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 産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門
           
解 説 資 料
地下水総合観測ネットワーク【概要】

地下水等総合観測-地震直前予知を目指して-

南海〜東南海地震のための地下水観測

紀伊半島〜四国周辺の地下水等観測施設の整備
「日本沈没」から生まれた研究者!?地下水は地震の情報屋!?

地下水等総合観測網による南海トラフの巨大地震の予測(PDF)

紀伊半島〜四国周辺の地下水等観測施設の整備
  
−東南海・南海および東海地震の予測を目指して−

東海・東南海・南海地震

東海〜四国の沖合にある駿河〜南海トラフでは、100〜200年程度の間隔で、M(マグニチュード)8クラスの巨大地震が繰り返し発生してきました。最近のものは、1944年東南海地震(M 7.9)と1946年南海地震(M 8.0)で、いずれも死者・行方不明者は1,000名を越えます。この2つの地震では、震源域が駿河トラフまで及んでいなかったので、駿河トラフでの巨大地震(いわゆる東海地震)が切迫しているとされ、大規模地震対策特別措置法(1978年)が制定され地震予知事業が始まりました。活断層・地震研究センター(当時)(旧地質調査所)は、当初から東海地方の地下水観測データを気象庁に提供し、東海地震の判定を行う地震防災対策強化地域判定会の説明員として国の地震予知事業を分担してきました。21世紀に入り、次の東南海・南海地震の切迫性が増すと、「東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」が2003年に施行され、同地震に対する観測施設の整備が求められました。このような中、活断層・地震研究センター(当時)は、紀伊半島〜四国周辺に新たな観測施設を2006年度から順次整備しています(図下:図1)。2009年度末には14箇所の整備が終了する予定です。

図1
図1 産総研の地下水等総合観測網


 新しい観測施設の概要とその狙い
 過去の南海地震前に、深い地下水と浅い地下水の両方で水位などが低下したことと、それらが東海地震の予知モデルである前兆すべり(地震直前の本震域周辺におけるゆっくりしたすべり)による地殻変動で、おおよそ説明できることから新しい観測施設では、1施設ごとに深度の異なる3つの井戸を設置して地下水を計測し、地殻変動や地震の観測も行いリアルタイムで産総研にデータを送っています(図下:図2)

図2
図2 新規観測施設の概念図


このような多機能の地下水観測網は世界にも例がありません。最近の地震研究の進展で、東海・東南海・南海地震の想定震源域であるプレート境界の深部延長(深さ30〜40 km)で、前兆すべりに酷似した現象(短期的SSE)が年に数回程度発生していることがわかってきました(図1の灰白域)。この短期的SSEのモニタリングと解析が東海・東南海・南海地震の予測のために必須と考えられます。すでに観測を開始した点では、短期的SSEに伴う地殻変動を検出することに成功しています。
 今後も観測網の整備を進めるとともに、短期的SSEのモニタリングとシミュレーションによる地震中期予測技術の開発、短期的SSEに伴う地下水変化の検出とメカニズム解明を行い、東海・東南海・南海地震予測精度の向上を目指します。






2009-03 p25より転載

写真
小泉 尚嗣
こいずみ なおじ

活断層・地震研究センター
地震地下水研究チーム長
(つくばセンター)
(2009.3現在)
高校生の時に本を読み映画も観た「日本沈没」(小松左京原作)の影響を受け、プレートテクトニクスと地震予知に興味をもちました。大学生時代に、地下水や地下ガスと地震との関係を研究するようになり、そして現在に至っています。地震予知は、純粋に理学的な課題をもつ一方、研究成果を応用するにあたっては社会学的な課題もあり、それが困難であると同時に興味を引かれる点で研究を続けています。


関連情報:
用語説明

「予知」「予測」について

「予知」は予(あらかじ)め知る、「予測」は予(あらかじ)め推し測(はか)るという意味で、前者の方が、より確実性が高い推定を表す言葉と考えられます。
 右記の文章では、観測や研究が進んでいる東海地震の推定については「予知」という言葉を、東海地震に比べて研究が進んでいない東南海・南海地震の推定を含む場合は「予測」という言葉を使うようにしています。