那須火山地質図 解説目次
1:はじめに - 那須火山周辺の地質 - 那須火山の概要
2:那須火山の岩石
3:茶臼岳火山の噴火史と噴火様式
4:1408-1410年の噴火活動 - 近年の噴火活動
5:火山活動の監視体制 - 将来の活動の予測
6:謝辞 - 文献(火山地質図での引用)
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3:茶臼岳火山の噴火史と噴火様式
茶臼岳火山の噴出物はマグマの噴出を伴った6つのマグマ噴火ユニットと,マグマの噴出を伴わない12以上の水蒸気噴火ユニットで構成されている( 第4図).マグマ噴火は約1.6万年前(大沢ユニット),1.1万年前(湯本ユニット),8千年前(八幡ユニット),6千年前(大丸ユニット),2.6千年前(峰の茶屋ユニット)と15世紀の初頭(1408-1410年ユニット)に発生している.また,水蒸気噴火ユニットは,5千年前の沼沢-沼沢湖軽石の降下(給源は茶臼岳の北西50kmの沼沢火山)以降に堆積物が多数確認できる.これとは別に,茶臼岳火山の各噴火ユニットを噴出物の岩石換算体積(噴出物の体積を緻密な岩石に相当する2.5g/cm3に変換したときの値)で比較すると,岩石換算体積が1km3を越える大噴火が大沢ユニット,10-1-10-2km3の中噴火がこれ以外のマグマ噴火ユニット,10-2-10-3km3の小噴火が堆積物として確認できる水蒸気噴火ユニット,10-4km3以下の微噴火が堆積物として確認できない水蒸気噴火に階級分けすることができる.
茶臼岳火山のマグマ噴火ユニットには,マグマ噴火に先行する水蒸気爆発で始まり,ブルカニアン噴火による降下火砕物の堆積と火砕流の発生を経て,溶岩流の流出で終了する活動パターンが明瞭に認められる( 第4図).個々の噴火ユニットでは水蒸気爆発や火砕流などの発生が認められない場合もあるが,活動順序が逆転するような例はない.ブルカニアン噴火では,大噴火の場合,山頂から風下へ約10kmの範囲で層厚30cm以上の降下火砕物が堆積し,火砕流も谷沿いに山頂から最大約10km流下している.
一方,中噴火の場合は,山頂から風下へ10km前後の範囲で層厚15cm以上の降下火砕物が堆積し,火砕流も谷沿いに最大約6km流下している.また,中噴火による弾道放出物(火山岩塊や火山弾)の落下範囲は,火口から2.5km以内である.溶岩流の流下距離は,大噴火で山頂から5km程,中噴火では1.5km以下である.茶臼岳火山のマグマ噴出量の時間変化( 第5図)を見ると,最初の噴火(大沢ユニット)が最も噴出量が大きく,時間とともに一回の噴出量が小さくなる傾向が認められる.噴出物の化学組成を見ると( 第2図),大沢ユニットの岩石のSiO2量は58.5-62wt%,湯本・八幡・大丸・峰の茶屋ユニットの岩石のSiO2量は57-60wt%,1408-1410年ユニットの岩石のSiO2量は58.5-59.5wt%である.すなわち,最初期の大沢ユニットでは珪長質なマグマも噴出したが,これ以降の噴火では組成の良く似た安山岩を繰り返し噴出している.
水蒸気噴火ユニットは,主に降下火砕堆積物で構成され,火砕流や溶岩流の発生を伴っていない.小噴火による降下火砕堆積物の分布は山頂から5kmの範囲に限定されており,山麓に降灰したとする記録があっても,堆積物そのものはもはや現地で確認することはできない.また,降り積もった火砕物は粘土質の細粒火山灰に富み,降雨により土石流として容易に再移動したと見られる.