樽前火山地質図 解説目次
1:はじめに - 2:樽前火山周辺の地質 - 3:樽前火山の地形
4:樽前火山の活動史
5:樽前火山噴出物の岩石学的特徴
6:火山活動の監視体制 - 7:火山防災上の注意点
謝辞 - 主な文献
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5:樽前火山噴出物の岩石学的特徴
樽前火山の噴出物は安山岩〜デイサイト質の火砕物が中心で,軽石が卓越し, そのほかに灰色軽石や玄武岩質安山岩のスコリア, そして縞状軽石を産する. その中でTa-d2,Ta-c1,Ta-b0及び19世紀の噴出物ではスコリアが大部分を占める. 19世紀以降の噴火では溶岩ドームが形成されたが,それ以外の噴火では溶岩は確認されていない. 軽石やスコリアはTa-d2噴出物を除いて,斑晶量が20%以上の斑晶に富んだ安山岩〜玄武岩で, 主要な斑晶鉱物として斜長石, 斜方輝石,単斜輝石及び鉄チタン酸化物を含み, 苦鉄質側ではこれに加えてかんらん石が含まれる. またTa-c期では,それらに加えて普通角閃石斑晶が認められることがある. Ta-d2噴出物のスコリアは,樽前火山では特徴的に斑晶に乏しく,5%以下である.
樽前火山で最も卓越する噴出物はSiO2=60〜63%のデイサイトに近い組成の安山岩であるが、特にTa-c2やTa-b及びTa-aでは安山岩〜玄武岩質安山岩の噴出物も少量伴う. また第2及び第3活動期の後半の噴火での噴出物では,主としてSiO2が60%以下の安山岩から構成されるようになる( 第3表). それぞれの活動期あるいは活動期内のユニットで見ると, 噴出物はハーカー図上で直線的なトレンドを描き, それらは互いに区別できる. Ta-d1噴出物はSiO2=50.5〜57.5%, Ta-d2はSiO2=60〜63.5%, とSiO2量で区別できる. これらの第1活動期噴出物は, SiO2-K2O図で低カリウム系列,SiO2-MgO図でMgOに乏しい点で,他の活動期の噴出物とは明瞭に区別できる( 第6図). Ta-c期では,初期のTa-c1噴出物はSiO2=55〜57%と狭い組成幅であるが,Ta-d期と同じく低カリウム系列でMgOに乏しく第1活動期噴出物に類似する.しかし引き続いてのTa-c2以降の噴出物は中カリウム系列となり,MgOにも富むようになり,第2活動期の途中でマグマの化学組成は大きく変化している.Ta-c2噴出物はSiO2=51.8〜63.2%と広い組成幅を示し, Ta-c3ではSiO2=57〜58%となる.第3活動期はSiO2=55〜63%の組成幅があり,SiO2-K2O図ではTa-c2と類似しているが,SiO2-MgO図ではTa-c2と比べてMgOに乏しく,ハーカー図上のトレンドとして区別できる( 第6図).