伊豆大島火山地質図(第2版) 解説目次
1:はじめに
2:伊豆大島火山の概要
3:伊豆大島火山陸上部の活動史
4:伊豆大島海域の海底火山活動
5:歴史時代の噴火
6:噴火活動の特色 - 防災上の注意点
Abstract
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4:伊豆大島海域の海底火山活動
4.1.伊豆大島周辺の海底火山
伊豆大島三原山山頂から周辺海底部にかけて,北西側,南東側それぞれ約20 kmにわたる火山列が形成されている (Ishizuka et al.,2014).北西側,南東側ともそれぞれがほぼ平行な複数の火山列が存在する.火山列を構成する火山は,概ね比高が約50‒100 m,底径が約300‒1,000 mである.これらの山体では,無人潜水船による調査により枕状溶岩や火山弾等の火山噴出物が確認されている.それぞれの火山体から採取された火山噴出物の岩石学的特徴は,火山列を構成している火山については伊豆大島火山のものと同様であり,山頂火口からの距離と関係なく,個々の火山列毎に共通の特徴を持ち,かつ中央火口の噴出物と概ね類似している (
第5図,
第1表).これは,海底の火口列の多く (地質図中のSyb,Sob,Og,Oxに該当) が,広域応力場に規制されて伊豆大島中心部の浅所マグマだまりから地殻内長距離マグマ移動により形成された伊豆大島火山の側火山であることを示している (Ishizuka et al.,2014).
一方西乳ヶ崎海丘 (Tba) は伊豆大島火山噴出物とは明瞭に異なり,東伊豆沖海底火山群と岩石学的特徴が類似するため,火山列とは起源が異なり,東伊豆沖海底火山群に属する火山と考えられる.このように,伊豆大島火山の海底側火口と東伊豆沖海底火山群は,一部分布域が重なるとみなすことができる.
北西側沿岸域 (海岸から2 km程度までの海底部) の詳細海底地形では,北西‒南東方向に配列する大小の火山体 (Og,Ox) が分布する (石塚ほか,2023;及川ほか,2025).比較的大型の山体は,比高100 m以上,底径1 kmを超えるが,浸食あるいは堆積物による埋積を被ると同時に,断層系による変位を受けている.一方はるかにサイズが小さく,比高20 m,底径100~200 m程度の地形の保存が良い山体が見られる.これらの山体形状の違いは,それぞれの火山体の活動時期の違いを表している可能性がある.
北西側沿岸域では,海岸付近に多くの溶岩流 (NId,Mi,Ak) とそれに伴う溶岩扇状地が認識できる.北西部陸上部にはカルデラ形成期以前 (約2,400~2,000年前) に形成された側火山が分布するが,そのうちの一つ,三峰のすぐ海側で顕著な溶岩流がみられ (Mi),海岸から1.5 km程度の位置まで流れている.浅い部分で縄状構造をみせるが,斜面を下ると複数のローブに分岐し,そのうちの幅の広いものが谷の中を下っている.先端部に近い部分で幅約70 m,高さ12~13 m程度であり,枕状溶岩が観察された.
北西側沿岸域のもう一つの重要な特徴は,多数の西北西‒東南東方向の線状構造が発達していることである.この構造に直交する反射法地震探査断面を見ると,これらは正断層系とみられ,表層の堆積物まで変位させているように見える (
第6図A).これらの断層は,ステップ状に変位することで盆地を形成している.最小圧縮応力方向が北北東‒南南西方向であり,それに直交する方向にマグマが移動,貫入して火山列が形成されていることを示唆する.
南東側では,波浮の沿岸域で多くの北西‒南東方向に火山体が配列する火山列が分布する (Syb,Sob,Ox).火山列を構成する火山体の比高20~50 m程度,底径は200~300 m程度である.加えて比高約10~30 mの北西‒南東方向に伸びる尾根状の地形も複数認められる.尾根状の地形について,無人潜水船による調査では,堆積物の被覆がほぼない新鮮なスパッターが分布し,スパッターのサイズは尾根の頂部に位置する割れ目に近づくほど大きくなることから,割れ目火口列と考えられる.また噴出物の化学組成の特徴は,後カルデラ期 (新期大島ステージ相当) の特徴を示し,1,500年前以降の火山活動により形成された可能性が高い.割れ目火口列の中には,15世紀のY4噴火により形成された側火山列の延長上に位置するものもあり,この噴火が海底にまで及んでいた可能性を改めて示すと同時に,島外で側火口列を形成するような噴火が繰り返し起きたことを示唆する.火口列に直交する反射法地震探査断面では,この地形を形成する噴出物は概ね最上位の堆積物と同時期と考えられ,最近活動した火山が多いと考えられる.これは前述の噴出物の組成からの活動時期の推定(Ishizuka et al.,2014)とも整合的である.南東沿岸域では,同じく側火山が多く見られる北西側沿岸域と異なり,断層による変位が確認できない.
