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第四紀火山>活火山 >樽前
樽前火山地質図 解説地質図鳥瞰図
1:はじめに - 2:樽前火山周辺の地質 - 3:樽前火山の地形

1:はじめに

 樽前火山は後支笏カルデラ火山のひとつであり,約9000年前に活動を開始した新しい火山である.樽前火山は17世紀以降,少なくとも6回のマグマ噴火をおこなっている活動的火山である.西暦1667年と1739年の噴火は樽前火山の活動史を通じて最大規模であり,これらの噴火が周辺の社会環境に与えた影響は大きかったはずであるが,詳細な記録は残されていない.樽前火山は1909年(明治42年)の噴火以来,マグマを噴出する噴火をしていない.ともに17世紀以降に活発化した有珠・北海道駒ヶ岳火山が21世紀に入っても活発に噴火活動を続けているのに比べると対照的である.しかし地震・地熱活動はともに活発である.ここでは中長期的活動予測に資することを目的として,樽前火山の地質と噴火史をまとめた.なお樽前山の英文表記はTarumaiとして使われることが多い(Tanakadate,1917;土居,1957;曽屋・佐藤,1980;Simkin et al., 1981),これは江戸時代から「たるまい」と記録されたことによる(例えば,松前年々記).一方で,国土地理院の地形図及び気象庁(2005)の表記は「たるまえ」となっている.本火山地質図では国土地理院及び気象庁に従い,樽前の英文表記をTarumaeとするが,従来の研究との整合性を保つため,必要に応じて Tarumaiを付記する.放射性炭素年代は,暦年較正を適用し,ka(cal.)と表記する.年月日はアラビア数字が新暦(グレゴリオ暦),漢数字が旧暦での表記である.


2:樽前火山周辺の地質

 樽前火山は北側で風不死火山及び支笏湖と接する.東から南西側の広い範囲では支笏カルデラ起源の火砕流堆積物を覆い,南西側の一部で新第三系の堆積岩及び火山岩を直接覆う.新第三系はモラップ山南面及びシシャモナイ沢上流では後期中新世の泥岩及び砂岩が露出する(土居,1957).モラップ山,多峰古峰山などには鮮新世の安山岩が分布する.これらの岩体と同時期と考えられる支笏湖畔東岸の紋別岳(地質図外)デイサイト溶岩のK-Ar年代は2.5±1.4Maである(渡辺,1993).

 支笏湖は長径12km,短径6kmの繭型のカルデラ湖である.支笏カルデラの最初の活動はおよそ60ka,もしくはそれより古く,降下火砕物(Ssfa)と火砕流(Ssfl)を噴出した.スコリア流堆積物の分布はカルデラ南側に偏っており,カルデラの南部に噴出中心があった可能性がある.さらに40〜45ka頃には最大規模のカルデラ形成噴火をおこない,マグマ水蒸気噴火,プリニー式噴火から大規模火砕流を発生した(勝井,1959;山縣,1994;町田・新井,2003).プリニー式噴火の噴出口はカルデラのほぼ中央で,火砕流発生時にはカルデラ南西部まで火口が拡大したか,新たに開口した(Yamagata,1991).プリニー式噴火の降下軽石及び火山灰は道南地方を除く北海道全域を覆う.火砕流は全方向に流出し,北東から南西側にかけて火砕流台地を形成した.火砕流噴火の直後に比較的小規模な降下軽石(En-c)を噴出した(山縣,1994).これらの一連の噴火で径12×14km,北西‐南東方向にやや伸びた楕円形の支笏カルデラを形成した.カルデラ形成時の噴出量は375km3(140km3DRE:緻密岩石相当体積)と推定される(山縣,2000).

後カルデラ火山群:支笏カルデラの形成後,カルデラ内に恵庭,風不死,カルデラ壁上に樽前の3つの後カルデラ火山群が活動した.
 カルデラ南部で活動した風不死火山は山体の径6km,比高約1200mである.山体の中心部には厚い溶岩流と溶岩ドーム群が,山麓部には火砕流及び再堆積物が分布する.山麓部の火砕流堆積物は,中心部の溶岩ドームや溶岩流の先端部が崩壊することによって発生した.およそ25〜26 ka(cal.)の恵庭b降下軽石堆積物(n.En-b)は従来恵庭火山由来とされてきたが,軽石の岩石学的性質及び等層厚線の形状から風不死火山起源とされた(中川,1993).n.En-bが新鮮な安山岩溶岩の類質岩片を含むことから,風不死火山は26ka(cal.) 以前に活動を開始していた可能性が高い.

 恵庭火山はカルデラ北西部で活動した.およそ19〜21ka(cal.)には恵庭a降下軽石(En-a)を噴出した(町田・新井,2003).しかしEn-aが新鮮な安山岩溶岩の類質岩片を含むことから,それ以前に活動を開始していた可能性が高い.最新のマグマ噴火は約2000年前である(中村,1973).最新の噴火は17〜18世紀に少なくとも3回の水蒸気噴火で山頂火口群を形成し,既存の山体の一部は岩屑なだれとして支笏湖に流入した(中川ほか,1994).


3:樽前火山の地形

 樽前火山の山体は溶岩ドーム(標高1041m),火砕丘及び火砕流堆積物の作る山麓緩斜面からなり,山体体積は約1km3である.山頂部は支笏カルデラ壁の南縁付近の上にあり,山頂北東側の大から沢で標高約400m,南側の樽前川で400〜700m付近に基盤の支笏スコリア流堆積物が露出することから,山頂付近ではおよそ400〜600m前後の高さのカルデラ壁が伏在していると推定できる.よって山頂東側の東山(1023m)付近では600〜400m程度が火山体の厚さとなる.火口西側の西山(995m)は山麓で鮮新世の安山岩が露出し,開析された地形を持つことから,鮮新世の火山体と,その表面を覆う厚い降下火砕堆積物からなると推定できる.火砕丘は20度前後の傾斜面をもち,厚い降下火砕堆積物と成層した火砕流堆積物からなる.火砕流堆積物のつくる山麓部は傾斜5°前後の単調な緩斜面をなしており,北及び北西側の緩斜面は支笏湖面下まで伸びている.火砕流堆積物の表面にはローブや条溝など流走方向を示す微地形が保存されている.火砕丘の頂部は直径1.4×1.2kmの大型の火口で,南東側内壁の傾動による二重山稜地形がある.火口内部は中央火口丘と呼ばれる平坦な火砕丘が火口を埋積しており,その中央には最大径約450m,比高約120mの溶岩ドームがある.


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