。 私たちは、最新の統計学的手法をもちいて、観測した地下水位から気圧・潮汐・降雨などの変化を取り除く方法を開発しました(Matsumoto, 1992; Matsumoto et al, 2003)。 観測したデータが異常かどうかを判定する際には、上記のデータ解析の後の地下水位を用いています。 |
■ 東海地震前の地下の動き |
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最初の研究から、東海地震の前に次のような地下の動きが起こる可能性があるということが
わかってきました。
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■ ひずみ変化と地下水位変化との関係 |
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地面が伸縮する(ひずむ)ことにより、地下水位が変化します。 たとえば、右図のとおりに、地下水のある深さで体積が1m3あたり0.1cm3縮んだ場合、地下水位は場所によって0.01〜10cm変化します(Roeloffs,
1996)。 この関係を使って、地下水位で地下のひずみを測定します。 |
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■ 東海地震前に予想される地下水位の動き |
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最新の研究(Kato and Hirasawa, 1999)から、東海地震の前に、地下深くにある上側と下側のプレートの間で「はがれ」が起こり、地震を発生させない緩やかなすべり(前兆すべり)が起こる可能性があるということがわかってきました。 このような地下の動きがある場合、前兆すべりがおこる場所の直上での地殻ひずみのデータが右図のようになることが予測されています。
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気象庁は、2004年1月5日から東海地震に関連する情報を一新しました (内閣府・気象庁、2003)。 これによると、上で述べた前兆すべりによって体積歪計に「有意な変化」が観測された場合、「東海地震観測情報」「東海地震注意情報」「東海地震予知情報」のいずれかが発表されることになりました。
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前兆すべりが起こった場合に、私たちが観測している井戸の地下水位がどのような変化となるかコンピュータで計算した一例が、左図です。 榛原観測井の真下でマグニチュード6.5の地震に相当する前兆すべりが起こった場合、榛原観測井の地下水位が減少し、草薙観測井の地下水位が上昇します。 気象庁の体積歪計と同様な「有意な変化」が観測されるのは、榛原観測井で本震発生前の20時間前、草薙観測井で2時間前になります。 地下水位の「有意な変化」が観測された場合、東海地震に関連する情報を発表する際の参考データとして使用されることになっています。 |
■ もし本震前にゆっくりとしたすべりが起こったら |
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東海地震のの3日前に、想定されている震源域の一部(左図:ピンク色の部分)でゆっくりとしたすべりが起こった場合を考えてみます。
気象庁の体積ひずみ計では本震3日前(72時間前)から左の図のような変化が推定されています。 このような変化が起こった場合、本震の39時間前に「東海地震観測情報」が、24時間前には「東海地震予知情報」が発令されます(気象庁、2003)。
この場合、産業技術総合研究所が観測している地下水位データにも異常異常が検出されます。 榛原観測井では本震の22時間前に、草薙観測井では本震の1
時間前に普段の水位変化とは異なる「顕著な水位変化」が観測されます。 この情報は、気象庁にも送られ東海地震予知の参考データとして利用されます。
私たちの観測データはインターネットで公開しています(毎日1回更新)。
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■ おわりに |
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観測データのグラフは毎日1回自動的に更新され、インターネットで公開されています。
ご興味のある方はぜひ トップページ からご覧ください。
地下水観測ネットワークには、たくさんの方のご協力をいただいております。 特に、観測に関しては地元自治体や、住民の方のご協力が欠かせません。 ここに記して感謝の意を表します。
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≪参考文献≫
中央防災会議(2001a): 中央防災会議「東南海・南海地震等に関する専門調査会」第1回資料2、 http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/nankai/1/siryou2.pdf
中央防災会議(2001b): 中央防災会議「東海地震に関する専門調査会」報告、資料2-2、 http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/20011218/siryou2-2.pdf
Kato, N. and Hirasawa, T. (1999): A model for possible crustal deformation prior to a coming large interplate earthquake in the Tokai district, central Japan, Bull. Seismol. Soc. Am., 89, 1401-1417.
小泉尚嗣・高橋 誠・松本則夫・佐藤 努・大谷 竜・北川有一 (2005): 水文学的手法による地震予知研究-地下水変化から地震前の地殻変動を検知する試み− ,地震2,58,247-258.
気象庁(2003a): 東海地震に関する基礎知識、 http://www.jma.go.jp/JMA_HP/jma/press/hantekai/index.html
気象庁(2003b): 東海地震に関する新しい情報発表について、平成15年7月28日付報道発表資料、 http://www.jma.go.jp/JMA_HP/jma/press/0307/28a/20030728tokai.pdf
Matsumoto, N. (1992): Regression analysis for anomalous changes of ground water level due to earthquakes, Geophys. Res. Lett., 19, 1193-1196.
Matsumoto, N., Kitagawa G. and Roeloffs, E. A. (2003): Hydrologic response to earthquakes in the Haibara well, central Japan: I. Groundwater-level changes revealed using state space decomposition of atmospheric pressure, rainfall, and tidal responses, Geophys. J. Int., 155, 885-898.
松本 則夫・北川 有一 (2005): 想定東海地震震源域付近の観測井の地下水位の歪感度とノイズレベル, 測地学会誌, 51, 131-145.
Matsumoto, N, Y. Kitagawa and N. Koizumi (2007): Groundwater-level Anomalies Associated with a Hypothetical Preslip Prior to the Anticipated Tokai Earthquake: Detectability Using the Groundwater Observation Network of the Geological Survey of Japan, AIST, Pure Appl. Geophys., 164, 2377-2396.
内閣府・気象庁(2003): リーフレット「東海地震の予知と防災対応」, http://www.seisvol.kishou.go.jp/eq/index_leaflet_print.html
Roeloffs, E. A.(1996): Poroelastic techniques in the study of earthquake-related hydrologic phenomena, Advances in Geophysics, 37, 135-195.
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