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諏訪之瀬島火山地質図 解説地質図鳥瞰図
4:歴史時代の噴出物 - 5:噴出物の岩石学的特徴

4:歴史時代の噴出物

 歴史記録の残る諏訪瀬之瀬島火山の噴火は1813年以降に限られる.これらの噴出物は新期御岳火山噴出物に属する.

4.1 文化噴火とその噴出物
 文化噴火(1813年)は,現在の御岳山頂付近から南南西に伸びる稜線に沿った火口列で発生した大規模な火砕噴火である.陸上の堆積物量から見積もった文化噴火の噴出量は108 m3DRE程度と推定される (嶋野・小屋口,2001).噴出したマグマは玄武岩質安山岩組成 (全岩SiO2量約56 %)を持つ.

 嶋野・小屋口(2001)は,噴出物の特徴から噴火の推移を PhaseIからPhase IIIに区分した( 第6図 第7図).それによると, 噴火は南山腹での小規模な水蒸気噴火〜ストロンボリ式噴火で 開始し (Phase I),その後割れ目噴火の拡大により山頂部からの準プリニー式噴火 (Phase II) に移行した.噴火の末期には大 規模な山体崩壊が生じた (Phase III).

 Phase Iの活動は,トンガマ付近から噴火が発生し,島南部 を中心に降下スコリア〜火山灰が堆積した( 第6図 第7図 のUnit A〜F).これに伴い,トンガマ火口周辺には小規模な火砕丘が形成された.Phase Iの噴出物は多数の降下ユニットからなり,発泡の良いスコリアに加えて,発泡の悪いスコリアや細粒火山灰からなる.Phase Iの末期から噴火終了にかけて,火砕丘の 一部が数回崩壊して火砕流が発生し,現在の集落付近を覆って 一部は海岸にまで到達した.

 噴火の最盛期であるPhase IIでは,トンガマ〜旧火口〜御岳山頂付近の火口列全体に噴火が拡大し,大規模な溶岩噴泉を伴う準プリニー式噴火に移行した.これに伴い旧火口-御岳火口周辺約20km2には強く溶結したアグルチネートからなる最大厚さ約80mの火砕丘が形成され,また発泡の良い降下スコリアが全島に堆した( 第6図 第7図 のUnit G).火砕丘の成長と同時に,南東側の テイサイバマ付近や作地カルデラ内南部などに到達する複数の火砕流が流下した.またアカヅミ・大船浜海岸に達する溶岩流が流下した.

 文化火砕丘堆積物は急峻な山体上に堆積したため,堆積中あるいは堆積直後のPhase IIからPhase IIIの間に地すべり的に滑落・流動した(嶋野・小屋口,2001).この地すべり堆積物はローブ状の地形を形成している(文化地すべり堆積物).大規模なものは,御岳火口西部から移動し水郷海岸に到達した水郷ローブがある.このほかにも文化火砕丘堆積物表面には堆積直後の 二次変形による多数のクレバスや滑落崖などが発達している.Phase IIIは噴火末期に生じた大規模な崩壊現象であり,御岳火口付近から作地海岸に達する岩屑なだれが発生した.この崩壊による文化岩屑なだれ堆積物の層厚は海岸付近で約10 mであり,岩相・色調により3ユニットに識別できる.

4. 2 明治噴火 (1884〜85年)とその噴出物
 1884年10月に爆発を伴って活発な噴火活動が開始し,全島に軽石や火山灰が降下したほか,御岳火口からは大量の溶岩流 (明治溶岩)が噴出した.噴火は翌1885年2月頃まで継続していたらしい.現在,この噴火による火砕堆積物は集落付近では 確認できないが,火口周辺には本噴火と考えられる軽石が認められるほか,明治期の記録を見る限り,このときまでに現在の御岳火口の位置に現在よりやや小規模な火砕丘 (径約450 m) が形成されていたと考えられる.溶岩流は御岳火口周辺からクロガイ海岸に至る作地カルデラ内の広い範囲に流下した.明治溶岩には多数のフローローブが認識され,その一部には表面に顕著な縄状構造が発達することから,パホイホイ溶岩状の溶岩流が徐々に流域を広げつつ流下したことが伺える.

4. 3 明治噴火以降現在までの噴出物
 明治噴火以降,御岳火口からは小規模なブルカノ式噴火やストロンボリ式噴火,灰噴火が継続している.諏訪之瀬島におけるブルカノ式噴火では,短時間の爆発によって火山灰を含む噴煙とともに火山岩塊が御岳火口から放出され,火口から数 km までの範囲に着地する.ブルカノ式噴火では,緻密な岩塊やバン皮状火山弾が噴出する.ストロンボリ式噴火では間欠的に赤熱した半溶融状態のマグマ塊が飛散する.2010年後半などストロンボリ式噴火が活発な時期には,非常に良く発泡した結晶度の極めて低い黄褐色のスコリア及び同質のフレーク状火山岩塊が噴出している.また,火山灰に富む噴煙を連続 して噴出する活動は灰噴火と呼ばれている.灰噴火によって 噴出される火山灰は一般にさまざまな発泡度及び結晶度のス コリア片からなり,緻密な岩片や結晶片などを含む.

 火口近傍に堆積した降下火砕物によって,御岳火口を取り囲む直径600m,比高約80mの御岳火砕丘が形成されている.またこれらの噴火によって,火山砂及び火山灰からなる降下火砕物層 が島の全域に堆積している(井村,1991).その層厚は御岳山頂付近で数m,火口から約4km離れた集落付近では約0.5〜1 mである.


5:噴出物の岩石学的特徴

 諏訪之瀬島火山の噴出物は,玄武岩質安山岩〜デイサイトからなり,その全岩組成範囲は主にSiO2=55〜67 %であり,SiO2-MgO図上では大きく3つの組成トレンドが認められる ( 第8図).(1) 明治溶岩は最も未分化な組成を持ち,それ以降の多くの噴出物はこれを端点とする1つの直線上にブロットされる.(2) 文化噴火噴出物を未分化側の端点とするトレンドには作地溶岩の大多数がブロットされる.(3)島の最北部の富立岳及び御岳中央東側のより古い山体を構成する噴出物は,富立岳溶岩を未分化側の端点とし最も分化した須崎溶岩をもう一方の端点とする直線と平行にブロットされる.さらにそれらと平行に御岳中央から南部の山体を構成する中期・新期御岳などの噴出物がブロットされる.これらは,それぞれ一連の結晶分化作用及び主として2〜3端成分からなるマグマの混合作用を経て噴出したものと考えられる.

 諏訪之瀬島火山の噴出物の斑晶量は19〜43%である.含まれる斑晶の大部分は斜長石で,少量の斜方輝石・単斜輝石・磁鉄鉱を含む.また,かんらん石が含まれる岩石や文化噴火以降の噴出物のように磁鉄鉱をほとんど含まない岩石も認められる.


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