南西側の千波崎沿岸域には,岬から沖に向かって南南西方向に約1.4 kmにわたって高さ約15~20 m,幅70~80 mの高まりが伸びる (Sob:
第6図B).千波岬付近に露出する噴出物は,火口近傍相の特徴を示すことから,割れ目火口からの噴出物と考えられる.この噴出物により構成される尾根状の高まりが南西方向に向けて海中まで伸びており,この陸上部の尾根状地形の特徴は海底部で観測されたものに近い.この割れ目火口から流出したと考えられる溶岩について,その下底直下の土壌中の炭質物から12,550年前の14C年代が得られたことから (石塚ほか,2023),この高まりは先カルデラ期 (古期大島ステージ相当) の活動時に形成された陸上から海底まで連続する割れ目火口列と考えられる.この時代には広域応力場が現在と異なり,現在とは異なる方向にマグマ移動が起きたことも指摘できる.
東側沿岸域では,浅い平坦な海底が沖に向かって張り出している.平坦面の反射法地震探査断面を見ると北部では成層した堆積物の下位に凹凸の激しい溶岩及び無層理の堆積物が明瞭に認められ (
第6図C),これらは先大島の筆島火山の火山体の一部 (Fdo) と考えられる.
4.2.伊豆大島沿岸域の火山活動時期
伊豆大島沿岸域において多くの溶岩流や火山噴出物により形成された地形を見出している.これらの噴出時期の推定を2つの手法によって試みた.1) 海岸部に露出した噴出物の年代決定を行い,地形的な特徴,連続性や岩石学的特徴から海岸の溶岩流や噴出物に対比できると考えた場合には,陸上噴出物の年代を割り当てる.2) 直接対比ができない場合で,かつ噴出物の採取,分析が可能な場合には,化学組成の時間変化 (Ishizuka et al.,2015;Usui et al.,2024) による年代推定を行う.伊豆大島南‒南東沿岸域には多くの溶岩流や側火山が分布する.神の根側火山を覆う溶岩やその西側に分布する溶岩流について約2,200年前の14C年代が得られ,層序関係から,神の根側火山 (Oc) の活動もこの時期と考えられる.一方神の根西方の2つの側火山 (Oc:八磯,赤岩) については,上位溶岩の年代について得られた制約と化学組成の特徴から,約4,000~5,000年前に活動した可能性が高い.さらに神の根側火口噴出物に覆われる溶岩が約3,000年前,差木地港東に露出する溶岩 (Sk) は,5,000年前頃に遡ることが明らかになった.南東部トウシキ海岸の溶岩については,これを覆う噴出物の年代から約2,000年前程度である可能性が高い.これら側火口から流出した溶岩流や,沿岸部に溶岩扇状地を形成している溶岩流について,陸上部との対比により,沿岸海底部の溶岩流の年代を見積もった.その結果,伊豆大島南~南東沿岸海底には,主に2,200~2,000年前 (トウシキ沖溶岩流,Ts) 及び5,000~4,000年前に流出した溶岩流 (差木地沖溶岩流,Sk;カキハラ磯沖溶岩流,Sk) が分布すると考えられる.同様の検討により,南西部野増地区の南の沿岸海底には13,000年前の鏡端溶岩流 (KbL) が,北西部野田浜や赤禿沖合には2,300~2,200年前の溶岩流 (三峰側火山溶岩流,Mi;赤禿火山溶岩流,Ak;北西沿岸部溶岩扇状地,NId) が分布することが明らかになった.
一方,北西部の乳ヶ崎沖や波浮港東方沖には,開析が進み,かつ山頂部が比較的平坦な火山体が複数確認できる (前章参照).これら火山の活動年代は得られていないが,海面低下期に山頂部の浸食が進んだと考えれば,約11,700年前以前に活動した火山である可能性が高いと推測される.
4.3. 東伊豆沖海底火山群 (伊豆東部火山群)
伊豆大島の西方及び北西方の海底では.伊豆大島火山の海底側火山と東伊豆沖海底火山群 (Tba,Td,Tx) の分布域が重なる.岩石学的特徴,特に全岩化学組成の特徴が異なること (例えば鉄マグネシウム比) から,伊豆大島火山噴出物と伊豆東部火山群噴出物は識別される (
第5図,
第1表,
第2表:Ishizuka et al.,2015).伊豆大島北西沖の西乳ヶ崎海丘 (Tba) 及び赤沢海丘東南東方の小海丘 (Tba) は,伊豆大島側火山の山体に接するが,伊豆東部火山群の火山と考えられる.この中で西乳ヶ崎海丘は比高約450 m,底径が約3 kmと周辺の伊豆大島火山の側火山に比べてはるかに大きい.地形的関係から,西乳ヶ崎海丘は分布域が重なる伊豆大島火山の側火山列より前に形成されたと考えられる.赤沢海丘 (Tba),門脇海丘 (Tba) といった海丘も伊豆大島火山の側火山列の延長上に存在するが,これらはその噴出物の化学組成から伊豆東部火山群に属する (
第5図:Ishizuka et al.,2015).詳しい形成年代は不明である.伊豆大島火山の海底側火山に比べ,東伊豆沖海底火山群の火山の方が大型であることが多い.

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